公爵様たちの秘密ごと。

鸞~ラン~

第1話

「公爵様、今日は結婚の申し込みに来ました。」


幼い頃から可愛いものが大好きな私。


そんな私の目の前に現れた天使のように愛らしい令嬢。


その令嬢は優雅に紅茶を口に含むととんでもないことを口にした。


でも、そんなことより衝撃的な言葉をこの後すぐに聞いた私は耳を疑った。


「だって公爵様は可愛いものはお好きなようだけど、恋愛対象は「男性」ですよね?」


誰にも言わなかった、言えなかった秘密を確信を持って語る令嬢。


これが私、リーリス・ヴァ―ヴェル公爵(♀)とカリア・ラヴェンチェスタ伯爵令嬢(♂)の出会いだった。






「ヴァ―ヴェル公爵様!!」


皇室主催の舞踏会会場に足を踏み入れると可愛らしく、また美しく着飾った華のように素敵な令嬢たちが私、リーリス・ヴァ―ヴェルを囲んだ。


リーリス・ヴァ―ヴェル17歳。


身長178センチ。


職業皇室騎士団白薔薇部隊の団長。


剣術には相当な自信があり、今までに負けたことがない。


そんな人間にあこがれを抱く令嬢はとても多い。


こうして華やかな催しに出席すれば私の両手はすぐに愛らしい華でいっぱいになる。


「令嬢方、本日もとても愛らしいですね。あ、こちらの髪飾り、もう少しよく見せていただいても?」


令嬢の一人の髪飾りがふと目に留まり問いかける。


すると令嬢は頬を真っ赤に染め、すこしうつむきながら頷いてくれる。


(あぁ……なんと可愛らしい。蝶の細工がすごく繊細でこの上なく素敵だ……。)


幼少期よりかわいいものが大好きな私は令嬢のかわいらしい髪飾りにうっとりと見惚れてしまう。


そしてそれと同時に――――――


(私もこういうのが似合えばよかったのだがな……。)


どう頑張っても自分には手に取れない品だと悲しくなってしまう。


「ヴァ―ヴェル公爵、国王陛下がお呼びです。」


「ん?あぁ、ありがとう。すぐ伺わせていただくよ。」


髪飾りに見惚れていると国王陛下の使いの方に声をかけられ返答する。


そして、私は令嬢たちに笑顔を浮かべた。


「とても残念だけど国王陛下がお呼びのようだから行ってきますね。皆さん、ではまた。」


手を振りながらその場を後にする私。


そんな私の姿を残念そうに見送る令嬢たちの表情はこう言っては何だけどとても可愛らしい。


(恋する女の子は可愛い、綺麗だっていうけど本当にそうだなって思うよ。)


離れたくないけど離れなければいけなくて切ない。


そんな感情がすごく伝わってくる。


そしてそんなにも切なげな瞳で見つめられると騎士として守ってあげたくもなる。


……だけど令嬢たちには正直、私に思いを寄せてはいけないと声を大にして言いたい。


そう、だって私は令嬢たちがどれほど臨もうが令嬢たちと結婚することはおろか、恋に落ちることすらできないからだ。


だって、私は――――――――


(はぁ……私も恋をしたら可愛くなれるのだろうか。普通の女の子みたいに。)


外見はどう見ても線の細い美人系の男。


そんな男とよく称されるリーリス・ヴァ―ヴェルは誰にも言えないけど、実は正真正銘の年頃の女の子だったりする。


だけどひょんなことから男として育てられた私は死んだ両親と国王陛下以外、誰一人として私を女と知る者はいないのだった。


そう、いないはずなのに――――――――





「……つまり令嬢は私に男色の趣味があるとおっしゃりたいんですか?」


国王陛下との他愛もない話を終え、パーティーから帰宅するや否や突然来訪してきた伯爵令嬢、カリア・ラヴェンチェスタ伯爵令嬢は私にとんでもない発言―――――


『だって公爵様は可愛いものはお好きなようだけど、恋愛対象は「男性」ですよね?』


と、顔を突き合わせて数分でぶっこんで来てくれたのだ。


そもそもだ、可愛いものが大好きな私は普段から可愛い令嬢たちをめでている。


もちろん、度を超えてしまわない範疇で。


そんな私を見た男性たちから「女好きの色狂い」や「魔性の女好き」などと言われていたりする。


そんな私に「実は男が好きなんでしょ?」なんて切り出してくる人がいるとは思わなかった。


思わなかったし――――――


(仮に私が男色を認めたとして、彼女には一体何が理になるというのだ?彼女はレディ。つまり男色の私に婚姻を申し込めば断られることなど考えるまでもないことだぞ?)


ひとつわかることと言えばこの令嬢はただの箱入り令嬢ではなく、ただの愛らしい天使のような天然な子でもない。


恐らくどちらかといえば策士のような子だと私の若くして公爵家を継いだ経験が語っている。


(はぁ……まずは要望を聞いてみるか。)


「……で、仮に私が男色としましょう。その場合令嬢はどう自分を売り込むおつもりで?まさか私を脅そうなどとは考えていらっしゃりませんよね?」


普通に考えれば「男色」とばらされたくなければ結婚してほしいという要望なきがするがたぶんそうじゃない気がする。


沢山の恋する女性の視線を浴びてきたからわかる。


この令嬢は決して私を「好き」ではない。


だとしたら絶対に嫌な相手と結婚させられそうでとりあえず男好きの男と結婚しておけば夫婦の義務は果たさなくていいという考え、とかなのだろうか。


だがそれだと正直何をゆすりの材料にされても受け入れるわけにはいかない。


(いつか適当に子を作るかして適当に生んで、実は結婚していたが妻が死んだ。みたいなシナリオで我が子を育てる予定なのだからっ……。)


「私生児」。


我が子を周りから白い目で見られてしまうようなそんな立場の子にするつもりは無い。


その為適当に信頼できる医者から妊娠の手術を受け、架空の妻を作り、結婚していたという事実が知られてすぐぐらいに妻が病弱で亡くなった。妻は辺境の令嬢だった。と、いう流れにしようと国王陛下と話を進めている。


はっきり言ってその計画を実行するにおいて男の恋人は必要だが妻はいらない。


なんてことを思いながら目の前に座る令嬢の言葉を待っていると令嬢はにっこりと笑みを浮かべた。


「公爵様は可愛いものがお好きですよね。だからきっと私を気に入ってくれるって思ったんですよ。公爵様、その理由をご覧に入れますのでしばし私が「どうぞ」と声をかけるまでの間、目をつむっていていただけませんか?」


ひどく自信に満ちた笑みを浮かべながら高らかに言葉を述べる令嬢。


そんな令嬢の言葉の意味が解らずも令嬢のそれほどまでの自信の理由が知りたくて言われたままに瞳を閉じた。


すると瞳を閉じた私の耳には何やら布がこすれる音が聞こえてきた。


(……気のせいだろうか。ひどく嫌な予感がする。)


布のこすれる音で過去に何度か経験したことのある嫌なことを想像してしまう。


けれど見た感じ15,6の令嬢が流石にそんな真似をするわけがない。


なんて葛藤を繰り返していた時だった。


「どうぞ。目を開けてください。」


先程とは違いひどく近い距離で声が聞こえた。


嫌な予感がぬぐえない私は恐る恐る目を開けた。


そして私の目に飛び込んできたのは私に迫るように身を近づけてきている裸の令嬢――――――


―――――いや、一見華奢で控えめの胸の令嬢かと思えるほど細くか弱そうな身体にレディにないものがついている天使のように愛らしい姿の少年だった。


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