イケメン腹黒澄まし野郎

「おっしゃ、やりますか」


 色々と話しているうちに前半が終わり選手入れ替えを行い、ミッドフィルダーとしてピッチに立つ。ミッドフィルダーとはいえトップとディフェンスにサッカー部を置き、最低限のフォーメーションを維持しつつ他の人は適当に戦う作戦のため自由に動く。その結果……


 現在1対2の絶賛負け。うん、負けてるんだよなぁ。えっとサッカー部部長の……そう、田中がなんとか1点は決めたがその後調子に乗ったのか追い越されている。つまり、流れも完全にあちら側。


 などと考えている間にも活躍の場面はあまりなく、後半5分が経過する。そろそろ1点入れたいところだ。


 とはいえ、常に攻められ続けている。今もシュートを打たれたが、流石サッカー部と言うべきかキーパー鈴木が何とかゴール外へとボールを弾くもこのままではいつか追加点を入れられてしまうだろう。だが、コーナーキックとなり敵チームが皆ゴール前に集中している今こそがチャンス。


 よしっ!ディフェンス成功!狙うはこのままカウンターからの1点。コーナーキックをヘディングで返しそのままハーフラインまでドリブルで駆け上がり、相手陣地に残っていたディフェンスの前まで来る。


「こっちだ」


 お前は……!


「ほれ、田中決めろ!」


「任せろ三矢!サッカー部部長15番の実力見せてやらぁ!」


 15番かよ……。


 だが、15番とは言えどサッカー部はサッカー部、部長は部長。インステップから放たれた、俺のようなちょっと運動神経がいいだけのオタクじゃあ打つことの出来ない弾丸のような鋭いシュートはキーパーの指先に触れつつも勢いを弱めることなくゴールネットへと突き刺さる。


「うおっしやあああああ!これぞサッカー部部長の力!はっ!今、八重さんが俺の事見てなかったか?!ほら、あそこ!」


「マジじゃん!良かったな田中!!だが、羨ましい。懲役200年」


 お?あの人どっかで……あぁ昨日傘を忘れてた。八重さんって言うのか。今目が合ったような……まぁ気のせいだろ。


 今はそんなことより大事なことがある。


「よし、これで引き分け。流れは我らにあり!」


 打倒1組!


 結局、試合終了ギリギリのところでサッカー部部長の田中でもなく、キーパーの鈴木でもなく、かと言って俺でもなく……本気を出した楓がゴールを決め3対2で無事勝利を収めた。


 女子に見られテンションが爆上がりしたサッカー部を旗印に俺たちのクラスは高い士気のもと戦っていたが、相手クラスも中々に士気が高かった。


 なんせ、途中から「女子は渡さん」と口から漏らしつつ自らの死を厭わず攻めてきたからな。僕ら死兵ですと言われてもおかしくなかった。


「ふぅ、久しぶりに運動して疲れちゃったな」


「……いいところ持っていきやがって」


「まじそれな!お前最初っから本気出してたらもっと簡単に勝てただろ!?」


 まぁ、そうだろう。こいつわりかし何でもできる完璧超人だからな。


 でもこいつの行動原理はそこじゃないんだよな。


「僕は体力無いからね、勝つためには最後にかける。それしかないと思っただけだよ」


「つ、月城!そこまで勝とうと……すまん、俺今日までお前のことイケメン腹黒澄まし野郎だとばかり思ってたが、熱い男だったんだな!」


 田中、お前良い奴なのか悪いやつなのかわからん。でも、


「こいつは間違いなくイケメン腹黒澄まし野郎で合ってると思うけどな」


「よし、決めた。三馬鹿はちょーと絞ろうと思ってたけど、彩雫もついでに絞めるよ」


「ほら、そういうところだぞお前!」


 うん、今日も平和だ。あ、ちょ苦しくなってきたギブギブ。




 ―――放課後




「月城サッカー部どうよ?見学だけでいいからさ。もしなんならついでに三矢も」


「やっぱり時間なくなるし辞めとくよ」


「ついでなのがムカつくから却下で」


「うっはぁ、まじかぁ、知ってたけどさ。ま、諦めるとするわ。お前らが入ってくれたら今以上に楽しくなると思ったけど、しゃあないっしょ」


 やっと諦めたか、休み時間の度に勧誘に来たからな。まぁ楓が何故か悩む素振りしてたのは謎だったが。まぁ、楽しそうだと言ってくれるのは嬉しいが部活入ったらゲームやる時間無くなる。


