第12話

 放課後、俺と葛西は、ファミレスに行く予定だったが、クラスの女子が行くという話をしていたからやめた。その代わり、ファストフード店に行くことになった。


「にがっ」


 葛西は、ホットコーヒーをとても苦そうに飲む。そんなに渋い顔をするならコーラとかにしておけばいいのに。


「なんでコーヒーなんて頼んだんだよ」


「あそこにいる女子高生にカッコつけたいから」


 俺と葛西が座っている席の斜め前にセーラー服を着た女子高生がいる。葛西は、その女子高生に熱い視線を送っている。


「童顔がコーヒー飲んでるだけでかっこいいとはならないよ」


 そういうと、葛西はホットコーヒーの中にミルクと砂糖を入れた。


「これならまだ飲めるな」


「だから、カッコよくないって」


「奢ってもらってその態度はないでしょ?」


 俺は、昨日のことがあったからコーラとチョコパイを葛西に奢ってもらった。


「お前から奢るって言ったんじゃん」


 そういうと、葛西は黙り込んでしまった。俺は、リュックから物理基礎のワークを出した。


「勉強するの?」


 葛西は、驚いた表情をした。


「だって、勉強するからここに来たんでしょ」


「俺たちはいつも勉強しないじゃん」


 まあ確かにいつもだったら勉強は一切しない。しかし今回の俺はいつもと違う。


「今回は、ちゃんとやるって決めたから」


 前回、俺は物理基礎で人生で初めて赤点を取った。次、赤点を取ったら、追試を冬休みに受けないといけなくなる。それだけは、阻止しないといけない。


「わかった」


 そう言って、葛西も物理基礎のワークを出した。そういえば、葛西も物理基礎は赤点だった。確か、クラスでワースト一位って先生に言われていた。


 勉強を始めて一時間ほどたったころ、


「あー、もういいや」


 葛西は、物理基礎のワークを閉じてをリュックに入れ始めた。出す時よりもしまうスピードの方が速かった。


「もう帰るの?」


「まだ帰らない」


 じゃあ、なぜリュックにワークをしまうのだろう。


「なあ、米村さんとは最近どうなの?」


 葛西は、何の前置きも無くそんなことを聞いて来た。


「別に、何もないよ」


「弁当作ってもらってるのに?」


 まあ、毎日お弁当を作ってもらっていたらそういうふうに思われても仕方がない。


「俺の部屋の隣に住んでるだけだよ」


「一緒に寝たりしてないの?」


「そんなわけ・・・」


 俺は、言葉が詰まった。そういえば、米村さんを俺の部屋に泊めた時、一緒に寝たことがあった。


「えっ、あるの?」


「ここだけの話だぞ」


 俺は、米村さんを家に泊めた日のこと話した。


「あの時、一緒に寝たのか・・・」


「まあ、色々あって・・・」


「これだけは言っておくが、お前が期待しているようなことはしてない」


「本当か?」


「本当だ」


「お前は、米村さんのことは好きなのか?」


 俺は、そう聞かれた時、初めて米村さんのことが好きだと自覚した。しかし、この気持ちを米村さんに伝える勇気は無い。


「好きだけど・・・」


「だけど?」


「本人に言って、振られて気まずくなるならこのままの関係でいいかなって」


 自分で言っていて、とてもヘタレだと思った。


「そっかー」


 葛西は、さっきまでと違い、真剣な表情で話を聞いている。


「まあ、お前の気持ちはよくわかる」


「本当か?」


「俺も去年の今頃こんなことを思っていたから」


「そうなんだ」


 葛西に恋愛感情があったことに驚いた。こいつは色々と捻くれているから好きな人とかいないと思っていた。そんなことを思っていると


「あのー、当店二時間を目処に席の入れ替えをお願いしています」

と店員さんに言われた。


「「すみません」」

と二人で言った。

 

 俺と葛西は、慌ててリュックを背負い、店から出た。


 俺は、自転車を押しながら、葛西の横を歩いている。ファストフード店を出てから、無言の時間が続いていて少し気まずい。すると、


「まあ、あんまり拗らせるな」

と葛西は、ボソっと言った。


「そうするよ」


 葛西は、過去に何があったのだろうか。今まで、こんな葛西の表情を見たことが無かったから少し驚いた。


「テストなんて無ければもっと恋愛に熱中できるのに」


「高校で彼女作るのは、諦めたって言ってたじゃん」


 葛西は、他クラスでカップルができてくいく中、「高校で彼女は作らない」と力強く言っていた。


「それは、・・・」


「何だよ?」


 葛西は、言いかけてなかなか言い出さなかったが、


「初恋の人が忘れなんないから」


 少し照れながらそう言った。


「そういうことかー」


「もう俺の恋バナはいいって」


 そう言って、葛西は話を打ち切ってしまった。不意に俺は、少し笑ってしまった。


「笑うんじゃねー」


「ごめんって」


 そんな話をいていたら、最寄駅に着いた。


「じゃあ、また明日な」


「おう」


 そう言って、葛西は改札を通って行った。俺は、自転車でアパートに帰って行った。






 


 








 

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