カルマの断罪

川野 毬藻

平和の影編

第1話 平和の世界

 『ある日の事、僕は同級生を殺した。』


 〜今から十数年前にこの世界は1つの社会集団として世界政府に統一され、人々の争いがなくなり、肌の色、国境、民族の違いによる人種差別がなくなった「平和の世界」になった。人は皆「純人族」として魔力の技術が発達したこの世界で幸せに生活していた...なんて、そんな今の世界のことなんて自分には関係ない絵空事だと思いながら靴紐を結び、僕は高校へ向かった。


 「...ん?あれは...」と視線を向けると、一人の半人族の少年が警官に追われていた。

「コラ、待てー泥棒がー!!」その言葉の感じと、少年が手元に食べ物を持っていたことから窃盗をしたんだろうと容易に想像できた。それもそうだろう、半人族は今、社会的に差別を受けているからだ。


 この世界には、純人族の人の他に、人間と動物のハーフである「半人族」と呼ばれる種族の人が存在している。彼らはこの世界では人間ではないものとして軽視されていて、ほとんどの半人族は街から迫害されて近くの「裏町」と呼ばれる各地のスラム街で生活している。しかし、生活が苦しい為街中のお店の物を時折盗んでいくらしい。彼らと自分たちを区別しているのは、確か政府が指定している純人族用の腕輪があるかないかの違いだと言うのを授業で習った覚えがある。あと何か...もう一つ機能があった気が...そんなふうに考えてふと自分の右腕の腕輪を見た。

 それと同時に街中の時計が目に入った。8時10分...まずい、学校に遅れてしまう!僕は急いで高校に走った。


 息が上がったまま教室に入った、そして時計を見る。8時29分...朝のあいさつが始まる一分前だった。これで遅刻回避だ。

「おい咲田、あと一分だったぞ。授業についていけて無いんだから早く学校に来て自習をしておけ。」と担任の先生に言われてしまった。まぁそうだよなと思って僕は自分の席に座った。その後の授業は、先生の期待とは違い、特に何も変わらず上の空だった。


 授業終わりの昼休み、一人の星の髪留めをつけた女の子が僕に話しかけてきた。

「どうしたの煉瓦くん、遅刻手前なんて珍しいじゃん。」

「いや、別に...ちょっと家出るのが遅かっただけだよ。」僕は慌てて彼女に嘘をつく。だが彼女はそれを見透かしたように笑って言った。

「嘘だよ。だって煉瓦くん、嘘つくときいつも目が下向くんだもん。能力使わなくても分かるよ。」そう言われて、僕はいつもより小さくなった。彼女は未江野凪みえのなぎ、僕の小学校からの幼馴染で『超能力:透視Xレイ』が使える本物の能力者だ。


『能力』は、魔力操作の特異変化したもので、魔力での使用用途よりも多くの事が出来るのだ。ただ、『能力』を使うためには相当な魔力の量と技術が必要である。なので、魔力もろくに扱えない僕にとって、彼女は心強いヒーローであり、少し想いをはせているのだった。


そうして彼女と話していると3人の男たちが僕に近づいてきた。

「おいお前、この金で俺等の昼飯買ってこいよ。味が合わなかったらわかってるよな?」僕にお金を渡してきてこういった。彼は炭野哲矢、ぼくの住んでいるB地区で大成功している炭野金融の御曹司だ。いつも僕をパシリにしては文句を言い僕を殴る...要するに、僕は彼にいじめられているんだ。

「ちょっと、なんで煉瓦くんに昼ごはんを買わせるの?味が合わないなら、自分で買えばいいじゃない!自分で買い物ができないの?」と、声を荒らげて凪が怒った。それを聞いて、哲矢は顔をしかめた。

「なんだよ、お前には関係ねぇだろ。それとも何だ?俺に文句でもあんのか!?」それを聞いて、さらにエスカレートしていく。

「そうよ!あなたの親がどれだけ偉くても、あなたはただの意地っ張りで最低なダメ人間よ!」


 このままじゃまずいと思い、僕は仲裁に入った。

「ちょ...ちょっと凪ちゃん、もういいよ。そういうふうに思ってくれただけでいいから...」そう言うと彼女は落ち着いたのか怒気を抑えていった。哲矢もイライラしたような顔で仲間を連れて帰っていった。

「でもあんなふうにパシリにされて、悔しくないの?」彼女は僕に言った。

「それは...もちろん悔しいけど...」と僕は口籠った。僕には彼女のように正面から言い合える勇気も決意もない。でも、やられっぱなしなのも嫌だ。そんなジレンマにとらわれているのを彼女に見せたくないからだ。そんな葛藤を思いながら、僕は彼女とお昼を食べた。

 このひと時が、彼女を壊すとは想像しないまま...







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