第9話

○7月22日火曜日 18:10

海円寺 黒翼家玄関


円斎

「……そうか」

「事情はわかった」

「金は後から送金する」

「また状況が変わったら連絡をくれ」

「よろしく頼む」


黒電話が切れる音


神太郎母

「お父さん」

「神太郎は無事だったの?」


円斎

「──とりあえずはな」

「月夜も無事だそうじゃ」


神太郎母

「……よかった」


円斎

「だが」

「事態は想定よりも深刻化しておる……」


神太郎母

「何があったの?」


円斎

「東京が『悪魔』の巣窟と化しておる……」

「あそこにいるほとんどの人間が」

「悪魔ども寄生されてしまっているのかもしれん……」


○7月22日火曜日 18:12

大山中華店 厨房


孝一

「──さてと」

「あらためましてだな」

「白鷺月夜ちゃん」

「俺のことは神太郎から聞いてると思うが」

「あいつの友達の大山孝一だ」

「よろしくな」


月夜

「……」


孝一

「警戒するなって」

「さっきはすまなかったな」

「いきなり大勢で押しかけたからびっくりしたんだろ?」

「大丈夫だ」

「あれは俺の部下みたいなもんだ」

「金で雇ったただのアルバイトともいうけど」

「まぁ俺の命令なら聞く奴だから」

「部下みたいなもんだ」


月夜

「……誰なんですか?」

「あなた」


孝一

「おいおい」

「神太郎から聞いてるだろ?」

「俺だって」

「噂の孝一だって」


月夜

「神太郎くんとはそういう話してないので」

「あなたのこと知りません」


孝一

「うそだろ」

「あいつ」

「あれほど俺のことは話せって言ったのに」

「あーもー」

「すげぇ気まずいじゃんか」

「ったくよぉ」


月夜

「……」


孝一

「しょーがねーなぁー」

「じゃ初めましての自己紹介だ」

「俺は大山孝一」

「悪魔専門の『掃除屋』をしている」


月夜

「掃除屋?」


孝一

「宇宙の彼方から地球外生命体が襲ってきた時に」

「一般人には頑張って宇宙人の痕跡は見せないように努力してるじゃん」

「証拠隠滅って奴」

「聞いたことあるだろ?」

「映画とかアニメとか」

「ああいうのやってるのが俺なんだよな」


月夜

「……」


孝一

「──あいつが上京するって連絡が来て」

「色々と動いていたんだ」

「しかし」

「まさかこんな重症化してると聞いてなかったし」

「おまけに悪魔使いも連れてくるなんて……」

「迷惑もいいところだぜ」


月夜

「あの」


孝一

「なに?」


月夜

「神太郎くんはどこですか?」


孝一

「奥の部屋だ」

「まだ寝てるはずだ」

「全身蜂の巣になってるんだ」

「10回死んでもおかしくない怪我だからな」

「そっとしておいてやれ」


月夜

「あの」

「病院には……」


神太郎

「病院には行けねぇよ」

「医者に説明するのが面倒だからな」


月夜

「神太郎くん!」


孝一

「おいおい」

「寝てろよ」

「立ってるのもしんどいだろ」


神太郎

「黙ってろ」

「孝一」

「やることがあるんだよ」


孝一

「んだよテメェ」

「人がせっかく心配してるのに」


神太郎

「タイラはどこだ」

「会わせろ」


孝一

「タイラ?」

「ああ」

「あの悪魔使いか」


月夜

「神太郎くん!」

「タイラ先輩をどうするつもり?」


神太郎

「安心しろ」

「ぶちのめしはしねぇよ」

「ただ」

「あいつに会って確かめねぇといけないことがある」


孝一

「……はぁ」

「まったくよぉ」

「節操がなさすぎるだろ」

「おめぇよぉ」


○7月22日火曜日 18:16

大山中華店 隠し部屋


タイラ

「……」


神太郎

「……」


月夜

「……」


タイラ

「……それで?」

「僕を殺しに来たのかい?」


神太郎

「勘違いするな」

「もうお前を痛めつけるつもりはねぇ」


タイラ

「じゃ何しに来た」


神太郎

「聞きたいことがある」

「お前ら何者だ」


タイラ

「……」

「知ってるだろ」

「都立皐月高校の3年生で」

「服飾部の副部長だ」


神太郎

「……それで俺が納得すると思うか」

「もうお前はゲームに負けたんだ」

「素直に吐けよ」


タイラ

「……」


神太郎

「ったく仕方がねぇな」


関節音


トーマス

「やめて⁉︎」

「これ以上タイラを傷つけないで⁉︎」


神太郎

「……おいベレー帽」

「あのチビ女がかぶっていた帽子もそうだったが」

「最近の悪魔は帽子に擬態するのが流行ってるのか?」


トーマス

「……流行ってるわけじゃない」

「人間が真似ただけだ」

