脱がせてどうしようと思っていたわけではない。ただ、脱がせてしまった。

 なつめは上半身を裸に向かれてなお、心配そうに俺の目を覗き込んでいた。

 「章吾、大丈夫か?」

 中性的な見た目の割に低い、いつものなつめの声。なつめだって、脱がされてどうなると思っていたわけではないだろう。ただの、悪ふざけの一環。

 でも、そのなつめの声を聞いた途端に、馬鹿みたいに欲情した。

 聞き慣れた声だった。小学五年生で声変わりしてから、ずっと側にあった声だった。それに欲情したことなんて、これまで一度もなかった。だから俺は、訳が分からなくなって、目の前が真っ赤になった。その赤も、性欲の色だったのかもしれない。赤い色が、瞼の裏でくるくる回る。

 「章吾?」

 心配そうにひそめられた、ちょっと掠れた声が、とどめだった。俺はなつめの肩を掴み、ベッドに押し倒した。

 ちょっと待て、章吾、おい、と、なつめが切れ切れの言葉を吐いた。

 やめてくれ、と思った。性欲が、とどめられなくなる。このままでは、小学校からの幼馴染の男を、本当に抱いてしまう。

 「黙れよ。」

 なんとか絞り出したのは、恫喝するような声音と言葉で。でも、いつものなつめなら、そんな声に怯んだりするはずはないのだ。だって、なつめだって俺の怒りに慣れている。長い付き合いだ。喧嘩だって、よくした。

 それなのに、なぜだかなつめが俺の声に従った。なつめはぴたりと口を閉じ、その代わりみたいに、俺から逃れようとしてか、身体を丸くして卵みたいに蹲った。

 黙ったなつめに、もう欲情する余地なんてないはずだった。俺は男だし、なつめも男だ。いくら顔がきれいでも、線が細くても、服を脱がせた上半身がきっちり男のものだった。

 それなのに、俺は無理やりなつめの下半身も裸に剥いた。なつめは抵抗してもがいたけれど、体格は俺の方がいいし、力もある。なつめの脚に身を乗り上げ、片手でなつめの両腕を捕まえ、もう片手でジーンズの堅い布地を引きはがした。

 なつめはなにも言わなかった。俺が恫喝した通りに黙っていた。ただ、その身体をがちがちに強張らせて俺を拒絶していた。

 その身体を、強引に抱いた。男を抱いたことなんてなかったから、なつめは本気で苦しかったと思う。俺はそのとき、はじめてなつめの涙を見た。

 なつめは、黙ったまま、身体を強張らせたまま、両方の頬に涙を流していた。それが痛みから来た涙なのか、怒りや屈辱、恐怖からきた涙なのか、俺には分からなかった。ただ、目の前の身体が欲しかった。

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