第二話 王族を相手に何がしたいのか分からない、修行にしてはあまりにおかしい…【頭が】

 王宮の中にある大法廷にて、罪人としてイブキ様が立っている…


『では!英雄イブキよ!貴様、最初から姫を誑かす気で近付いた訳だな!?』


 イブキ様は一瞬だけほくそ笑んだ後、真顔になり謎の演技を開始した。


『違う!姫と私は本当に愛し合っていました!姫、どうか真実を!』


 我が国の姫、リリー様が…いや、肥溜めリリーが言った。


『他国の姫、他国の英雄、そして自分の従者に力づくで手を出し!あまつさえ私の権力を狙う外道!この手紙が証拠よ!貴方は国外追放でもぬるいわ!晒し首が妥当よ!』


 イブキ様は顔を手で覆い、膝をついた。

 まるで絶望しているかのように…でも私には分かる。

 手のひらの下、あの人は…笑っている。

 しかも心の底から嬉しそうに…


 装衣【天衣兎萠】の式典仕様とやらで、まるで貴族の様な豪奢な鎧姿になっている私に、リリー塵姫が問いかける。


「貴女もそう思うでしょう?奴隷として買われ、遊ばれ続けた聖女…憎いでしょう?晒し首でしょう」


「ソーデスネ」


 私は立ち位置が、まるで王族を守るように立つ近衛兵のような、王族と共にイブキ様を糾弾しているかのような位置で立たされている。

 そして私は…リリーに「お前ら適当な事言ってると皆殺しにするぞ、いや、殺す」と言ったはずなのに【ソーデスネ】と、発した。


 身体を動かす事も喋る事すら出来ないでいる。 

 

 こんなクソみたいな茶番を…何とかせねば…

 何故、こんな事になってるんだ…







――それは少し前…私がある事実を知った日――


「何を考えているのですか?洗いざらい教えて下さい、どうか、お願いします」


 先日の一件から様子がおかしい。

 私は何も思いつかない、分からないので土下座して頼んだ。

 顎に手を当てながら思案するイブキ様。


「諦めるのが早いし、面を上げなさい。そうだな…先に言うと、お前は対策したりぶち壊したりするだろう?困るんだよ…色々考えたのに台無しにされると…【弟子の奴隷によるNTRからの下剋上END】も駄目そうだし…せっかくさ、唯一上手くいっている【姫のNTRによる嵌められ追放END】まで邪魔されちゃたまら…って言ってしまった…私は馬鹿か…まぁ分かんねぇか」


 今、何と言った!?

 【弟子の奴隷によるNTRれからの下剋上END】

 【姫NTRによる嵌められ追放END】


 時折難しい言葉を使うイブキ様だがENDは知ってる、終わりという意味の筈だ。

 転生者の書物で見たことがある。良く武術に使われている。


 分からないのは…【えぬ てぃ あーる】だ。

 謎の作戦?に2つとも入っている。


 弟子の奴隷による…という事は、つまり私が何かやらかす前提の話と思われる。そして駄目そうだと言っていた。


 後は姫…多分、姫はリリー様の事だ。

 我が国の王女、リリー様…聡明で美しく、次代はリリー様が女王の時代が来るとも言われている。


 イブキ様はリリー様の教育係についていたと聞く。

 その時の親交から先生と生徒の垣根を越えた関係…つまり恋仲に発展していたと聞いていた。

 実際、2人が話をしている時は、友人とは違う空気が出ていた。


 リリー様が…何を?


「分かりました、後は自分で考えろとの事ですね…お任せ下さい」


「いや、お前に何も任せてないが…おい!待て!」



 こうして私は師の計画の全貌を、知るべく動き始めた…



 が…




「リリー様、計画は…ハァハァハァハァ…上手くいきそうですか?」


「任せてレオン♥完璧よぉ…あのバカは近いウチ…裁判で最低でも追放よぉ♥」


 柱の影からある逢瀬を覗く…このまま殺そうか…


「…リリー姫…いや、リリー…絶対に許さんぞ…」


 私は【えぬ てぃー あーる】というのが何だか分からないが、とりあえず姫の状況を調査した。


 何故なら師は…私に裏切るように仕向けていたのだ…そして計画の一つに姫も関わっていた。

 つまり姫の身にも何かしら起きていておかしくない。


 すると…大して調べもしていないのに出てくる出てくる…なんせ、その日の夜に知った。

 

 このクソ姫、イブキ様とは愛し合っていたのではなかったのか?

