第22話

リアを避けて10日。


この日も早朝から王城へ来ていた。


が、今日は何も業務をしに来たわけではなかった。


「ふむ。思った通りだ。素晴らしく似合っているよ、リーリス!」


早朝から昼頃にかけ、念入りに身なりを整え、レベッセンが用意した衣服に身を包んでいる私。


そう、今日は何を隠そうバッカス侯爵の夜会の日だ。


(流石に今日帰宅したらリアとは話さなければな……。セバスチャンからリアが来週に私と一緒にお茶会に出席留守ととある方に招待状の返事を書いたときいたし……。)


とはいえ、怪我も大分よくはなった。


ヘタな事をしなければ怪我の事実はそろそろ隠し通せるだろう。


(後は婚約式の事も考えないとな。流石にそろそろ婚約式をしておかなければいけないが……。)


もしレベッセンのいうようにバッカス侯爵に罪があり、拘束されたならその巨額の財産は王室預かりになり、その後被害者家族に慰謝料として分配されるだろう。


そしてバッカス侯爵が捕まれば――――――


(おそらくラヴェンチェスタ伯爵は手のひらを返したように私にリアを高値で買い取らせようとするはずだ……。)


そうなればファントムを差し向けることもなくなり、婚約式にも乗り気になるだろう。


金銭的規制先のターゲットを恐らくバッカス侯爵からヴァ―ヴェル公爵家に帰るだろうからな。


(本当にもののようにしか扱わず反吐が出るが、多少は奴のお遊びにもつき合ってやらねば……。)


油断させてファントムとのつながりの証拠をつかみ、断頭台にたたせるためには。


私はそう思いながら首に巻いているスカーフを整え、どこにでもいそうな平凡な貴族に変装したレベッセンと合流した。


レベッセン程の美しい男がこんな何の変哲もない男になれるものなのだろうかと感心しながら馬車でバッカス侯爵の屋敷に向かうと、気づけば日も暮れ、屋敷に到着していた。


「招待状を拝見します。」


侯爵家につき、馬車を降りると扉の前に立っていた警備に声をかけられ招待状を見せる。


そして――――――


「後ろの連れは王太子殿下の代理のもので、皇室の遠い親戚のドレイン・ブラートン男爵だ。彼の招待状はないが、王太子殿下より連絡が行っていると思う。確認を頼む。」


王太子の代理、という事で一見はバッカス侯爵の面子を守るために見える代役。


しかしながらその実の目的は人知れず公爵邸を捜索する事であるなど流石に警備にわかるはずがない。


「確認いたしました。お名前を呼ばせていただきます。」


警備の男は深々と頭を下げ、そして屋敷の扉を開けた。


パーティーは広大なエントランスホールで開かれているようで、大量の男性客たちが扉の先にはまっていた。


「リーリス・ヴァ―ヴェル公爵様、ドレイン・ブラートン男爵様、ご入場です!!」


ドレインを演じるレベッセンはひどく気弱そうに私の背に隠れながら入場する。


しかしそんなことは不要だったかもしれない。


レベッセンがバッカス侯爵を魅了するべく私を着飾ったおかげか、普段は嫌悪感むき出しの男たちの視線ですら恍惚そうに私に注がれている。


(正直、気分がいいものではないな……。)


カリア殿意外に見つめられたとて何も感じない。


が、だからと言ってあまりに不快感を表しては「ならばいつも通り来なければよかったのでは?」と不審がられる恐れがある。


私は不快感を隠し、真顔で入場した。


そして会場中の視線が私に注がれている中、レベッセンは静かに私から離れ人ごみにまぎれた。


(……私は美術品か何かか?じろじろと穴が開くほど見つめてくるとは……失礼な者ばかりだな。)


なんてことを思っていると私の前に一人の肥えた男が現れた。


(久方ぶりに見たが……確かにカリア殿の言う”デブ”という言葉が似合うな。)


酷く超えたその姿。


美しいものを愛するのであれば多少なり自分磨きもすればいいものを。


なんて思いながら胸ポケットに入れているチーフで無意識に顔を覆いたくなるが、私は冷静を繕い、その男に近づくのだった。

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