第22話 死の都攻略 前編

 もう一つ盆地を見つけられないか、一月ちょっと粘ったのですが、そう旨い話もなくて、さらに二匹パイナップル大蛇を獲ってから、死の都戦に向けた準備のために王都に帰りました。

 パイナップル大蛇は硬果蛇と名付けられました。

 亜竜の生き血を確実に採れるようになった手柄で、少将に昇進です。

 もう、階級はどうでもよくて、特務旅団長と呼ばれています。


 わたしが確認しないといけない書類仕事を終えてから、皆様お待ちかねのカマス頭猟です。

 予定日を発表した日にチケットは完売しました。

 今回は少将のレベリングで撃ち役にして、仕留めは全てバーチェス公子が行います。

 両陛下は普通に観戦されただけなのですが、王太子殿下は撃ち役をやった上に、硬果蛇狩りに行きたいと言い出しました。


「王都守備軍司令に聞いたところでは、比較的安全な場所におるそうな」

「トカゲ頭の狩り位置よりはましと言うだけです。王太子殿下をお連れ出来る場所ではありません」

 

 NOと言える女でありたい。

 ズルズルわたしに付いて来て、最終的には真竜にも一撃入れたいとお考えなのは明白なので、断ります。

 駄目なものは駄目と言えるのが本当の忠臣です。

 現在の支配階級との間は老師様その他の大人に頼っても良いけど、この方との関係はわたし自身が築かないといけません。


「更に言い募ったら、どうするつもりであった」

「撃ち合いでわたしに勝てたらお連れします、とお答えするつもりでした」

「的当てで敵うはずはないか」

「いえ、相対で撃ち合いです」

「それは予が死ぬだけだろう。そなたは予の風気弾では傷も付くまい」

「森にはそのような魔物がいくらでもいますから」

「死ぬ覚悟のない者は連れて行けぬか」

「ご明察恐れ入ります」


 第一関門突破です。最初が肝心。


 少将全員に撃ち役をさせて、死の都の先発隊の人選をしました。後半に行くほど戦闘がきつくなるのです。

 薬学科は可能な限り参加します。元々人が住んでいた場所なので、魔獣さえいなければ距離はそれほどありません。

 国の軍事行動なので、第一錬成科も参加します。壊れたり消耗した装備の修復なんかがありますから。


 死の都は幾つかのエリアに分かれていて、エリアの完全討伐をしてしまうとしばらくリポップしないので、普通の野営より安全なのだそうで、一応歩哨は立てるのですが、ダンジョンの結界には普通の魔獣は入ってこないのです。

 パワーレベリング目当ての文官も大量に付いて来ました。

 今まではそんなことはなかったのですが、やはり、わたしの力が期待されています。

 

 死の都までの道は比較的霊気が薄いため、大木が少ないので、前世の動画などで見たと思われる、地球のジャングルのようです。

 うま味がないのでほとんど採集者の入っていない密林の、大きな下草を切り開きながら、昼下がりに森の中に突然現れた半分崩れ落ちた外壁の門の前に着きました。

 外壁から百メートルくらい雑草さえなく、地面がむき出しです。空間的な境はないのですが、あからさまに霊的に別になっています。

 まず門前の地面を討伐して野営地を確保します。門の内側は別エリアで、刺激しなければスケルトンは湧きません。


 門番鳥は元がなんだったのかは判っていません。なんで元亜竜と思われるものが霊気が薄い一番手前に居るのかも。

 半分崩れた城壁の、向かって右側にオブジェのように止まっています。

 不用意にむき出しの地面に踏み込むと、中型犬サイズの四つ足のスケルトンが湧いて、同時に門番鳥が襲い掛かって来ます。

 結界の外からむき出しの地面に属性弾を撃って、雑魚スケルトンを倒してから門番鳥に挑むのがセオリーでした。


「では、嬢ちゃん、ぱるすで地べたを撃って見ておくれ」

「はい」


 レーザーが結界の外からの霊的な攻撃になるかの実験です。面攻撃の衝撃波では反応せず、射程距離が次点の風属性弾を撃って反応したら逃げて戦闘部隊と入れ替わっていたのです。

 門番鳥を刺激しないように左側を撃ちました。

 特撮映画で竜牙兵が生えてくるみたいに、地面から白骨が湧き出します。


「あれって生えてくる途中で攻撃しちゃだめなんでしょうか」

「途中のを潰すとまた生えて来て、結局終わるのが遅くなるだけなんじゃ。出終わったのを撃っても、それの破片が途中のに当たると生えるのが遅くなるで、草に乗ったのからやっとくれ」


