第42話 希望

 罪人を乗せたキャラバンが帝都ロギアルシアンを出発して3日が過ぎた。


 「ボス、馬車の揺れが激しくなってきていますので、後1,2時間でデスガライアル鉱山に着くと思われます」

 「そうか。これから過酷な労働が待っているのだな」


 俺の名はあああ、国家反逆罪で200年の刑を喰らった大罪人だ。俺をボスと崇める3人の罪人と共に、これからデスガライアル鉱山で強制労働をさせられる事になる。しかし、俺は真っ当に刑に服すつもりなど毛頭ない。ここはゲームの世界、死ぬまで鉱山の仕事をする作業ゲーではないはずだ。たしかにMMORPGの生産職なら、作業ゲーの要素もあり、黙々と同じ作業を繰り返す事もあるだろう。しかし、それは自分から望んでやる仕事だ。依頼の選択に失敗した結果、死ぬまで強制労働をさせられるなんてゲームがあってたまるか!絶対にここから抜け出す事が出来る選択肢が転がっているはず。俺は絶対に希望は捨てない。牢屋で見かけたやる気を失ったプレイヤーとは違うんだ。


 俺はデスガライアル鉱山に着くまでの3日間何もしなかったわけではない。大罪人としての余裕をクライナー達に見せつつも、この世界の事を少しずつ小分けに聞き出していた。そこで俺は重要な事を3つ知る事になる。

 

 1つ目は職業という存在だ。俺の記憶だと人間族は課金をすれば様々な職業に就く事が出来たはず。俺は無課金なので、何のとりえも能力もない無職になってしまったが、この世界では緋緋色金を黒龍神アルマゲドンに捧げれば職業に就く事が出来るらしい。緋緋色金と言えば、俺が盗賊の手伝いをさせられた時に荷馬車の荷台で見たツボに入っていたモノである。クライナーの話しによれば、緋緋色金はデスガライアル鉱山などで採れる鉱石に付着している黄金色の粘着物で、黒龍神アルマゲドンの好物であり神力の源になる貴重な鉱石だそうだ。もし、俺が緋緋色金を手にすることが出来れば無職からの転職が可能になる。


 2つ目は神様が降臨したという噂だ。人間の国は5つの国が存在する。俺が今居る場所はガイアスティック帝国のデスガライアル山だ。そして、デスガライアル山を越えるとアルガンシア王国という小さな国が存在するらしい。アルガンシア王国は黒龍神アルマゲドンを邪教として忌み嫌い、ガイアスティック帝国が推し進める黒龍神アルマゲドンの復活に否定的で、緋緋色金の提出を拒否している国である。黒龍神アルマゲドンの恩恵を拒み職業に就く事を断っている国の1つである。そのため戦力は乏しく、戦争をすればすぐにガイアスティック帝国に滅ぼされる運命にあるのだが、今のところガイアスティック帝国の侵攻がないので国の存続が保たれている危うい存在の国であった。しかし、そんな弱小国に1人の神様が降臨したとの噂が舞い込んで来た。

 神の名はアマテラス・ラグナロクという少女だ。アマテラスの姿は黒のとんがり帽子をかぶり、黒法衣に白の切袴を着ている。そして、お尻からは龍の形をした尻尾が生えているので、人間族ではなく亜人族ではないかと物議をかましている。アマテラスが神様と呼ばれる理由の1つは、アルガンシア王国の民に職業を授けていると噂されているからである。人間に職業を与える事が出来るのは黒龍神アルマゲドンだけであり、それが【7国物語】の理である。その理を破ることなど神でさえ不可能なことである。ここで頭の良い俺はピンとひらめいた。アマテラスは偽物の神であり、職業を与えられたアルガンシア王国の民の正体はプレイヤーであると。俺の記憶が正しければ、人間族を選んだプレイヤーのスタート地点は課金額によって違うはず、無課金のプレイヤーは俺と同じガイアスティック帝国からスタートするが、課金をして職業に就いたプレイヤーはアルガンシア王国からスタートするのではないかというのが俺の導き出した答えだ。


 3つ目は職業をさずかる場所だ。黒龍神アルマゲドンは500年前に退治されて、その遺体はガイアスティック城の地下で厳重に保管されている。そして、黒龍神アルマゲドンは完全に死んだのではなく、復活の時を500年も待ち続け、現在は基本職を与えるだけの神力を宿すまで回復している。しかし、ガイアスティック城の地下は、皇帝の許可を得た一部の人間しか入る事が許されず、職業を授かるのも皇帝が選定した人物しか就く事はできない。ここまで聞くと俺が緋緋色金を手にすることが出来たとしても、職業に就く事は出来ないと結論が出てしまう。でも、ここからの話しが重要になる。

 実はガイアスティック帝国と同盟を結んでいるグルドニア共和国でも職業に就く事が可能であった。それはグルドニア共和国には、黒龍神アルマゲドンに取り込まれた赤龍神オーディンの祠があるからだ。黒龍神アルマゲドンとは、力の神赤龍神オーディン、魔法の神黄龍神ヘカテ―、技能の神緑龍神プロメテウスを喰らって一つの龍神となったのである。赤龍神オーディンは力を司る龍神であるので、グルドニア共和国ではウォーリアー(戦士)にしか転職する事は出来ない。

 

 俺はガイアスティック帝国では犯罪者である。もしデスガライアル鉱山から脱走する事が出来たとしても、帝国に留まる事は出来ないであろう。それならば、グルドニア共和国まで逃げて転職すれば良いのである。俺はクライナーから聞きだした情報により一筋の希望が見えたのであった。

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