第5話  母とお仕事(4月9日日曜日夜)


ある日の田中家(+1)


自慢じゃないけど僕の母は若い。

おまけに美人。

そのため彼女と一緒に歩いていると、よく兄弟に間違われた。


「私たち4兄弟ね!」


母は笑顔でそう言いながら、僕と妹の肩を抱き引き寄せた。

そんな僕らは仲の良い兄弟にしか見えないよね。きっと


そんな僕らを父と兄は暖かく見守る。なぜか兄さんはそっち側

流石に父は見た目通りの外見なので、兄弟に間違われることは無かった。



小さい頃の僕は不思議に思っていた。

僕の母の職業は何だろうって。



モデル?タレント? 役者? 今考えると一番近いのは女優かもしれない。


子どもが3人も居るのに20代後半に見える。

若作りにもほどがある。

たまに現れるナンパに実年齢教えても信じてくれない。

そんな美女が自分の親なのです。



そのせいか、母が独りで外出することは殆どなかった。

絶えず誰かがそばにいる。

父 親衛隊長 

マネージャー 副隊長

付き人小林さん。平の隊員

僕たち家族

もうナンパ氏が近寄る隙さえ見せない。鉄壁のガード


中でも異色のコンビが母と兄

兄は父に似てイケメンだ

そんなイケメンな兄が母と並ぶとまるで恋人のようだ


家族で外出の際、たまに兄と腕を組んでは父を困惑させていた。

「この人は僕のだよ!」

そんな可愛らしい父の姿を見て母は喜んでいる。

ちょっと性格悪いよね母。


両親のそんな痴話喧嘩もどこ吹く風と、兄は淡々としている。

その姿は僕から見ても凄くかっこよかった。イケメン爆ぜろ

きっとイケメンな兄は、役者になるんだろう。


出来たら僕もイケメンに生まれたかった。無理だけど。

母にそっくりな僕はどうあがいてもイケメンにはなれない。


「王子様系のイケメンならなれるかも。ぼく美人だし」


「自分でいう?普通」


「ぼく男の子」ちゃんと付いてるから


そんな捨て身のギャグを考えていたら


「お姉ちゃんお下品!」


と妹からローキックを食らった。


「いやお兄ちゃんだから! 見て分かるよね! 我が家にお姉ちゃんなんて居ないから!」


こら人を指さすんじゃありません。

伸ばした指先を掴もうと手を伸ばすと、さっと逃げられる。


「あはは、お姉ちゃんドンくさーい!」と妹は笑いながら逃げていった。


こんな感じで家族は自分で言うのもなんだけど大変仲が良い。


そこへ5番目の男の登場する


「違うよーあたし女の子だよ」


当然のようにして我が家でくつろぐ女。

小さい頃は隣に住んでいた僕達の幼なじみ。


今は少し離れたマンションに一人暮らししている。


「御両親はいつ帰ってくるの?」


母にそう尋ねられた彼女は


「多分来週の末くらいですね。」


「多分?」


「恐らく?」


こうして僕の生活に肩までどっぷり使っている彼女は、第5の男ならぬ4番目の兄弟で5番目の家族だ。


だからこそ僕はたとえどんなに気まずくても、平気なふりをする。

自分でも健気だなーと思う。


健気な僕の努力を嘲笑うかのように爆弾が投下された。



「そうだ、思い出したわ。入学式には間に合わなかったけど代わりにいいものが撮れたの」

そう言った母はスマホを操作して画像フォルダを見せた。 げっ!


母「じゃーん!制服デートです!」

父「おお」

兄「ほほう!」

元「・・・・」

妹「ねえこれお姉ちゃん?」

僕「・・・」


なにこれ盗撮? ストップ盗撮!


「帰り道で楽しそうにしているカップルを見つけたら、どこかで見た顔じゃない。ふふふ。高校入学そうそうにに制服デートするなんて、我が息子もなかなかやるわね!」


「は? デート?」


隣に座る5番目の男改め、幼なじみの元カノからの視線が痛い。

しかし彼女は大っぴらに僕を糾弾出来ない。

ふふふ。

まさに策士策に溺れる!


なぜなら、僕達の付き合いは秘密事項!

彼女が最初に提案したからね!


僕たちの関係は家族の誰にも知られてない。(ただし一部を除く)


兄「へーやるじゃん 」

おのれ、ここで引き離す作戦だな!


妹「それ絶対女子会的のりだからね!勘違いしちゃダメだよ」

うん僕は男


母「ヒューヒュー」

ヒューヒュー!


父「ゆーくんが欲しくば俺を倒してから」

そこ違うから!


元カノ「ふーん。まあ別にいいけど」

いや、おま言う!


三者三様の反応を見てると、意外と好意的だった。(一部を除く)


彼女はだいぶイライラした様子だった。


「それで誰なの?このお嬢さんは」と聞いてくる母に


「今度一緒に学級委員をやることになった子」とだけ伝えたら。


「もう絶対やらないって言ってたよね?」


と元カノが食って掛かる。そこから攻めるか!


うーん


これは答えによって破綻する。

彼女の目はそう告げていた。 


いやまじで人を殺せる目だわ


そんな事を考えながら僕はある策を思いついた

起死回生の一手だ!


「・・・実は彼女と二人でクラス委員やることになったんだけど、どうやら彼女は女優を目指しているらしいんだ」


「へーそうなんだ」シンジテマセンネ


「たしかにとっても可愛いらしい子だったわね」


「うん、そしたら色々盛り上がっちゃってさ。 一応僕も昔役者やってたことあるからノウハウとか知っている。」


自分でも良くスラスラと嘘が思いつく。ひょっとして僕って文才あるかも! よし小説投稿サイトに応募するぞ!


そんな僕の小さな自己満足はさておき、母はしばらく何か考えているようだった。うん出来るかもと、独り言を言うと、ある提案してきた。


「なら一度その子を呼びなさい」


「へっ」


「普通ならこんな事やらないけど、あーくんお友達なら協力してもいいわ。ただしマネージャーさんの許可が出たらだけど。それでもいい?」


やばい! 話が大きくなってきたよ。


「そうだね。お父さんもその子にあってみたい」


「わたしも将来のお姉ちゃんに会いたい」


女同士だと結婚は出来ないよ! 僕男か!ならあってるか!


ちょっと混乱

恐る恐る元カノを見ると限界まで眉がよっていた! すげー怖い!

いや大丈夫だ。これはあくまで母の提案だ。 拒否権は僕にいや彼女にある。


「僕の一存では決められないから、明日彼女に聞いてみるよ。」


「ええ、いいわ」


よっしゃーー! 乗り切った!

そう返事をした僕はノーガードだった。


「じゃあその時あたしも行くよ。ちゃんと伝えないといけないからね」

 えっ


「そうね。お願いするわ」

 え


「じゃあ、明日よろしくね!」


にこやかに僕に微笑んだ彼女はとても綺麗で気絶するほどだった。

その指が僕の脇を思いっきりつねっていなければね。


いったあああ!

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