「帽子を作ることで」

「僕たち悪魔の力を得ようとしたんだ」


神太郎

「何言ってるテメェ」


トーマス

「僕たちは紀元前からずっと」

「人間たちがいうところの帽子という被り物の姿をしてきた」

「僕たちは人間のエネルギーを吸って」

「人間には僕たちのエネルギーを与える」

「そうやって共依存の関係を築いていた」


神太郎

「……なるほど」

「寄生虫なんだな」

「お前らは」


タイラ

「トーマスを侮辱するな」

「彼らは寄生虫じゃない」


神太郎

「あ?」


月夜

「やめなよ神太郎くん」

「手下ろして……」


神太郎

「ちっ」


トーマス

「ユナに寄生してるチャーリーや」

「ケイコに寄生してるエドワードは」

「僕の仲間だ」

「僕たち悪魔は何千年も形を変えて人間の頭に寄生し続けたんだけど」

「ここ数百年の間にすっかり数が減ってしまってね」


月夜

「……」


トーマス

「僕たちは人間たちにとって害悪だって言われる存在だからね」

「僕たちの存在を知られることで」

「君みたいな聖職者が殺しにくることもある」

「──だからタイラは」


神太郎

「なぜ月夜を狙った」


トーマス

「え?」


神太郎

「月夜は関係ないだろ」

「なぜ月夜に匂いをつけて」

「殺そうとした」

「理由を教えろ」


トーマス

「……それは」


タイラ

「『危険』だからだ」


神太郎

「なに?」


タイラ

「彼女の体についている匂いは」

「チャーリーの匂いでも」

「トーマスでもない」

「別の『大きな悪魔』の匂いだ」


神太郎

「別の悪魔?」


タイラ

「僕らは逆に月夜ちゃんが」

「その悪魔の手先だと思って」

「殺そうとしたんだ」

「殺される前に」

「返り討ちにしようとしてね」


月夜

「……そんな」


神太郎

「……月夜に匂いをつけた悪魔ってのは」

「何者だ」


タイラ

「わからない」

「ただ」

「危険な存在だっていうのは」

「確かだ」


神太郎

「……」

「いつから気づいた」


タイラ

「──それは」


着信音


神太郎

「……」


タイラ

「……」


神太郎

「よこせよ」

「スマホ」


タイラ

「……」


電子音


神太郎

「よぉ」

「悪魔使い」

「俺が誰かわかるか?」


ケイコ

「……黒翼」

「タイラは無事なの?」


神太郎

「ああ」

「無事だ」


ケイコ

「……タイラに代わって」


神太郎

「あいつへの伝言なら俺が聞くぜ」

「奴ば無事だが」

「俺がボコボコにしてしまったからな」

「しばらくは口がきけねぇからよ」


ケイコ

「……」

「ふざけるのもいい加減にして」


神太郎

「そいつはこっちのセリフだ」

「月夜を殺そうとしやがって」

「ふざけてるのはそっちだろうが」


ケイコ

「──黒翼」

「あたしはあんたとくだらないおしゃべりをするつもりはない」

「タイラを返して」

「今すぐ」


神太郎

「ただで返すわけねぇだろ」

「こっちは詫びの一つももらってねぇんだ」

「仲間を返して欲しければ」

「それ相応の誠意を見せろ」


ケイコ

「……なにが欲しいの?」


神太郎

「──テメェらの頭に乗っかってるバケモノ」

「『帽子の悪魔』たちを」

「全てよこせ」


トーマス

「な⁉︎」

「あんたなにを言ってるの⁉︎」


神太郎

「うるせぇベレー帽⁉︎」

「テメェは黙ってろ」


ケイコ

「……断ったらどうするの?」


神太郎

「タイラをぶち殺す」

「半殺しって意味じゃねぇ」

「息の根を止める」


ケイコ

「──カクレキリシタンは」

「人殺しもするの?」


神太郎

「なめんじゃねぇぞ」

「悪魔使い」

「これはただの喧嘩じゃねぇ」

「『戦争』なんだ」

「俺とお前らの全面戦争だ」

「どっちかが根を上げるまで」

「この戦争は続くんだ」

「くだらねぇ揺さぶりは俺には通用しねぇ」

「わかったか」


ケイコ

「……わかった」

「帽子をあんたに渡すわ」


トーマス

「⁉︎」

「ケイコちゃん⁉︎」


ケイコ

「──ただし」

「渡す前に二つ条件がある」


神太郎

「なんだ」


ケイコ

「ひとつ」

「タイラを無事に返すこと」

「五体満足のノーダメージで」

「あたし達の元に返して」


神太郎

「……いいぜ」

「で?」

「もう一つの条件ってのは?」


ケイコ

「──私とタイマンしな」

「正々堂々」

「サシで『勝負』よ」


To be continued….

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