「俺は行くわ。今日の俺はお前らに構っている余裕は無い!待っていてくれ八重さん!うおおおおおおお!」


「ふふっ、ゴホン。全く、騒がしい奴だね」


「……だな」


 八重さん……昨日傘を貸したからか?今日は異様に目が合う、気がする。体育の時もそうだったが、その後休み時間、移動教室、昼休みと続けざまに目が合った。勘違いじゃねぇぞ?俺はサッカー部の中とは違うからな。


だってそこにいるからな。佐藤どんまい。


 最初は傘のお礼でも言いに来たのかな?とも思っていたが、あの目は普段は楓によく向けられるものによく似ている。『私気になるんです!』という相手のことを良く知ろうとする目だった。だとすると、よしわかった。多分シャイな子なんだ、楓目的で見に来るも話しかけることができない……そしてよく見てみると隣には昨日傘を渡した俺がいる……ま、まずはお礼を言わないと、でも隣には楓がいて話しかけにくい。大体こんなとこだろう。という事は俺の方から話しかけに行けばいいということ。


「ふっ、俺も気が利くな」


「彩雫どうしたの?」


「ジゴロ野郎、スマンがちょっとあいつと話してくる。ここで待っててくれ」


 廊下からさり気なくこちらを覗いている女生徒、八重を指して一言言うやいなやすぐに向かう。


「酷い言い草だね、いきなりどうし……行っちゃったか。あいつって八重さんのことだよな。全く、ジゴロ野郎はどっちなんだか」


「なんか言ったか?」


 と後ろを振り向き尋ねる。


「いや何でもなーい。いいからはよ済ませろー」


 なんか言ってた気がするんだけどまぁいいか。


「八重さんだよね?いやぁ楓じゃなくて申し訳ないけど、なんか気にしてるようだったからさ」


「いえそんなこと……その、これ」


 と言いながらカバンから取りだしたコンビニのビニール袋を2つ手渡してくる。


 1つは俺が貸した傘だよな。もうひとつは何だ?


「お菓子か?」


「はい、ちょっとしたお礼ですので……気にしなくて大丈夫です」


 なるほど。中をチラリと確認するとたけのことかきのこ、あとポテチなんかが入っていた。


 本当にただその時のテンションで行動しただけだったし気にしなくていいのに……とも言えないな。先に気にするなと言われてしまったし。こういう時は貰っておく方が互いに後腐れないってもんだ。


「そ、それでは!」


 ん?本当にこれだけなのか?


「おう、じゃまた何かあったら言ってくれよ、こう言うの慣れてっから、おっしゃ楓帰ろうぜ」


「もういいの?」


「あぁ話すことは話したからな、ちょっと拍子抜けはしたが」


「ふうん、好きなの?」


「すき……Love?」


「うん」


「何故そうなる」


「いや、そうだよね。ごめんね彩雫に馴染みない単語出して。いきなり異性に興味を持ち出したのかと思って、ほら?彼女学年でも1番ライバル多いくらいには可愛いからもしかすると思春期真っ盛りな彩雫がコロッと一撃ノックアウトされるかもでしょ?まぁ、その様子だと違かったようだけど」


 ……うん、初耳。待てよという事は、学年でも1番にモテてる女子が他クラスのパッとしない男子に何やら手渡していると、いやいやそこまでならたまにある。そう『楓くんに渡しておいてもらえる?』と言うやつだ。でも今回は俺に、傍から見ていたら楓は関係無いに見えるだろうし。そうとわかった瞬間出てくる言葉は……


「何故だぁ!」


【リア充に憧れるモブAが勝負をしかけてきた】


 だよな。


 厄介なことになりそうな予感……というか


「誰だお前?」


「この人は禿田。自称禿げてない禿田だよ」


 おぉ、流石楓だ。なんでも知っているんだな。


「禿田じゃない!生田だ!」


「てな感じで禿げ扱いされてるんだけど最近本当に髪が後退してるみたい」


「はっ!何故バレてるっ!」


「トイレで独りだと思ったらダメだよ。気がついてないだけで実は他に人が居るかもしれないんだから」


「お前まさかあの時!」


 お?楓がウィンクを……なるほど、俺を置いて先にいけってか?さすが親友!今のうちに帰宅と。ありがとな楓。お前の犠牲は……ゲームするまでは忘れないぜ!

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