第15話 若者の苦悩

 弥生と正二郎の立場が内部事情が分かってくると微妙になってきて、これまでも夫々の親をかばって喧嘩もあったし一週間口を利かないこともあったわ。

でも、互いへの想いと何とか両親を元の鞘に納めたいという気持が二人を仲直りをさせ、一緒にあれやこれやと奔走させてきたのよ。

 

「ねぇ、本当に村岩のおじさまを止められないの?」弥生はまじに言う。

 ――何回も繰り返した言葉なんだけどなぁ。

「……無理じゃないか。あんだけあちこちで社員に力説してる考えを止めれなんて」

 弥生は正二郎の諦めたような言い草にムッとする。

「だって、父の考えは正論でしょう。こっちを考え直せなんて言えないわよ!」

「そうだけどさぁ、今の所業績も伸びてるし、何処からも誰からも何にも言われてないし……」

 正二郎の繰返される投げやりな言葉に弥生はカチンときた。

「正二郎、それじゃ、ばれなきゃ何やっても良いってことを貴方も認めるの?」

ついつい言葉がきつくなる。

「いやいや、そうじゃないけどさ、どっちかが年食っていくと考えも変わるかなって……」

「へ~、正二郎は結局何もしないってことなのね! 分かったわよ、私一人でおじさまに話しに行く」

「いやいや、待って、話す時は一緒に行くから、どう話すか考えようよ」

「じゃ、さっさと考えてよ」

口を尖らせて弥生が言う。

「弥生、そんな言い方無いんじゃないか? やけくそみたいに……」

正二郎の言葉が些か腹立ちまぎれで吐き捨てるような言い方に聞こえる。

「だって、もう何年経つのよ、仲たがいしてから……私も疲れたんだもん」

弥生の目に涙が溢れてきた。

 

「そうだ、弥生、鳥池常務に相談しよう。何かヒントくれるかもしれない。ね、どう?」

と、正二郎が言ってくれて弥生は弱々しく頷いた。

 

 翌日、人事課に籍を置く弥生が昼休みに常務室へ行く。

「常務、今日の夕方お時間頂けないでしょうか?」

「どうした弥生ちゃん。何かあった?」

「いえ、父のことでご相談したいことが……」

常務はちょっと怪訝な顔をしたが手帳を見て

「え~と、今日は……予定ないから6時頃からで良いかな?」

「はい、じゃ夕食を兼ねてレストランで如何でしょうか?」

「雷門前のファミレスで良いかな?」

「はい、お待ちしています」

弥生は人事課に戻ってすぐにその手配をしたの。常務がどう言ってくれるのか期待もあったわ。

 

 そのファミレスは雷門前の交差点角の近くにあり、二階建てで一階は家族連れが多いけど二階はちょっと大人な感じなのでカップルや商談で使う客が多いそんなお店でした。

弥生は正二郎と二階の入口が良く見える席に並んで座って常務を待ちました。

ほぼ時間通りに姿をみせた常務をみつけ二人は立ち上がって迎えたの。

すぐにホール係りがお茶とメニューを置いて行ったわ。

雑談をしながら食事の注文を終え、改めて常務にお礼を言ってから正二郎が二人でこれまでに考えてきたことや社長と専務に話してきたことを伝えました。

 

「それで、この先どうしたら良いのか思い浮かばなくって……」

弥生が言うと、常務はややしばらく考え込んで思いもよらないことを口にしたんです。

 

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