冒険者ギルドの受け付け ~おっさんの長い1日~

アルミ

第1話

今日もいつもと同じ時間、

俺の職場である冒険者ギルドに出勤する。



いつもと同じようにまずは、一服。

タバコではない。コーヒーだ。

ガツンと濃く深いブラックコーヒーを脳に注入。ちょっと目が覚めてきた。



ギルドでの俺の仕事は、事務でも解体でも実技教官でもない。


受け付けだ。


普通受け付けって言うと美人なお姉さんを想像するだろう。

うちも、どこのギルドでも、だいたいそうだ。


でも、俺は、男で、おっさんだが、受け付けだ。

ついでに言うと別にイケオジでもない。


その理由はギルド長にでも聞いてくれ。





冒険者ギルドは、業種柄24時間営業だ。


俺がコーヒーを飲んでいるこの瞬間も、職員、冒険者関係なく、この建物内の人間はせわしない。


朝は、ギルドのピークタイムのひとつだからだな。

依頼書を準備する職員、

少しでも割りのいい依頼を狙う冒険者、

飛び込みの依頼を持参し職員を急かす依頼人、

業務の引き継ぎをする職員、

受付嬢の顔を拝んでやる気を出すファン、

朝から嬢を口説いている奴もいるな。


誰も彼も己の目的を果たさんと大混雑だ。



俺は、そんなせわしない人たちを横目に優雅にコーヒーを飲んでいる。


何故か?誰も俺の受け付けに並ばないからだ。

それなのに何故受け付けなのか?

もう一度言う。


ギルド長にでも聞いてくれ。


俺が受け付けである理由は、受け付けである俺が一番謎なんだ。


知っていたらぜひ教えてほしい。






特にすることもないので、コーヒー片手に日課の人間観察にいそしむことにする。



まずは、職員からだな。


今日のメンバーは、勤務計画表通りのようだ。

ここで緊急業務があったり、欠勤者がいると計画表以外の人間が出勤しているため何らかの問題が発生したことがわかるんだ。

今日は問題なし。


次は、一人一人顔色を見ていく。

体調の悪い者、無理をしている者、不満のある者、顔色を見れば何となくわかるからな。

こちらも問題ないようだ。



それから、冒険者も見ていく。

どんな依頼を受けているか、どんな素材を持って帰ってきたか、その状態、いつも来ている時間に来ていなかったり・来ていたり、装備が違う、パーティーのメンバーが違う、傷が増えた、顔色がいい・悪いなど、気になることをどんどん見ていく。



こうやって見ていると、だんだん分かることが増えてくる。


一番分かりやすいのは、どのパーティーが将来有望かだな。

そう多くはないが、これを見つけるのは暇な俺の唯一の楽しみだ。


惜しいパーティーなんかはついつい口出ししてしまう。

きっとおっさんが偉そうにとか思われてんだろうな。

そんなこと考えはじめるとへこむ。止めよう。



そうそう、その将来有望なパーティーたちは、数少ない俺の受け付けの利用客なんだ。空いてるからな。


受け付けに並ぶ長い時間。

これをどういう風に過ごすのかが、有望なパーティーになれるかどうかの分かれ目だったりするんだろうか。





お、最近気になるパーティーが俺の受け付けを利用してくれるようだ。


俺のいる受け付けは、ギルドの正面に並ぶ長いカウンターの入り口から一番遠い。

混雑時には見えないため知っていなければ忘れられた存在だ。


そんな受け付けにやってきたのは、同郷の少年4人で組んだ新人パーティーだ。



「「「ボードさん、おはようございます!」」」


うぉ、朝から元気でまぶしい。おっさんはちょっと溶けそうだ。


「お、おはよーさん。今日も元気だな。」


「昨日、ボードさんが紹介してくれた依頼、ちょっと難しいかと思ったんですが、ボードさんがアドバイスしてくれた通りやってみたら上手くいきました!」


「本当か。そりゃ、よかった。

お前らの能力なら少し工夫すれば充分対応できると思ったからな。あれが出来たということは、訓練も真面目にやっているようだな。サボらず偉いな。」


「「「えへへ」」」



「今日はどんな依頼がありますか?」


「悪いが今日はお前らに丁度いい依頼はないんだ。

だから、復習がてらこれなんかどうだ?」



特にオススメしたい依頼もなかったんで、素材の回収を急ぐ依頼を紹介する。

こいつらからすると簡単な依頼だが、状態よく素材を納品するこつなんかを伝えながら手続きを進めていく。


この素材は不足気味だからギルドの貢献ポイントは加算されるはずだ。少しでもお得な依頼を紹介したいからな。


「じゃぁ、気をつけていってくるんだぞ。」


「「「「いってきます!」」」」



こんなおっさんにも素直にあいさつできるいい少年たちだ。是非、ランクを上げて稼いでほしい。

でもそれより何より、怪我や死亡は見たくない。つい口うるさいおっさんになってしまうが勘弁してほしいところだ。








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