第12話 日本人的休日の過ごし方

 様々な作業が一段落して、一服することになったのですが、また老師様が面倒な話を始めました。


「既に嬢ちゃんは大隊長で、今日も含めて以降は嬢ちゃんの仕事じゃ。亜竜の売り先は嬢ちゃんが決めるんじゃ」


 本来佐官は国王陛下に直接任官してもらうのですが、わたしは実績が疑いようもないので既に中佐で、任官式だけ後で行えばいいんだそうです。


「みんなの必要な分以外は国に引き取ってもらうんじゃないのでしょうか」

「知り合いの大貴族や商人に売っても良いんじゃ。切り売りするだけで莫大な儲けになるで。国に売るなら国王派になるが、それでよいなら報告だけで済む」

「大貴族も豪商も知り合いはいませんから、国に仕えている以外の意識がないです」

「いや、それなら安心じゃ。派閥と云うても然程険吞なものはないんじゃが、嬢ちゃんの一族は内務卿派かもしれんと思うとった」

「下っ端の小役人ばかりで、派閥なんて全く話がなかったです」


 大きく分けると国王派、宰相派、内務大臣派、外務大臣派、交易大臣派だそうです。

 宰相は大貴族がなることもありますが、現宰相閣下は王姉殿下の子で、宰相閣下自身が国王派と見なされているそうです。

 老師様は当然国王派です。近衛軍司令が違ったら、国が割れてますよね。

 ラメール様のお母様は外務大臣の娘の一人なのだけど、学究にならずに軍に入ったので一族の扱いを受けていないと言うお話は聞いていました。

 軍では時間が自由にならないだろうから、一族の会合などには出なくてよいとわざわざ書状が来たそうです。

 属性検査前のラメール様は、次の次くらいの学園長になれるのではないかと期待されていたので、その反動だろうと。


 老師様が首尾を報告したら、残りの二人の大将、近衛軍司令でバーチェス公子のお父様のインディソルビリス閣下と、王都守備軍司令のエレガンティナ閣下も獲りたいと言い出し、行き帰りが面倒なので、居続けることになりました。


「どちらも儂の弟子なんじゃが、全く、我儘な奴等ですまんの」


 今日のお前が言うな。


 そんな訳でまた三日お休みです。ロンタノが知られてしまって、市場を見て歩けなくなりました。

 薬学科の人達がずっと仕事をしているので、部屋に籠っているのもためらわれます。

 漁港より更に東の浜に流木拾いに行く錬成科に誘われて、ミューザレイヌ殿、セネアチータ殿と大鴎用の対空戦力として付いて行く事にしました。

 休みの日に知り合いの仕事を手伝うようなものですが。

 更に東に人間が入り込めない奥地から流れて来ている川があって、極稀ですが、非常に珍しい流木が手に入るのだそうです。

 遊びに行かないならと、バーチェス公子とラメール様は漁師と一緒に、増えた雑魚に寄ってくる大型の海棲魔物を獲りに行きました。

 老師様は網元に絡め捕られてしまって、家から出られません。


 クチバシの長いトンビみたいな普通のカモメなら対処出来る漁師の子も、流木の拾い役で付いて来ます。

 子と言ってもわたしより二つか三つ年下なだけですが、武人系なので男の子は雰囲気高校生くらいです。

 この時一緒に行った子達から「竜殺しの隊長は三本角の牛に乗っている」と言う話が広まって、隊長の乗騎は大きな子牛のイメージがなくなって、普段歩きやすくなったのです。


 東の浜には杭が立ててあって、その先は危険区域なのですが、歩行型の魔物は来ないので、大鷗さえ落とせればよい漁場です。

 杭を過ぎた所から、まず海の上を飛んでいる大鴎をセネアチータ殿と二人で落としました。


「あんなとこまで届くのかよ」

「躱せねえんだ」

「もったいねえ!」


 色々言っています。大鴎はそんなに強くはないけど、敏捷性が高くて風の属性弾も躱せるんですよ。

 霊核はないけど一応魔物なので羽毛が高級素材なのですが、砂浜の向こうの森からも来るはずなので、数を削っておく必要があります。

 海上の掃除が終わったらオリビエルが先頭になって、ミューザレイヌ殿が衝撃波で普通のカモメを落としながら進みます。

 漁師の子達は元気に走って付いて来ます。

 危険区域の杭がかなり小さくなった所で、トーアベヒター科長が車を止めました。


「この沖に小さめの浅い海盆がある。許可は取ってある、一撃入れて欲しい」

「はい」


 思い切り撃ったら、子供達が大盛り上がりです。

 海底に溜まった栄養が浮いて、漁獲量が増えるんじゃないかと期待されているそうです。

 

