第4話 夏織の強さ

「藤沢さん、素晴らしいですよ!」


 約1ヶ月前のことだった。

 私と平塚君の対局を観戦していた葉山先輩が、感激した様子で話しかけてきてくれた。正直、とても嬉しかった。

 葉山先輩は、後輩の私たちに対して敬語を使ってくれる。彼が将来……将棋のプロ棋士を目指しているかどうかについては知らないものの、成績優秀でもあるため教師になることもできると私は思っている。きっと、彼は優しい理想的な先生になれるだろう。

 葉山先輩は、その優しさを込めた声で私の指し方を解説してくれた。


「大駒の角を捨てる3一角の手が最高ですね。平塚君の玉に同玉と取らせて、6二の飛車を利かせて次の王手を4二金と打つと2二玉と逃げるから…………3二金と指して彼の銀を取って、1二玉と更に逃げた際に2一金の開き王手!」


 葉山先輩は、少し興奮しているようだった。将棋を知らない人にとって、彼の解説は理解しづらいだろうけど…………それだけ私の実力は高く、彼の実力は更に高いということだ。少しだけガマンして聞いていてほしい。


「平塚君が1三玉と指して上に回避しても、6二の飛車を横に進めて2一飛成として龍にパワーアップして王手を続ければ、2四玉と逃げても2五銀と打って……さっき取った銀を捨て駒にして同玉と取られても、最後に最後の持ち駒である香車を2六香と打って玉の逃げ場を封じて積ませたのですから! まるで、詰将棋に出てくる13手詰ですよ!」

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