第8話 起業と女

 對田竜二は二十三歳で起業し、二十五歳の時對田建設工業(株)を立ち上げた。その時は大学で一緒に学んだ村岩吉郎と一緒に資金繰りと取引先の開拓のために駆けずり回った。

その頃對田は独身だったが妻のかおる――旧姓山口――と付き合っていて色々手伝って貰っていた。

しかし、かおるは別の男とも付き合っていて、その間で揺れていたようだ。

当時を思い出す・・・・・・

 ――その男は湖南斗一(こなん・といち)といって小説家を目指す若者だった。歳は對田と同じでまだまだ駆け出し、数冊書籍化されたが売れた本は無かったようだ。

だが、かおるは「彼の優しさは誰にも負けない」と言っていた。

對田はその小説家と話したことは無かったが、かおるは對田に付いて来るという確信みたいなものがあった。  

 ――

 

 今から思えば自惚れだったのだろう。

對田はかおるの短大の卒業式の後、

「村岩と新会社を立ち上げる。どうしても手伝って欲しい」

と頭を下げた。

「小説家と一緒になるとしてもすぐじゃないだろう? 今は人手が欲しいんだ頼む」

そう何回も口説いて、とうとうかおるに「うん」と言わせた。


 開業当初、社員は営業活動が中心で、事務員はかおるしかおらず抜け出せる状況にはなかった。

 ――実はわざとにそう言う風に仕組んだのだがかおるには人手が不足して……と言い続けた。

そして一年後にはアルバイトから正社員となって務めることになった。

 

 小説家の方はと言えば、ミステリーのコンテストで優勝して本が出版され連載物も依頼され書くようになった。

夢が現実のものになりつつあるようだった。

  

 起業した翌々年、色々事情があって物流の仕事から土木建設業へと仕事を変え、社名も今の名前に変えたのだった。

そしてその切っ掛けをくれたゼネコンが建築の仕事を安定的に回してくれるようになって、資金繰りに一息つくことが出来、慰労のためその当時の全役職員8名で居酒屋で飲み会を開いた。

 そのお祝いムードで盛り上がっている最中、對田はかおるの正面に正座して

「かおる、これからもずっと、俺の会社と俺の面倒をみてくれないか?」

そう言って小箱をかおるの前に置いた。

突然の社長の言動にシーンとなった宴会場、皆かおるの反応を待っていた。

しばらくかおるは俯いて膝の上に置いた拳を固くしていたが、ぱっと顔を上げ、瞳を潤ませて「わかった」と微笑んでくれた。

わ~っと歓声が上がって、そこからは對田とかおるが上座に並んで座らされ婚約披露パーティーになった。

 

 翌年には女の子が生まれ幸せを感じた。

会社の中に育児室を設けベビーベッドや監視カメラを配置して子育てを会社でもできるように配慮した。

何しろ産休を与えるだけの余裕がなかったのだ。社長専用車はかおる専用車になった。

休日にも接待はあるが、時間の許す限り子供の傍にいた。

 

 お陰で、十年ごとに倍々の売上になって行った。

昼間の忙しさと夜の接待が続く日々、心の隙間に飲み屋の女が割り込んできた。

 二十年目、馴染みのバーのホステスの情報で官庁の仕事の話がでて、對田は他社とも連携して仕事を受けようとしたのに対して、村岩専務は相手に賄賂を贈って仕事を独占しようとした。そこから意見の対立が始まりしだいに顕著になってゆく。

 對田は、そのホステスと懇ろになり情報を集めて他社と連携して仕事を受注した。それでも会社の規模は一気に倍近くになった。

その後も對田は、大手の企業だけでなく官庁へも日参参りを続け仕事を受けてきた。

 

 

 村岩吉郎は女に関しては積極的。大学卒業時には複数名の彼女がいた。新会社設立後も大手企業の部長クラス以上の男に彼女らを近づけさせ、情報を得る一方で自社の宣伝をやらせた。女を餌に仕事を取っていたのだった。

 ただ、この頃はまだ女を抱かせるまではしなかったし女も嫌がっていた。


 だが、女を使うやり方を村岩は気に入っていて、抱かれても良いという女を探した。

そういった村岩のやり方を認めた女の中の一人と村岩は結婚した。五十人ほどのホステスを抱えているバーの雇われママだった旧姓亀井百花(かめい・ももか)という今年五十になる女だ。

 彼女が使える女を掘り出して、企業だけでなく官庁のお偉方にも女をあてがい仕事を発注させた。会社への貢献度も大きかった。

が、そのやり方を對田社長は気に入らないようだった。

 もっぱらお水の女がアルバイト的に仕事を受けてくれているが、中には一般のOLや女子大学生などという異色の女もいる。

 長い付き合いのある企業などの役員に、いつも同じ女という訳にもいかないので五十名ほどの女の中から適当にローテーションさせていた。バイト代は一回三万から五万円。月に二十万円位はそのために使った。

すべて村岩専務としての交際費で決済した。

 

 そして「女だけでは不満だ」と顔に描いてあるような奴には金も出した。

だが、大手のゼネコンや役人に女を拒絶する奴はいなかったが、金は絶対に受け取らないという奴は多い。

だから村岩はアンテナを張り敏感にその要求を感じ取って金を渡していた。

下手に金の話をするとそう言うたぐいの会社だと見られ取引を解消されてしまう場合もあるので慎重にならざるを得ないのだ。

 女は抱くが金は拒絶、しかも発注をしてくれない奴らには、最後の手段と言っても良いだろう方法は、脅しだ。

女には盗聴器を持たせていたし、ホテルへの出入りを写真に撮らせていた。

それにグルの探偵に調査させると、大抵は浮気をしている。していない場合は村岩があてがった女や別途女を近づけ浮気させることもある。

 そうやって音声や写真を証拠に探偵に強請らせ、対象者が困ったところへ村岩がたまたまを装って姿を現し話を訊き出す。

「金は当社が負担し、二度と強請りはしないと約束をさせます」と、言うのだ。

これで、対象者は村岩に恩義を感じて仕事を発注してくる、という仕組みだ。

このやり方はある人物から提案されたものだが……。

 

 だから、営業成績を比較すると、村岩が約四割、對田が三割弱、残りが営業担当者となっている。

村岩の会社に対する貢献度は大である、と自負している。

 

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