 浮いてきた魚を狙ってカモメが寄って来て、セネアチータ殿も混ざって、四人がかりで衝撃波を撃って蹂躙しました。

 海に落ちたカモメも魚も、潮の加減で浜に寄って来ます。

 一段落すると、今度は割と大きな口が海中から現れて、落ちたカモメを飲み込みます。

 トーアベヒター科長が用意してあった鉤縄を子供達に渡し、カマスっぽい一メートルくらいの魚が何匹も引き上げられました。

 カマス頭がいるんだからカマスもいるんですね。

 科長が纏め役の子を呼びます。


「分け前は頭割りで良いのか」

「貰えるんすか? 流木拾いの駄賃は先に貰ってやすが」

「これは、流木ではあるまい。では、折半で頭割りだな」

「ありやとらす!」


 なんか、人身把握が上手。最上位の教育者ですからね。

 みんな一生懸命流木を拾って、私達はカモメと大鴎を撃ち落とします。子供達の内、大柄な四人が熊手を振るって、討ち漏らしのカモメを追い払っています。

 作業している子に当たらないように、衝撃波を斜め上にしか撃てないので討ち漏らしが出るのは仕方ありません。

 見える辺りの流木を拾い終わると、科長は金属製の熊手を収納から出して、アサリを掘らせました。

 手の平ほどもあるアサリがごろごろ出て来ます。

 生きているので収納出来ないので、リアカーみたいのを出して樽に入れて載せて四駆に繋ぎました。

 限がないので時間で帰る事になりました。

 アサリは科長は道具を貸して運ぶだけなので、子ども達の取り分は八割です。


「カモメは獲物の横取りが煩わしいだけで、この場で危険なのは大鴎のみだ。レーザーの射ち手が増えれば、ここも良い漁場になる」

「でもよ、賢者の旦那、れえざの姐さんは二人とも百年に一人も出て来ねえって聞いたぜ」

「この二人は百年どころではないと思うが、光属性三級は何人かいる。三級で法術師になりたいとは思わずに協力は得られなかったが、カマス頭がこれ程安全に獲れるならば、後ろで見ているだけで能力は上がる。本人が法術師にならずとも、光属性適応の高能力者が増えるだけでも国益に繋がる。戦闘力のない文人が修行に来るようになるが、上手く相手をしてくれ」

「あっしら軍の旦那方に無礼はしやせん」

「いや、其方は通常と思っている事でも、都の文人ではそうは思わぬ事もある。漁師は陸の兵以上に命懸けの仕事ゆえ、打たれ強くするために無意味に罵倒したり理不尽な扱いをして子を育てる。其方等がなんとも思わぬ事でも修行の者が突然怒る事もあると思う。その辺りを心得ておいて欲しい」

「え、判りやした」


 判ったのかな。

 港に帰って、バーチェス公子とラメール様と合流しました。

 収穫を売るために入った買取所で、女子プロレスラーな人が纏め役の子を呼びました。


「こんな時間までどこほっつき歩いてたんだ!」

「今日は賢者の旦那の手伝いだって言っただろ」

「だったらさっさとそう言いな。どんだけ稼いだんだい」

「大浜アサリが四樽だ。八割俺らの取り分だぜ」

「じゃ、半分よこしな」

「なんでだよ」

「半分小遣いでいいって言ってやってんだ、ありがたく思いな」


 纏め役の子は諦めたのか、言い返しません。

 わたし、漁師の子無理だわ。父さま母さまの子で良かった。

 纏め役の子が戻ってきて、科長にこっそり言います。


「魚の取り分は、黙ってて下せい」

「承知した」


 アサリの代金から子供たちの取り分の半分を母親連が徴収して去った後、明日の打ち合わせがあるからと子供達を残して魚を換金して、取り分を渡しました。

 話は、明日はもう少し森の近くまで行く予定だと言うだけででした。

 買取所は日用品なら揃う結構大きな売店もあります。珍しい物が欲しいんじゃなければ市場に行かなくてもいいかな。

 解散して子供達は欲しい物を買いに行きます。 

 トーアベヒター科長がムーたんを呼びました。


「今日はそなたらの土産がないから、ガラテニアに口凌ぎを買って来るように言われた。好みがムーリアと同じなのだ」


 やっぱりそうなんだ。

 尻に敷かれていると言うより子供がお使いさせられているみたいなんだけど、この人最年少賢者だったわ。

 科長になる人は普通は孫がいても不思議はないし、この世界は女も妊娠可能期間が長いので、女性側が上の親子以上の年の差も珍しくはないのです。

 高能力の女の人は見た目で年が判らない場合が多いし、勿論年を聞いてはいけません。

 いるのかしらガラテニア科長の子。

 生まれた時からガラテニア科長の子なのも、かなりきついものがあると思いますが。

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