第33話 人さらい
「それでは、ローゼさんの依頼内容を詳しく説明させていただきます」
「お願いする」
「気になるの!気になるの!」
ローゼは神妙な面持ちで話し出す。
「ローゼさんの依頼は5年前に居なくなった父親の捜索です。ローゼさんの父親は5年前に帝都に出稼ぎに向かったそうです。しかし、何年経っても連絡もなくローゼさんの住む町に帰ってくることはありませんでした。ローゼさんの母親も父親の行方を捜すために帝都に訪れたそうですが、父親を見つけるどころか手掛かりの一つも見つける事ができなかったそうです。結局ローゼさんの父親は帝都に向かう途中に魔獣に殺されたと衛兵は判断したそうです」
「可哀そうなの」
ノアールは涙ぐむ。
「それならその事実をローゼに伝えれば解決するのではないのか」
「もちろん。ローゼさんも母親から聞いているはずです。しかし、ローゼさんの住む町ゴールドラッシュから帝都までの道のりは、石畳が敷かれた街道で魔獣を寄せ付けない加工が施されています。魔獣に襲われる可能性は低いのです」
「それならどうして魔獣に殺されたと衛兵は判断したのだ」
「魔よけの道は必ずしも完璧ではありません。魔よけの香の効き目が弱くなれば魔獣が近寄ってきて襲われる可能性はありますが、衛兵が魔獣に殺されたと判断した理由は他にあるのです」
「どのような理由があるのだ」
「人さらいにあった可能性があります」
「それならば、そのように伝えれば良いのではないのか?」
「5年前の人さらいの悪行は、帝都内でもタブー視されています」
「なぜだ!」
「その事を説明するために受付場でなく、ギルドマスターの部屋を選んだのです。5年前に多くの場所で盗賊【ユートピア】によって人がさらわれています。しかし、その事実は多くの人が知る事は無かったのです。実は盗賊【ユートピア】は帝都の騎士団と繋がりがあると一部で噂があったのです。なので、【ユートピア】の起こした犯行は闇にもみ消され魔獣に襲われた事になっていると言われています」
「その話が本当ならば帝国と【ユートピア】が繋がっているという事になるだろう。しかし、なぜ帝国は【ユートピア】の悪行を隠したのだ」
「それは黒龍神アルマゲドン様の復活に多量の緋緋色金(ヒヒイロカネ)が必要になり、皇帝陛下が採掘量のノルマを上げたのです。緋緋色金は鉱石に付着している黄金色の粘着物です。たくさんの緋緋色金を採取するには多くの鉱員が必要になります。鉱員の仕事は激務なうえ危険が伴いますので、鉱員のなりてはほとんどいません。それで、奴隷や罪人を使用する事になったのです」
「鉱員を集めるために人をさらって奴隷として働かせているのか?」
「おそらくそうだと思います」
「ひどいの~」
ノアールは頬を膨らませてお怒りになる。
「ギルドは黙ってそれを見過ごしているのだな」
「申し訳ありません。私達は帝国の意向に逆らう事は出来ません。しかし、いくら黒龍神様を復活させるためとはいえ、罪なき人を誘拐して奴隷として働かせるのは、到底許しがたい事であります。なので、対抗措置として魔よけの道の管理を徹底したのです」
「どういうことだ」
「わかったの!魔獣を追い出すの」
「天使様のおっしゃるとおりです。衛兵たちが言い訳を出来ないようにしたのです」
「そういうことか」
俺もやっと理解した。
「私達が魔よけの道の管理を徹底した効果により、街道で魔獣に襲われたという言い訳が出来なくなり、人さらいの事件はほとんどなくなりました。しかし、真実をローゼさんに伝える事は出来ないのです」
「そうなのか・・・。ローゼの父親は鉱山で生きているのか?」
「鉱山はとても危険なところです。おそらく・・・死んでいるでしょう」
ルージュの赤い瞳から涙が頬に伝う。
「やーの、やーの、生きているの!」
ノアールは小さな口を大きく開けて叫ぶ。
「鉱山に行って生存の確認をしてくる」
まだ死んだとは決まっていない。
「そうおっしゃると思っていました。おそらくローゼさんの父親キドナップさんはガイアスティック帝国最大の鉱山であるデスガライアル鉱山に連れ去られたと思います。デスガライアル鉱山では奴隷や罪人が強制労働をさせられているので、関係者以外は立ち入りを禁止されています。なので、ローゼさんの依頼を受けても調べる術はありません。しかし、戦士様の冒険者証にはエンペラーワラント(帝国御用達)の紋章が刻印されていますので、鉱山にも自由に出入りする事が出来るでしょう」
これで話しが繋がった。ローゼの依頼を達成するには、エンペラーワラント(帝国御用達)の刻印が必要不可欠であった。一介の冒険者ではデスガライアル鉱山に入る事が出来ないので、ローゼの依頼を受ける資格はないのであった。
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