傾国鳥の蹴爪
powy
第一部 百姓のこせがれ
第一章 盗賊と幽霊 其ノ一
黄昏にはまだ早い。
日差しは鈍い刃となって
――首を落としてくれ、早く。
小鉄の祈りとは裏腹に、隣にいる盗賊一味の頭、
「助けてくれ! 俺は盗賊などではない、
叫び続けて声を
「おめえは物覚えがよく、機転が利く。良い盗賊の条件が揃った良い
幼かった小鉄を初めて褒めてくれた大人が、赤銅だった。
小鉄には、親などというものは最初からない。物心ついた頃には根っからの度胸と丈夫な体を
憧れの盗賊頭に褒められるのが嬉しくて、小さかった体を大人の入れぬ隙間に隠して盗み聞きをし、
自分を拾ってくれた赤銅に心から憧れた。警備兵を恐れず、手下を引き連れて悪事を働き、女を
五年も経つと、体格も腕っ節も人並み以上、一人前の盗賊となり、赤銅の隣で女を侍らせて酒を飲むようになった。
「小鉄よ、俺は須原の王になるぞ」
赤銅がそう言うのだから、本当に赤銅は王になるのだと信じて疑わなかった。
だがそれは、二日前までの話である。
盗賊赤銅とその一味は、隠れ宿にいたところを警備兵に取り囲まれ
「助けてくれ、俺は盗賊などではない、騙されて、脅されてここにいただけなのだ!」
宿から引きずり出された赤銅が叫んだ時、小鉄の世界が崩れた。憧れの人が
その後はがん字がらめに縄をかけられる間も、他の隠れ家や関わりのあった者について吐けと殴られ続けている間も、晒し者となっている今この時も、小鉄は自分も含めて全員の首を早く落としてくれと祈り続けている。
今日になってから、盗賊たちが
「俺を買ってくれ、買ってくれたら何でもする!」
と、変わった。
捕らえられた盗賊が斬首刑を逃れる方法が一つだけある。晒されている間に買い手がついた場合だ。盗賊一人当たり、
刑場に集まった野次馬は皆、首切りを見に集まっているのであって、金を出す者などいる訳がない。それすらわからないのかと、小鉄の中の絶望感が強くなる。
だが、野次馬の中から声があがった。
「買い手だ、買い手が出たぞ!」
一体どんな奴が盗賊などを買うのかと顔を上げてみると、一人の兵が、役人と話しているのが見える。
打ち首前の盗賊を買って立派な太刀の試し切りにでもするのだろうかと小鉄は思ったが、赤銅と兄貴分たちはそう思わなかったらしく、
「俺を買ってくれ、俺を!」
と、喚く声が一層大きくなった。
買い手の兵士と役人が、盗賊たちの前へと歩いてくる。兵士の表情は整った仮面のように冷たい。無表情なのだが、なぜか不機嫌なのがはっきりと伝わってくる。まだ、若い。
二人は、小鉄の前に立つ。役人が尋ねた。
「
「片目、片耳、指四本。それ以上またはその他であればいらぬ」
買い手がついても、無傷で斬首を
腕や手足を切られては重労働に就かせられないので、買い手は切り落とされる箇所によっては引き取らないと、事前に条件を提示できる。
日没、くじを引いた若い兵は自ら剣を抜く。赤銅と兄貴分たちの
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