第3話

「うぅ……なんだか腰が痛い気がする……。」」


鳥のさえずりが聞こえ、目を覚ます。


なんだかよくわからないが頭がぼぉっとする。


(そもそも私は一体いつベッドで眠りに落ちたのだ?確か私は客間にて突然現れた令嬢のお相手を―――――――っ!!!)


突然来訪してきたカリア・ラヴェンチェスタ伯爵令嬢。


そんな令嬢が実は令嬢ではなくとても立派なものをお持ちな男でそんな彼にいろいろ許してしまったことを思い出す。


そしてそれを思い出した瞬間、私が着の身着のままのまま眠っていたこと。


また私に左側から何やら視線を感じることに気づいた。


もちろん気にせずにはいられないわけで急いで振り向く。


すると――――――


「おはよう、公爵様。」


可愛い天使のような笑みを浮かべるカリア殿の姿があった。


そんな可愛らしくも男性という事実がツボなのか一瞬あまりの可愛さというか、愛しさのようなものを感じてくらりとしてしまう。


が、私は何とか気を確かに持ち、彼を見つめた。


「こ、こほん。その、なんだ……おはよう。」


彼を見つめたはいいものの結局は何か恥ずかしくなり視線をそらしながら挨拶をする。


(何なんだ、この訳の分からない恥ずかしさは!!!)


今にも全身の血が沸き上がりそうな恥ずかしさだ。


「公爵様、早速で悪いけどこれにサインお願いね。」


「…………は?」


サインをお願いと言われ、枕の下から取り出された紙。


それは婚姻証明書だった。


「ちょ……ちょっと待て!なんだこれは!あれか!?責任をとれとでも言いたいのか!?」


所謂男が未婚の令嬢に手を出した際、令嬢を傷ものにした責任を取らねばならないというたぐいのものだろう。


が、世間的に見れば確かに責任をとらなければいけない状況だがその「責任」の本質を考えると「責任をとらなければいけない」というより「責任とる義務があるから結婚しよう。」という事なのだろうと思う。


「し、しかし、私はまだあなたのことをよく知りもしないわけで、そんな中こういうことを決めるのはいささか――――――」


「よく知りもしない?何言ってるの、公爵様。一番大事なことを知ってるよね。」


カリア殿はそういうと寝転がっていた状態から体を起こし、彼もまた一糸まとわぬ姿のその身を私へと近づけてくる。


そして私の胸元へと寄りかかってきた。


「貴族の夫婦生活において大事な事ってなんだと思う?公爵様。」


「……信頼、とかだろうか。」


夫婦は強い絆で結ばれるとよく聞く。


私は生まれてすぐに母親を失くしていた為「夫婦」というものはわからない。


だけど父上はなくなられた母上の事を最後の最後まで思い、昨年病に倒れ静かに息を引き取られた。


そんな二人から想像できる言葉を口にするとカリア殿は少しうなり始めた。


「う~ん、すこしは正解だと思う。だけどそれは貴族、平民関係なく大事なものだから貴族の夫婦生活において大事なものは別。」


カリア殿は別と言いながら私の胸部の中央あたりを人差し指で優しく撫でながら温かい息を私の肌に感じさせてくる。


ひどくむず痒いこの状況になんだかそわそわしてくる。


というか――――――


「カ、カリア殿。その、別にそういう意図はないと思うのだが、そういう風に触られては……その、いろいろ思い出してしまうというか……。」


大事な話の際中なのに思考が麻痺してくる。


カリア殿は私の肌をなでているだけなのにそれにひどく体の奥が熱くなってくるような感覚を覚える。


正直、やめてほしい。


私はどうやらこの感覚に弱いというのが理解できた。


そしてその感覚に溺れたら私はもう、正常な判断ができなくなる。


大事な話中にそれはまずい。


そう思ったその次の瞬間だった。


「公爵様、俺たち運命だと思うんです。お互いの身の上、好み、そして―――――」


カリア殿は暑い息を私の肌をなでるように吹き付けながら口元を私の首筋へと移動させてくる。


その温かくもくすぐったい息に身悶えし始めた矢先―――――


「貴族の結婚に必要な身体の相性も最高でしょ?」


彼は私の耳元で熱い息で私の耳を撫でた後静かに私を押し倒す。


……おかしな話かもしれない。


私は私を押し倒したカリア殿を見つめながら私が「女」であることをひどく感じている。


カリア殿の熱い吐息を感じていると女性にしては高すぎる身長も、女性にしてはつきすぎの筋肉も、女性とは思えないほどの可愛げのない性格や口調もすべてわすれて、ただの一人の男に翻弄される女だとひどく感じられた。


それに――――――


(ここまで私を振り回す男がいたなんてな。)


今まで出会ったことのない可愛い華に私はどんどん落ちていく。


私は綺麗な華改め、可愛い華には棘がある事をこの時はまだ知らないのだった―――――。

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