6-4.光



 ドリル採掘車は何というか不思議な操作感でした。筒状の部分の最後部にあるシート部分が操縦席であなたの指定席となっていますが、前にあるシート二つはリクライニングができて今は簡易的なベッドと化しています。ついでにあなたの発案でサティとメシエの二人にパジャマパーティーをしてもらっています。

 はっきり言えばこの空間にあなたがいるだけで魅惑のステキ空間により生み出される魅力が大幅に減少し神企画がゴミ企画になるほどのデバフ効果を発揮していると言っていいほどです。

 とはいえ彼女たちにパジャマパーティーを説明した際、あなたは眠りにつくための衣装だと言ったせいで彼女たちから不穏な空気を感じ取り、リラックスできる格好なら何でもいいと言った結果こんな珍妙な光景になったのですが。


『休む前にお話しするんだって』

『休む前の待機時間という事ですか? すぐに休めばいいのでは?』


 少しだけワクワクしているサティもすぐに眠れる質であろうメシエも何故かダイバースーツに宇宙的なテイストを付与したどことなく戦闘服のアンダー装備のような印象です。戦闘服そのものではないのは何故か関節部に大胆な切れ目があるからです。

 それいる? と言いたくなるようなおしゃれスリットですがその必要性について語るにはあなたの経験値が足りないようです。とはいえこういった得体の知れないフェティシズムを否定しようものなら熱いスリット狂から熱烈な勧誘を受けてしまうかもしれません。

 ですのであなたは気にしません。あなたが気にしているのは二人が横になる前に見たヘアスタイルの変更です。

 どこかスポーティな格好に似合うポニーテールの二人。なるほど、こういうのもあるのかとあなたは感心します。サティの高い位置でくくられた金髪とちらりと光る虹色のインナーカラーも、メシエの一本にまとめられたツートンカラーが何故か落ち着いた蒼銀になっているポニーテールもどちらも素晴らしいものです。

 とはいえ既に横になっているので見えないのですが。あなたから見える光景と言えば二人の頭頂部くらいです。そのレアなつむじもあなたはナビゲーション用のモニターに集中しているので大して気になりません。


『眠るってどういう感じなんだろう』

『意識の途絶、記録の整理、心身の自己治癒といった効果があるらしいですが、このデータの参照元は?』

『……これかな?』

『……? 意識の途絶に偏り過ぎているような気がしますが』

『ああ、はい、これも』

『ふむ。ああ、なるほど、これは確かに眠るについての記録ですね』


 中々アカデミックな話をしているようですがあなたにはあまり聞こえてきません。何を隠そうこの乗り物の中は非常にうるさいのです。

 掘削音が常に響いておりゴリゴリという音が響き続けている中で、時折固い岩石や地層にぶつかるととてつもない振動に襲われるのですが、車に乗った経験が生きているのか座席に使われているクッションは非常に優れています。あなたのお尻もこれには大満足です。


 あなたがちらりと正面の席で横になっている二人を見ると、あなたの指示通りに顔の前、あなたから見た頭上にカメラを設定しているようで大人しく横になりながら話をしているようです。


 ナビゲーションに従いドリル掘削車を運転していたあなたですがどうも掘削している層が変わったのか音や振動が緩やかなものになりました。


 随分柔らかくなったみたいだ。


 あなたの発言に反応したサティがモニターを増やすと、起き上がってこちらへ向き直りました。


『上手く移動できたみたいだね。もう少しで地表だから安全装置を確認しておいてね』


 シートに横たわったままシートごと起き上がったメシエは何も言わずに安全装置の確認を終えシークエンス完了の返事を出しました。

 あなたの席にある安全装置と言えばその4点式のシートベルトくらいです。既に装着済みですので一応確認だけして完了の返事を出します。

 ゴリゴリからザクザクへ。ザクザクからざりざりへ。そうしてナビゲーションが間もなく到着の合図を出したことであなたは徐々に速度を緩めます。

 突き抜けた感触と共に一瞬の浮遊感。そうして車体にどしんとひときわ強い衝撃が走ります。


『カメラ切り替えるよー』

『……ここは……随分違いますね』


 サティが展開したであろうモニターに映し出されたのは鬱蒼とした緑に覆われた緑と、その奥に広がる淡い緑の大海原。何という事もない草原。しかし視界一面の大草原は流石にあなたの記憶の中にも存在してはいません。


『地中を通るっていう事で今回は一気にここまで来たけど、いいよね』

『……はあ、まあいいでしょう。この地での調査はあなたに一任していますから』


 これまであなたが見てきた近未来ポストアポカリプスだった光景が一気に様変わりして荒廃した現代が緑に覆われたような世界観になりました。

 どこかこれまでの息絶えたような冬の世界から命が芽吹く春の世界になったような。そんな移り変わりを感じる世界に、あなたは少しだけ目を細めました。


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