死神は月を抱いて眠りたいーー死神の征くトコロ

漂うあまなす

第1話 ナナ・ハーンにて(1)

※この話は「死神は少女と出会う」からの地続きと

なります。


ーー振り返りーー

とある強権的独裁軍事国家で突然のクーデター(?)が起こり国のトップの総統とその右腕が

暗殺される。主犯も目的も分からないまま、

後継者がおらず、国は内乱状態となり混乱する。

暗躍が噂される首脳部のお抱え裏組織、

情報統括部。

その中でもトップシークレットである暗殺部隊の

エースであったコードネーム:キラービー。

彼女は旅の途中で少女と出会い「ラビ」と

名付けられた。

生きる目的の無かったラビは今、一つの目的を

持ってある土地を訪れる………

ーーーーー



グースの手配で途中まで車で移動した

ラビとレオル。

2人は途中にある村で一泊した後、(ワシアを出て

2日後に)ナナ・ハーンへ着いた。


ナナ・ハーンはかつてはリゾート地であった

らしいが今は寂れていた。

広大で美しい湖の湖畔に宿泊施設が立ち並び

温帯的な気候で夏には海水浴なども楽しめたが

国家の財政の圧迫により、旅行を楽しむ国民は

減り続け、開発企業はどんどん撤退していき、

今では湖で漁業を営む者達だけが住まう

こじんまりとした村規模の人口となっていた。


「ここがナナ・ハーンか………」


ラビは目を細めて湖の景色を眺めた。


「綺麗な湖だな。内戦が治まり平和になれば

また賑わう日がくるかもしれない。」


レオルもまた湖を眺めながらそう呟いた。


「ところでラビ、どうしてここに来たんだい?

ここを選ぶ理由があったのか?」


「おいでよ♪おいでよ♪ナナ・ハーン♪」


ラビは唐突に歌い出した。

ラビが歌うなど信じられないと、腰を抜かしそうに

驚いたレオルだったが、その歌は聞いたことが

あった。


「………それって、俺がまだ小さい……三歳か

四歳頃にラジオで流れていた歌だ。

歌というかリゾート地の宣伝だったような。

そうか、ナナ・ハーンの宣伝の歌か。」


そう思い出したレオルは、ラビを見つめた。

相変わらずその顔からは何の表情も読み取れ

なかった。


「おいでよとは来てほしいという意味だろう?」


「確かにそうだけど……もう随分昔の宣伝だし

今ではこんなに寂れている………」


「そうだな、それでも呼ばれたからには一度

来てみようと思った。それだけだ。」


『呼ばれたって、ラジオの宣伝なのに…?』


レオルにとっては不思議な解釈であったが、

ラビがふざけているようには思えなかった。


「別に、今となってはどこでもよかったんだがな

………」


そう言うラビはいつもと変わらないのに

どこか寂しげであった。


「おいでよ」という言葉の響きが意味も分からず 記憶に残っていた。

「おいでよ」の意味を知ったのはずっと後だった。

 

それでも……

ラビは無意識にその言葉を気に入っていたのかも

しれない。

それとも強く求めていたのだろうか

誰かにそう言われることを……


どちらであっても、どちらでなくても

ラビにとってはどうでもよかった。

呼ばれたから来た。

それだけで充分だった。



「おいでよ♪おいでよ♪ナナ・ハーン♪

 おいでよ♪おいでよ♪ナナ・ハーン♪

 素敵な湖畔でリゾート気分♪」


ラビが歌う。

ラビの歌などこの世の誰も聞いたことが

ないものだったが、

案外声の質も合っていて

悪くはないものだった。


「懐かしいな……

俺も父親にナナ・ハーンって何? 

どういう所と聞いたものだよ。」


レオルは懐かしむような目をして言った。


「父親か……」


「?……どうしたんだい?」


「そういえば、人、いや動物には基本的に

オス親とメス親がいるものだなと思い出した

だけだ。」


「オス親メス親って……」


余りの言葉の選択にレオルは苦笑した。


「私は自分のオス親に関して考えたことが

なかったが、私にも多分いるのだろうな、

オス親……父親が。」


「会ったことがないのかい?」


「ない。存在するのかも分からない。

イーダは何か掴んでいたかもしれないが、

私には分からない。

だがそいつが……アレを捨てたから、

アレはあんな風になったのだと、今は少し

考えることができる………」


抽象的な言葉の連続でレオルは何も理解 

できなかったが、

ラビが何かを話そうとしている。

それだけは分かるのだった。




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