第11話 純度100%

「……」ジー


ベットで横になったまでは良かったんだ。

軽く眠れる〜!ってとても良い気持ちだったんだけど、近くに椅子を持ってきてそこに座りながらジッと見つめられると気まずい…


見られてる感覚は不思議だよね、眠いのに寝ちゃいけない気がするんだ。


「あの、なんですか?」

「…綺麗だなぁって。」


なんか姉妹達みたいな事を言うなぁ…

気のせいであってくれ、あの優しさの化身みたいなしずく先生に戻ってくれぇ。


学校でも休めないとか地獄以外の何事でもないから。


「見られてると気まずいんですけど…」

「ごめんね、でも見てないとダメだって言われてるから目を離しちゃいけないんだぁ。」

「そうだったんですね。

…ちなみに目を離しちゃいけない理由を聞いても?」

「うーん…」


なんとなく姉妹達に近い雰囲気は感じるけど、話は普通に出来そうだから聞きたい事を聞く事にしたらめっちゃ悩んでる。


「怪我をしないように、かな?」

「流石にベットで寝てたら怪我しませんよ?」

「う〜ん、えっとね1週間に3回は保健室に怪我してくる栞華さんだから、わからないかな。」


ヤバイ、なんも言えない。

でも少しだけ会話したおかげか雰囲気が元に戻った気がする。


「最近、お姉t…姉と妹が過保護になっちゃって家でゆっくり休めないんですよね…」

「まぁ、あんな事になれば仕方ないよね。」


階段から滑って1ヶ月昏睡の事だろうけど、まぁ仕方ないのはわかってる…でもちょっとね。


「先生的には、あんな風になる前に相談して欲しかったな。」


うんうん。

あの2人も先生に話してみれば、気が楽になって怖い雰囲気を纏う事も無かっただろうな。


「変わってたかもしれないですね…」


家の中でも私の移動の手伝いぐらいで、抱きついてきたり一緒に寝たりするのはしなかっただろうね。


「今からでも遅く無いですよ。」

「…そう、ですかね?」


あの2人を見る限りだともう手遅れにしか思えないけど、カウンセラーの資格も持ってる先生が言うんだし本当になんとかなるのかも?!


お姉ちゃんは連れてくるのは簡単だ、どうにかして妹とも話してもらって解決までいければ快適な生活が帰ってくる!


「今度連れてきますね。」

「ん?誰をですか?」


「え?」「え?」


え?



ーーーーー


私の名前は白仁雫しらにしずく、とある学校で保険室の先生をやってます。


この仕事についた理由は、なんとなく、だったなぁ…

最初はそんな適当な理由だったけど、働いていくうち、将来に悩む若者を支える事ができる仕事だという事に気づいて誇りを持つことができた。


そんな私の人生の中で、今年は忘れられない年になりました。

それは決して良い意味では無く、どちらかというと後悔が多く残る年になってしまったんです。


目の前のベットで横になっている生徒、西川栞華さん。

かなりの頻度で保健室に来る、何故か怪我が絶えない子でした。


殆どが普通の怪我だったんですが、こんなにも高頻度で怪我をしているのに違和感を感じて何度かカウンセリングをして原因を探っていました。


全部、遅かった…


栞華さんが落ちてきたと生徒が職員室に飛び込んで来たとき、私は遂に来たかと思った。

そう、無意識に栞華さんがそういう事をするかもしれないって思ってたんです。


私がカウンセリングをしていたのだから予想出来たこと、クッキーを微笑みながら食べるところを見て大丈夫だと思いこんでいた。

本来ならちゃんと栞華さんのお話を聞いて、その苦しみを取り除いてあげる事が私の役目だった。


後悔が一気に襲ってきて落ち込みそうになりましたが、それ以上に嫌な物を見てしまったんです。


『事故ということで処理できるのでは?』


これが事態を把握した校長の言葉でした。


教職員達も責任という面を見たく無いのか校長の案に賛成する人が多く、その醜い会話を見た私は全てが崩れていくような感覚に襲われた。


御家族に連絡し、1週間の間は姉である西川菁華さんもお休みで校内の調査と印象操作は内々で全て終わらせられた後でした。

原因究明に来た警察の方の対応を校長と理事長が全て行い、徹底的に隠す為に動いたせいで外部に情報が漏れる事は殆どなく、生徒同士が噂をする程度で学校は元通りになった。


職員達は半分に割れていたが…


『こんにちは〜、お久しぶりですクズども。』


そう言いながら職員室に入ってきた菁華さんは教師達に殺意の籠った視線をぶつけていた。

そして、どこで手に入れたのか学校の不正の書かれた資料を見せ笑顔で言った。


『これ、バラされたく無かったら私の言うことを聞いてくれますよね?』


全員顔面蒼白て頷いていた。

資料には過去20年前から現在に至るまで勤めていた教師全員の情報が載っており、流出すれば日本では生きにくくなるのは間違いなかったからだ。


『気持ち悪い…』


思わず呟いた言葉は菁華さんに聞こえていたようで、


『雫先生はマトモなんだね。』


そう言ってくれた。


違うの、私はマトモじゃ無い。

そう言っても菁華さんは貴方はまだマトモな方だと何度も言ってきた。


『償って?』


最後に言われた言葉は私に刺さった。

その言葉が、できる限りのことを全てやってこの仕事を辞めよう、そう私に思わせるまで時間はかからなかった。


「…まいっか、雫先生、今日はよろしくお願いします。」

「うん、任せて。」


菁華さんが何処まで私に求めているかはわからない、私が考えつく全ての事をやろう。


それがクズの1人である私の考えた償い…



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

次回 睡眠妨害



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る