第17話 過ぎたるは猶及ばざるが如し

 士官学校は人を増やして野営地を維持するそうですが、わたし達は一旦漁港に帰ります。獲物の解体が出来ませんから。

 トカゲ頭は九トン強ありました。一番大きなティラノサウルスがそんなもんじゃなかったかしら。

 解体組と製薬組は忙しいのですが、戦闘組は五日休みです。特に疲れてもいないので、二日後にもう一度湾の奥にレーザーを撃つ事になりました。今度は他所から来た商人達にも見せます。


 レーザー自体は派手で効果的だったのですが、大物は何も来ないで、網を入れたら大きなザリガニが獲れただけでした。ロブスターなので安くは無いです。

 あそこで漁が出来るだけでも有り難いそうですが。その後、ザリガニとカニと大きな貝も獲れるようになって、漁港は潤ったのです。

 安全のためにも年に一回くらいやって欲しいと頼まれましたよ。トカゲ頭と森廻りを減らせるなら、採集が安全になるので、野営地の恒久化もあるそうです。


 半年に一度ここに来て大物の掃討と湾へのレーザー照射をするだけでも、普通の准将なら十分地位に見合った国への貢献になると、老師様に言われました。

 あたしゃ普通の女じゃありませんや。


 五日の休みが終わって士官学校の戦闘選抜組を連れて、同じところに行きました。

 いるんですね。獲物を待ち伏せし易い場所なんでしょうか。あそこで獲らないので荒れないし。

 まったく同じ手順で老師様が石突を振り下ろしたまでは同じだったのですが、直後に突風が吹きました。

 薬学科長が、ロンタノのお母さんを急き立てて走り寄ります。


「死んでるうううう!」

「命の風が吹いて生きとったら怖いわ」


 薬学科長は泣く泣く死にたての血を採集しました。時間を気にしないでいいのでたくさん採れたようです。

 聞かないと一生聞きそびれそうなのでワイサイト教授に何を作るのか聞いたら、精神的な疲労も取れる体に良い麻薬、みたいな強壮剤だそうです。

 生き血極上、死にたて特上、収納に入れた死体から採った血上物くらいの違いだとが言ってました。

 亜竜の生き血が手に入ったのは、前回が初めてだったのですが。


 手加減はありえない、と言う事で、生きてたら儲け物くらいに思っとけと老師様は薬学科におっしゃいました。ガラデニア薬学科長みたいな人は甘やかしたらいけません。


 森廻りの仕留めを三人一組で士官学校選抜にもさせました。怪我人も出ずに七匹仕留められました。一匹一トン近くあるので、一杯一杯です。


「鹿の肥えたのでも獲ったら入り切らんで。港から十樽物を借りんとだめじゃな」


 トカゲ頭や森廻りが食べている一トン以上ある鹿がいるのですが、獲らずに帰ればいいんじゃないでしょうか。

 ウサギ一匹獲れなかったも困りますが、獲物が居過ぎるのも困ったものです。


 捕食者を獲ってしまうと鹿が急に増えるわけじゃないですが余るので、採集が危険になるらしく、獲らない訳にもいかないようです。

 じゃ、鹿だけ獲ればいいんじゃないかと思うのですが、亜竜が獲れるのに獲らないのもないんですね、わたしの周りの人達は。

 元締めは十トン物の収納の借り賃は八つ足の革でおつりも来ると言ったのですが、何か出来る事を聞いたら、沖の灘にレーザーを撃ち込んでみて欲しいと頼まれました。


「でけえ海蛇みてえのが棲み付いちまって、たまに岸沿いを通る船見てやがるんで。いい漁場だったのに、怖くて近付けねえんで」

「正体は判らんのか」

「面目ねえんすが、遠目な上に怖えが先に立っちまって」

「それは仕方あるまい。誘き寄せるのによさそうな場所はあるか」

「そっちは誂えたような所がありやす。五腕くれえの高さの崖の前が二十腕くれえの浜で。急坂ですが降り口もありやす」


 来なくてもいいから万全の準備をして行きました。漁港にいた、運が良いのか悪いのか判らない士官学校生も連れて行きます。

 崖の上にさらに五メートルの櫓を組んで、そこからセネアチータ殿と交互にぼこぼこレーザーを撃ち込みます。


「居るのは判ってるんでい! 出て来やがれ!」


 元締めが叫びます。どこの借金取りですか。ほんとに出て来ました。距離があるので大きさが判りません。

 顔らしきとこを撃ったら、大量に水を吐きました。水面に落ちずに消えたので、属性攻撃なのでしょう。

 撃ち返したら、水面に背ビレだけ出して向かって来ました。


「嬢ちゃん達、顔出したらぱるすじゃ」

「はい」


 だいぶ近付いて海面が盛り上がったのでわたしが撃ちます。一旦ひっこんで、パルスが切れるのを待ってがばっと出てきたところにセネアチータ殿が浴びせて、また引っ込んで背ビレだけ見せて向かって来ました。

 わたし達は櫓を降りて、老師様と衝撃波組が崖の端に立ちました。

 海中から一気に浜に上がろうと飛びだした大きな顔に衝撃波の十字砲火と老師様の闘気弾が当たって、二十メートル幅の浜の中程に落ちました。

 ノーメイクで怪獣映画に出演出来るゴツゴツで怖い顔をしています。


 怖い顔に闘気弾の雨が降る中、ラメール様を乗せたムーたんとバーチェス公子が崖を飛び降り、バーチェス公子が斬り付けた傷口にラメール様が細長い槍で電撃を流しました。

 太くて長い胴がぶくんと跳ねましたが、ムーたんが上手く回避してくれます。


「撃ち方止め!」


 崖を飛び降りた老師様が武器を戦槌に持ち替えて、頭より後ろを打ちます。活け締めですか?


「ラメール、もう一撃じゃ」

「はい」


 電撃を受けてもびくっとなったあと動きません。


「薬学科、まだ生きとる。どうする」

「行きます!」


 助教授を乗せたマンジェリコが先に飛び降り、ロンタノのお母さんが続きます。


「なんです、あれ」


 なぜかわたしの隣にいる元締めに聞いてしまいました。


「長オコゼだと思うんすが、あそこまででけえと魚の長えのは一纏めで竜魚っす」


 ウツボかなと思ってたんですが、オコゼだったんですね。

 十トン以上あって、その場でお腹切ってとりあえず腸とかを取り出して収納しました。

 腸や胃袋の中になにか良い物が入っているかもしれないので、浜に置いておきます。

 横取りに来るのを待ったら、シャチホコとはちょっと違う小型クジラサイズの古代魚が二匹、オルカアタックしてきて士官学校生に仕留められました。

 この魚の鱗で作った盾でも、鱗鳥が相手なら十分なのだそうで、野営地用になりました。


 オコゼなら高級魚なのですが、竜魚になってしまったものはどうなのか、薬学科長が試しに食べたのですが、美味しいだけでした。

 収納すると完全滅菌されるので、お刺身は普通に食べます。


「わたし、大概の毒には耐性がありますから」

「毒見にならんじゃろ。何のために食うたんじゃ」


 みんなの心が一つになるって、こんな感じなのですね。

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