第2話 檻の中のワタシ

”ワタシ”は、いつからか小さく暗い檻の中にいる。

なんとも居心地の悪い場所だ。

手も足も鎖で繋がれていて、何もできない。


もう随分長い間ここにいる気がする。

檻の外は今どうなっているのだろうか?

どんな色が広がっているのだろうか。

ここは暗くて色がない。強いていうならグレーだろうか。

慰め程度にほんのり灯りがついている空虚な空間。

誰に連れてこられたのかもわからない。

覚えていないのだ。

気付いたらここにいたのだから。

誘拐されたのだろうか??

それとも記憶がないだけで何か罪を犯してしまったのだろうか?


いつも同じことを考えては「わからない」で終わるのだ。

こんな日々がどれだけ続いているのかすらわからない。

一人ぼっちだ。

これまで何度も叫んでみた。ここから出してくれと…

でも誰もいないのだ。

誰も応えてくれないのだ。

声が枯れるまで叫んでみたのに、

助けてくれと大声で泣いたのに、

ここには誰もいない。

看守すらいない檻。

見張りがいないならどうにかがんばれば逃げ出せそうにも思えるが、手足も鎖で繋が

れているワタシは、ただでさえ不自由な空間にいるのに、更に動きを封じられている始末だった。

看守なんて必要ないほどにワタシの動きは制限されていた。

もちろん動ける範囲で探せるものを探してみた。

なんとか方法を探ってみた。

だが、鍵なんてものはもちろんなく、鍵の代わりになりそうな針金も、細い木の枝一つさえも、何一つ使えそうな物は存在しなかった。


私に出来ることは、助けてくれと叫ぶことか、泣いて悲しむだけだった。


孤独ほど辛いものはない。

誰にも声が届かず、存在を気付かれない事ほど悲しいものはない。

寂しさ・辛さを毎日毎日感じて生きていくのは、拷問に近かった。


檻のだいぶ上方には小窓がある。

小さな小さな、頭ひとつも出ない窓。

手足が自由になったなら、あの窓に可能性を見出してみようか…

そんな事を毎日思う。

ここから自由になれたらどんなに良いだろう。


でも、外の世界はそもそも安全なのだろうか?

そんな不安もよぎる。

猛獣がいるかもしれない。

犯罪者だらけの世界かもしれない。

戦争中かもしれない。

この檻が安全だから連れてこられた可能性だってある。

もしかしたら誰かに助けてもらったのかもしれない…


もし外の世界が危険に溢れた世界なら、今はまだここにいた方が良いのだろう。

そして、危険がすっかり去った頃に、私を愛してくれている家族や友人が迎えにきてくれるのかもしれない。

そんなおめでたい事を想って自分を納得させようとするが、頭はひどく冷静で、

「それなら私一人が檻にいる事自体変じゃないか。友人や家族だってここにいれば良いではないか!」とガッカリさせる言葉を囁いてくる。

そうして、また「わからない」に戻るのだ。


以前は誰と住んでいたのだろうか?

どんな家に住んでいたんだろうか…??

思いを馳せてみても、思い出せることが全くない。

ワタシが覚えているのは、この檻の中にいる自分だけなのだ。







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る