第49話 竜人族再び

 「暇だな」

 「そうだな」


 竜人族の課金をした二人のプレイヤーの名はスロースとモール。スロースは銀色の瞳、赤のロングヘアー、白のサーコートを着用。モールは青の瞳、赤の短髪、白のサーコートを着用。白のサーコートの背面には赤眼の禰宜(ねぎ)の証である燃え盛る炎の絵が描かれている。


 「竜人族は下界を監視する白龍神アストラの使徒という設定だ。下界を駆逐する凶暴な魔獣が発生した時に退治しに行くのが主な役割で、後は人間族が不穏な動きをしないか監視する役割も担っている。それ以外の時間は、新たなる龍神になる事を企む暗黒大陸に住むドラゴン族を退治して、龍玉を育てる事に一生を費やすことになる」

 「魔獣を退治し続けるのがメインの依頼という事だな」


 「そうなる。今のメインの依頼は災いの戦士の監視だ。巫の話しだと災いの戦士は神を殺すほどの力を持っていて、邪龍アルマゲドンを復活させるべく、6カ国が保管している遺物の回収を目論んでいるいるらしい。もし、災いの戦士が他の種族の土地へ赴く事があれば、それを阻止する事が俺達の役割だ」

 「それまで手を出さずに監視するなんてだるくないか」


 「そうだな。俺がこのゲームを再度プレイした目的はこの世界を蹂躙する事だ。最初は低課金でプレイしてチュートリアルで死んでしまった。その時の激しい痛みと恐怖は今でも忘れない。ブラックウルフに全身を爪で引き裂かれ、鋭い牙で腕に噛みつかれ、骨はむき出しになり、血が噴水のように吹き出たあの恐怖、あの苦痛、あの絶望、俺は本当に死んだと思った。でも、目を覚ますと俺はゲーミングチェアーに座っていて、どこにもケガなどしていなかった。普通の人間なら二度と【7国物語】なんてプレイしたいと思わないだろう。しかし俺は違った。平凡な日常、刺激のない毎日、仕事だけの人生、俺はそんな日々を自然と受け入れていた。でも、【7国物語】のリアルモードをプレイした時の俺は、悲鳴を上げながら剣を振り回し、生きる為に必死に抵抗した。結果は最悪の結末に終わったが、あの興奮は現実世界では味わえない体験だった。お金を出せば出すほど強くなるゲーム。無駄な経験値稼ぎなどいらない単純明快なこのシステムに俺は歓喜し、すぐにお前を誘ってゲームをやり直した」

 「強者って楽しいよな。現実世界では弱者の俺達でも、たった60万円で1000人のNPCを簡単に虐殺出来るなんて最高だ。俺はもっともっと人を殺したい」


 「やりに行くか!」

 「行きますか!」


 2人のプレイヤーは殺戮を楽しむ為に再び下界へ降りた。


 「モール、デスガライアル鉱山には邪龍の神力を向上させる緋緋色金(ヒヒイロカネ)が採掘出来るらしい」

 「お!なんと不埒な鉱山なんだ。これは成敗するに値するな」

 

 スロースはデスガライアル鉱山を襲う口実を作り出す。これで自分たちの正当性を示す事が出来た。後はデスガライアル鉱山に居る人間を殺すだけである。すぐに2人は翼を広げてデスガライアル鉱山に向かった。


 「モール、今回は竜人のスキルを使ってみようぜ」

 「OK。剣での殺戮も気持ちが良いが、スキルで派手に暴れるのも最高だ」


 竜人族は神職の職位が上がるにつれて使えるスキルが増える。2人は課金したスキル以外に、赤眼の禰宜までのスキルを使用する事が出来る。そして第3の目である龍玉を開きスキル名を唱える事でスキルが発動する


 「電光雷轟・迅雷風烈(でんこうらいごう・じんらいふうれつ)」


 竜人族の神職のスキルは天候を利用したスキルになる。電光雷轟は大きな音を立てて稲妻を発生させるスキル。迅雷風烈は電光雷轟で発生させた雷の数を増やし攻撃力をアップさせるスキルである。電光雷轟は神龍の出仕(しゅっし)が有するスキルであり、迅雷風烈は青眼の浅葱(あさぎ)が有するスキルである。


 激しい音と共に無数の雷がデスガライアル鉱山を襲う。雷が直撃したボロボロの平屋が火の手を上げて燃えだした。


 「火上注油(かじょうちゅうゆ)」


 火上注油とは電光雷轟で発生した炎をさらに炎上させるスキルである。赤眼の禰宜(ねぎ)が有するスキル。


 ボロボロの平屋は火上注油により、激しく炎をあげて燃え広がっていく。建物からは悲鳴を上げてたくさんの囚人や奴隷が飛び出してきた。


 「ガハハハハ・ガハハハハ。人間どもがゴキブリのようにうごめいているぜ」

 「俺がとどめを刺してやる。電光雷轟・迅雷風烈」


 激しい音と共に無数の雷が人間を直撃する。雷にうたれた人間は真っ黒になって倒れ込む。

 

 「ガハハハハハ・ガハハハハ。本当にゴキブリになりやがった。笑いが止まらん」


 スロースは上空で腹を抱えて笑いが止まらない。


 「電光雷轟・迅雷風烈」


  モールは次々と人間に向かって雷を降り注ぐ。しかし、ここでモールはある異変に気付いた。


 「スロース。アイツらには雷が当たらないぞ」


 モールは笑いながらもその事には既に気付いていた。


 「あれは無課金のプレイヤーだな。利用規約によって守られているようだ」


 PKが出来るのは人間は職業に就いているプレイヤーだけだ。無課金で無職のプレイヤーには攻撃は出来ないのであった。

 

 

 


 

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