タイムリープが当たり前の世界で不倫されてタイムリープしたサレ妻と黒猫の一週間【コンテスト参加作品】

みどりの

第1話 アルツェンメルグ不連続線を越えて

涼子りょうこ、子供が出来たんだ。☓☓のために離婚して貰えないか? 俺たちの間に子供はいないんだし、彼女の生む子供に父親がいないのはかわいそうだと思わないか?」


 3年前に結婚した旦那であるたかしが不倫した。あまりにも身勝手な言葉と愛する孝の不倫と相手の妊娠というショックを受けて動転して逃げ出した私はまさかのトラックに轢かれて死ぬことになった。


 結果どうなったかというと、トラックに轢かれた1月10日から3ヵ月前の結婚記念日にタイムリープしたのだ。


 あ、またかと思ったそこのアナタ、仕方ないじゃない。この世界ではNTRのショックを受けてから死んだ人間は多くの場合タイムリープしてしまうのだから。


 世にいうNTRタイムリープである。私もご多分に漏れず村上陽太郎博士の提唱するアルツェンメルグ不連続線を越えてしまったのだ。






 私、竹中涼子(旧姓・森川 享年29歳からのタイムリープ中)は竹中孝(31歳)と極めて良好な結婚生活を送っていると信じていた。


『涼子、大丈夫かい? まさか結婚記念日にジャンバラヤの食べ過ぎでお腹を壊しちゃうなんて……』


 私が戻ったあの日一周目の結婚記念日、呆れたような声でそれでも優しくお腹をさすってくれていた男が竹中孝、私の夫である。


 タイムリープする直前だから私から見るとだが、現実にはこの後3カ月後に判明する話だがこの時点でこの男は他の女を既に孕ませているのだ。


私がタイムリープしたあの日の告白では妊娠6か月だったそうだ。


 6か月前といえば私とは「コロナの時代は大変だから」「円安が終わって今の物価が下がってくるまでは」などとどうでもいい理由をつけて子作りを拒んでいたくせに。あ、6か月前といっても今はタイムリープして3か月戻っているから今から見ると3か月前か……ややこしい。





 一周目死ぬ前のことを思いだす……


「ごめんなさい。ジャンバラヤがあんまりにも美味しく出来ちゃったものだから……子供が出来たらその時はまたこうやって優しくさすって貰えるのかな?」


 私が甘えてみせると彼の方からキスをしてくれて優しく抱いてくれた。久しぶりのセックスに私は興奮し、痩せて筋肉質になった分それまでよりも激しく行為に及んでくれる彼の愛を受け止めて何度もイッてしまった。


 何も知らない私はその10月10日の結婚記念日を本当に幸せな1日として過ごしたのだった。


 だからこそ……タイムリープした私は10月10日に戻ってきた。


 村上博士―――本人も妻が寝取られた末に自殺してタイムリープ、結果として天才物理学者の彼がタイムリープの仕組みを解き明かすことになった―――が提唱するNTRタイムリープ理論では死んだサレ女、サレ男が直近で一番幸せだった日に精神が戻ると言われている。


 こんな不倫するようながちょっと垣間見せた優しさであっさりと幸せ更新しちゃう私はいかにチョロい女だったのか……残念な限りだ。


 そして2周目の今、結婚記念日に舞い戻った私はジャンバラヤの食べ過ぎで腹痛になったふりをしてトイレに立てこもっている。


 ドンドンドンドン!


「涼子! リョウコォ!? そろそろトイレ出てくれない? 俺の膀胱ももう限界なんだけど!」


「ごめんなさい、ジャンバラヤの食べ過ぎでお腹がいたいのが治まらないの……コンビニに行くかお風呂場で済ませられない?」


「はぁ? 風呂場でシッコとか冗談じゃない! 君がそんなだから僕はっ!! いや、コンビニに行ってくる」


 うん、今何か言いかけたよね。少なくとも今から3か月前には(タイムリープの瞬間から見れば6か月前だ、ややこしい)子供が出来るようなことをしていて実際今この瞬間、どこかの女の腹の中にあの男の種で育っている胎児がいるわけで……正直もう顔も見たくないし、同じ空気も吸いたくない。


 実はタイムリープの余波なのか、トラック事故の影響なのか確かに名前を聞いたはずの☓☓という女の名前がノイズで遮られたように思い出せない。


 その名前さえ思い出せれば誰と浮気しているかが分かるのに……


 相手が誰であるにせよ、浮気したあの種付けシタ男と同じリビングの空気を吸うくらいならトイレで芳香剤のラベンダーの香りを嗅ぎながら籠り続けている方がよっぽどましだ。


 あの日の気まぐれな優しさで今日という結婚記念日に戻ってしまったが、もっと前なら……例えば結婚式のキスの瞬間とかに戻ればやり直せたのかなって想像してしまう。



 いや、ありえないな。結局不倫するようなクズだ。いらないいらないいらないいらない。

 私の人生にいらない相手だ。


 それに……何だあのムキムキのマッチョは! 私の好みはちょっとぽっちゃり男子で孝くんはその点で満点だったのに、コロナ禍で彼の営業の仕事もリモートばかりになり毎日家で勤務していた頃はぽちゃぽちゃだったのに……岸田課長の不用意な一言のせいだ。


『あれ? 竹中くん太った? 新婚で幸せ太りは分かるけどリモートで外回りがなくなったからって運動しないとブクブクになって不健康で涼子ちゃんに嫌われちゃうよ』


「そうですかね……そんなに太って見えますか?」


『うん、しばらく会ってない間にぽちゃぽちゃじゃないか』


 ちなみに私と孝くんは社内恋愛で結婚した。コロナが流行り出すタイミングだったので急いで入籍して身内だけの結婚式を挙げたのだ。


 その日、リビングで孝くんがリモート会議をしていた時も画面の向こうには知った顔が多かった。私は寿退社して専業主婦と働いていたので孝くんの会社の上司や同僚は私にとっても元上司に元同僚だったのだ。


 同僚だった広瀬美津子や佐川奈緒といった女子社員が孝くんのぷくぷくをちょっとバカにした顔で笑っていたのが忘れられない。


 それから孝くんは筋トレに目覚めた。最初はダンベルや腹筋マシンをお小遣いの範囲で購入して巣ごもりの間にリビングで筋トレするぐらいだったが、コロナが5類になり、制限がなくなった今では週3でジム通いをしている。


 好物だったジャンバラヤも炭水化物の取り過ぎはよくないと少ししか食べてくれずそのせいで私のお腹が痛くなるほど食べ過ぎるハメになったのだ。


 ああっ、筋肉がにくい……いや、憎い!

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 全6話です。

 第2回「夫にナイショ」漫画原作コンテスト応募作品になります。

 第5話までが出題編。第6話が解答編ですが謎解きとしては簡単だと思うのでXXを想像しながら読んでみて下さい。

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