第6話 マヨイガの森でキャンプの夜

俺は、テントの入口を開けたままにしてベッドに腰を下ろす。

テントの内部は、薪ストーブを中央に左右にベッドを設置してある。

ミネルヴァも、同じようにベッドに腰を下ろしていて少しばかり距離が空いてはいるが向かい合っていた。


「ねぇ、シンスケ。

貴方のこともっと教えてよ」

「ああ、どんなことを聞きたいんだ?」

「何でもかな…そう言われても困るよね。

えっと、どんなことをしていたの?」

「どんなことと言われてもなぁ。

俺は、今としていることは変わらないよ。

学校を卒業してからは10年ほど旅をしてた。

キャンピングカーで日本中を旅をしながら風景写真を撮りながら...」


俺は、地球での事をミネルヴァに話していく。

だが、言葉では足りないよなぁ。

俺は、デジタルフォトストレージを『アカシック』のポケットから取り出す。

フォトビューワーと言うものでデジタル写真を保存、閲覧出来る物だ。

俺が今まで撮り溜めた写真は全てここに保存してある。

10年前。キャンピングカーを買ったあの日からの軌跡。

個展を初めて開いた時。

一番最初に出迎えたのはこのキャンピングカーの写真だった。

見た目は、真っ黒なハイエース。

中はかなりのこだわりが詰まっている。

全面リアルウッド張りだ。

スライドアウトキッチンがあり、サイドドアを開くとポップアップする。

このキャンピングカーも『アカシック』のポケットの中に仕舞われていた。

マヨイガの森を出たら使うことになるだろう。

俺は、フォトビューワーをミネルヴァに渡す。


「そこには、俺が撮り溜めた20年分くらいの写真が収められているよ」


俺が写真を撮り始めたのは高校生の頃。

亡くなった2人の祖父からそれぞれカメラを託されたのがきっかけだった。

俺は、そのガラクタのようなカメラを『アカシック』のポケットから出す。

1台は、カメラオブスキュラと言う最古参のカメラだ。

像を写すことしかできない。

そんな不便なカメラだ。

絵心が皆無な俺には使いようがなかった。

もう1つは、二眼レフカメラ。

このカメラが俺が高校時代に使っていたカメラだ。

今でも現役だが、フィルム式なのでこの世界でも使えないだろう。

交換すべきフィルムは無いから。

まあ、代わりにデジタル二眼レフカメラがあるからそちらは使えそうだ。


「おっと、使い方教えないとな」

「うん...シンスケの隣にあるのもカメラ?」

「そうだよ、この大きな箱がカメラオブスキュラ。

地球の写真の歴史上で初めて登場したカメラと呼べる物...まあ、実際は像を写すだけの投影機なんだけどね。

こっちは、二眼レフカメラ」


俺は、二眼レフカメラを手に取る。

めちゃめちゃ手に馴染む。

高校時代は、こいつが相棒だった。

大学時代は、デジタル一眼レフを使った。

ミラーレスデジタル一眼レフを使い始めたのは割と最近のことだ。


「目が二つあるね?」

「ファインダーレンズとビューレンズと言って、普通のカメラは1個のレンズでその両方をになっているからパラドックスが生じ…あ、ごめん。難しいよね」


使い捨てカメラやコンパクトカメラには、ファインダーで覗いてみる像と出来上がり後の写真とで位置ズレが生じる、これがパラドックス。

二眼レフカメラやミラーレスにはこれがない。

何故なら、パラドックスが発生するミラーがないから。

いや、二眼にはあるがこちらは片側のレンズがその画像を視認させてくれているから。

これは、切り替えが可能である。


「シンスケのお話、難しいけど楽しいよ。

私の知らないお話だから」

「そっか、それなら良かったよ」


俺は、カメラオブスキュラと二眼レフカメラを仕舞う。

すると、ミネルヴァが俺の横へとやってくる。

そして、腰を下ろす。


「ミネルヴァ?」

「だって、教えてくれるんでしょ」


そう言われたら仕方ない。

照れ臭いけど。

俺は、フォトビューワーを起動させる。

そうすると、ミネルヴァが寄り添うように身体を預けてきた。

柔らかな感触と鼓動が左肩に感じる。

それと同時に、俺の心臓の音が早鐘を打つ。


「ちょ、ミネルヴァ」

「もぅ、いいでしょ。その小さな画面じゃこうした方が見やすいんだから」

「確かにそうだけど」

「私にくっつかれるのいや?」

「いや、そんなことは無いよ」


持ってくれよ、俺の心臓。

こう言う異性との触れ合いは15年以上なかったからダメだな。

それから、俺達は地球…日本の写真を見ながら夜を過ごす。

ミネルヴァには、ドキドキさせられる。

困ったなぁ

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