 セネアチータ殿と二人でパルスを浴びせます。最弱の雑魚なので当たると砕けますね。衝撃波の射程に入るまで撃って、衝撃波持ちの騎乗者を乗せた咆哮の出来る乗騎と入れ替わりました。

 騎乗者と乗騎が交互に衝撃波を迫ってくる骨の群れに浴びせて、全部砕きました。

 なんだか飛び散った霊核を拾う方が時間が掛かりそうです。


「なんじゃよ、こりゃ。属性弾も要らんのか」

「かなり結界から離れた処で攻撃出来ましたから。門番鳥が同じように誘き出せるなら、今までとは段違いに楽に戦えますね」


 主戦力を率いているエレガンティナ閣下が、老師様とインディソルビリス閣下と相談しながら隊列を変更しました。

 衝撃波部隊を下げて、属性弾闘気弾と同時に一斉攻撃です。


「よし、嬢ちゃん、やっておくれ」

「はい」


 動かないのにわたしを睨んでいるように思える眼窩を狙い撃ちました。揺るぎもしませんが、命中より少し遅れて、霊障壁に衝突した爆発音が聞こえました。

 ぐわっと言う感じに嘴を開いて、衝撃波を吐いたのが空気の揺れで判りますが、届くわけがありません。


 所謂天使が通るみたいな時間があって、あんぐり開けていた嘴を閉じて骨だけの翼を広げて浮き上がります。骨だけでもファンタジースキルの飛行力で飛べるのです。

 鉤爪が二本ある上に翼の支骨が八本あります。十本指のトカゲや鳥はいないのですが。

 飛行体制になる前にセネアチータ殿も眼窩を狙い撃ちましたが、やはりほとんど効いていないようです。

 真っ直ぐわたしに向かって飛んで来ますよ。パルスを撃ったら対咆哮用の盾部隊の中に逃げ込みます。


「衝撃波、射程に入り次第に撃て!」


 作戦変更で当たる攻撃から当てて行って、闘気弾の十字砲火で落ちました。


「行くぞ!」


 老師様に率いられた接近戦組に亜竜骨製の戦槌でぼこぼこにされて、あっという間に砕かれて粉になって、消えてしまいました。


「楽になる、とは思うたが、ここまでとは」


 わたしの拳くらいある霊核を拾い上げて、老師様が呟きました。


「どう致しましょう、入り口の広場を攻める時間も十分あります」


 老師様がエレガンティナ閣下、インディソルビリス閣下と再度相談して、この位置から門の中を撃ってみようと言うことになりました。

 入り口には門の上が崩れ落ちた瓦礫があるので、櫓を組んで撃ちます。


「おお、生えて来よる。結界から出るようなら撃っとくれ」


 大型犬サイズのスケルトンが結界から出て来たら撃ちます。最初はのろのろ歩いていたのですが、撃ったら走って来ました。

 やはり、両側で待っている遠距離攻撃部隊には目もくれずにわたし達に向かってきたので、十字砲火で殲滅されてしまいました。


  一人の負傷者も無く入り口の広場まで制圧出来たので、体力も心理的にも余裕がありますが、入り口の広場殲滅は、以前は二日目に一日掛かりでやる事だったので、流石に今日はここまでになりました。

 出入りがし易いように門の残骸を片付けたら、後はご飯食べて張ってもらったテントで寝るだけです。

 門の残骸は動くのですが、結界の外に出したり収納に入れると消えてしまい、数日後に元あった場所に復活します。


 ゆっくりご飯を食べて、個別に持って来た果物をラメール様とロンタノとムーたんに配ります。

 ラメール様もわたしに配って欲しがるので、十桶入りの収納を自前で買いました。

 飽きないように何種類か持って来ました。今日は、リンゴじゃないなと思うくらいにはリンゴっぽい大きな棗です。ムーたんは酸香果。

 食休みしていると、薬学科長がやって来ました。


「収納、空きがありますか」

「どのくらいですか」

「五桶程です。半生干しアンズを沢山買って来たのだけど、あると思うと食べてしまって。預かって貰えないでしょうか」


 干しアンズだけ五十キロって。王都なら食べ過ぎて気持ち悪くなっても構わないけど、野営地ではまずいと。

 最近生き血や死に立て血で儲けているので、そんな食生活をしているのですね。

 ほぼ完全毒耐性も、特定の食品の食べ過ぎには効果が無いようです。

 


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