第27話 釘

 釘を作るには鉄鉱石。

 ファストとセカドの間に、小さい岩山があり、そこで採れるのだそうだ。


 岩山にはロックリザードとロックゴーレムとロックスネークが出る。

 こいつらがどれも硬い。

 耐久数値がない固有武器なら良いが、でないとみるみる耐久値が減って武器が壊れる。


 うちのパーティだとローリンの剣が頼りだ。


「そう言えばアイの固有武器ってなんだ?」

「それは……」

「言いたくないのか」

「ええと、スタートの日を忘れてて、固有武器を貰えなかった」

「どんまい」


 アイは涙目だ。

 初回特典を貰えなかったら凹むよな。

 そんな話をしながら岩山に辿り着いた。


 ロックリザードのお出迎えだ。


「【Pythonパイソン 無限投擲.py】」


 ロックリザードは石投擲のマシンガンを浴びて、死んで光になった。


「いつ見ても反則ね」


 呆れた口調の向日葵。


「これしか能がないからな。さあ鉄ノミとハンマーは手に持ったか。掘るぞ」


 トンテンカンとやり始めた。

 音をさせるとモンスターが寄って来る。

 採掘するとエンカウントが早まる。

 どうやらそういう仕組みになっているようだ。


 まあ、無限投擲の敵じゃないが。

 ここのモンスターは魔石の他に鉄鉱石も落とす。

 討伐のみでも鉄鉱石は集められるが、採掘の音でおびき寄せないと効率が悪い。


 やがて、ストレージのひと枠が鉄鉱石で埋まった。

 こんなもんで良いだろう。


 鉄鉱石から鉄にするのは炉が要る。

 とうぜん買えない。

 鍛冶屋に頼むわけだ。


「何を作って欲しい? 剣か? ナイフなんてちゃちな物じゃないだろうな。言ってみろ」

「釘だ」

「釘だぁ。武器職人を馬鹿にしてるのか」


 マクスダクトの奴、生活雑貨を作る鍛冶職人を紹介してくれよ。

 まあ、そういう鍛冶屋は少ないのだろうな。

 マクスダクトの知り合いにはいなかったということだと思う。


 俺だって鍛冶をやるとなったら、日本刀とか作ってみたい。

 ここで言い負けたら、たぶん作って貰えない。


「釘が武器でないと誰が言った」

「何だと」

「とにかく作れ。証明してやる」

「ほんとだな。騙したら職人仲間に取引拒否の回状を回すぞ」

「好きにしろ」


 鍛冶屋が釘を作り始めた。

 釘だからかなり簡単だ。

 あっという間にでき上がった。


「さあ武器だと証明してみろ」

「【Pythonパイソン 無限投擲.py】」


 釘のマシンガンが的の鎧の耐久値を削る。

 当たると必ず1減るもんだから、こういうことをするには釘はうってつけだ。


「そりゃ反則だろ。だが石でも良いはずだ」

「毒を塗る場合、釘の方が良いだろ」

「えげつないことを考えるな。あんなにたくさん投げられたら、100%毒判定食らう」

「それに釘を針金でこうすると、簡易まきびしの完成だ」

「ふむ、考えてみたらくさびにも使えるし、用途は広いな。よし釘を極めてみるか」


 えっと、普通の釘で良いんだけどとは言いづらい。


「俺のは試作品で良い。俺も早く釘を使った戦術を試したいんだ」

「おう、そうだな」


 なんとか釘を作って貰えた。


 土魔法使いが、地下室や土台を作る。

 大工に釘を渡すと、瞬く間に家が補修された。


「釘を作ってもらうのに苦労した。大工さんはどうやって調達してるんだ」

「どうしても必要ならNPCから買ってる。ただ、高いうえに品質が悪い。だから、もっぱら木組みで組み立ててるな」

「木組みは難しいだろ」

「そうだが、面白い。釘は邪道だという大工もいる。俺はあったら使うがな」


 みんなロマンを追い求めてるな。

 ゲームの中まで現実がどうたらこうたら言うのは無粋だ。


「屋根と壁は出来たが、瓦がまだだ。俺の領域じゃないんで、瓦屋に頼むんだな。そんなのがいたらだが」


 くそっ、どうせ陶芸家しかいないのだろうな。

 瓦を好き好んで焼く人は少ないと思われる。

 全部同じ形に作らないとだしな。

 面白みが少ないってのは容易に想像できる。


 一難去ってまた一難。

 魔法で瓦はなんとかできないかな。


 考えたら、釘も魔法でなんとかできるかも。


【われは内包する、魔法規則。鉄釘召喚の命令をレベル1の召喚魔法に受け渡し、魔法情報を受け取れ。魔法情報にありしものを召喚させよ。鉄釘】


 こんなのでやってみた。

 結論、召喚するには鉄釘が必要。

 鉄のインゴットを用意して鉄釘を召喚するのは召喚魔法のレベルが要る。

 だよね。

 こんな落ちだと思ってた。


 楽に作る方法はないな。

 きっと瓦もそうなんだろう。

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