 端的に言えばこの性悪淫乱王女、この女は死ぬべき女だ。


 まず、教育係で出逢ったと言っていたが自分の王国に囲う英雄かいない為に、冒険者をしていたイブキ様を無理矢理、教育係に持っていった。

 そこまでは良い。 

 

 ただ、イブキ様は好みでなかったらしい。

 イブキ様の存在を快く良く思っていない貴族、自分達では魔王軍を何も対処できない奴らから、甘いマスクを持つ貴族の次男坊をあてがわれ、リリーはあっさり落ちた。


 ただ、英雄たる片鱗を見せていたイブキ様を逃すわけにはいかない。

 そこで純粋ぶった演技で永遠に訪れない初夜の刑に処された。

 討伐に出る、遠征に出ると知ると毎晩のように甘いマスクの男と甘い夜を毎晩のように過ごして来たクソ姫。

 御主人様を、蔑ろにする事、ここに極まる。



 私は【天衣兎萠】で発情を知った、そして男性は常時あの状態らしい。

 イブキ様はこの発情状態で延々とお預けをされていたのか…

 そして長き討伐遠征の間、ずっと貞操を守ってきたのだ…考えるだけで頭が沸騰しそうだ。


 頭が沸騰しそうなのは決して潜入のために感度が上がり続ける【天衣兎萠】を装衣して大分時間が経っているので発情しているからではない。


 それはともかく、私の存在などまるで無いかの如く(気配を消してるので分かる訳無いが)情事を続ける堕姫、リリー。

 私は結合部から目が話せない、そして【天衣兎萠】の発情は肉体強化と共に感度も感情も上がっていく。

 そして脳内か【イ・ブ・キ・サ・マ】に染め上げられる。


 羨ましけしからん。

 私もして欲しい。他の英雄から従者越しに聞いた『ラッキースケベ』、何にも効果無いじゃないか?

 そもそもイブキ様は良くガッチガチになってるのを見るが優しく微笑むだけ。

 私が浴場と玄関を間違えて玄関でセクシーポーズを取って迎えても『ただいま』とかおかし


『アアアアアアアアエア♥♥♥♥♥♥』


 ゴクリ…


 私の脳内がイブキ様とのピンク色の妄想に染まる。

 じゃない、何クソ姫は絶頂してんのか?私も帰るわ!帰ってやってやる!

 

 私は駿足の歩法で帰路につき椅子に座っているイブキ様に襲いかかった。






 ………カチャカチャ…ガチャガチャガチャ…


 ふぉ!?気付くと私は正座の体制から動けなくなっており、イブキ様のスキル装衣生成が発動していた…私の装衣がカスタマイズされていく…


「装衣の効果を勘違いしている。その感情を何故、他に向けない…」


 クソ…やはりイブキ様はまだ一枚も二枚も上だ。

 あっさりと無効化され、土下座イモムシのようになった私は言った。


「姫の件…何故!あの様な態度!狼藉を赦しておいでか!?許してはいけませんぞ!聞いておいでが!?おいでませんか!?」


 諫言せねば!忠臣であるからこその諫言!


「私は今回こそ失敗しない…【勇者パーティー追放END】は阻止されたから…まさか勇者パーティー(仮)に転生者が7人中5人もいるとは思わんかったからな…でも今回は大丈夫…転生者はいない筈だ。お前が何を知ろうとも、決行する」


 以前…聞いた事がある。

 異世界から転生した者…その知識やスキルはこの世界に存在するありとあらゆる術や技を凌駕する、その有用性は群を抜いており、魔王もまた同じように転生者であると。


 イブキ様も転生者であるという事は本人から聞いた。

 最早、転生者でないと止められないような事なのか!?


「もうそろそろか…ワクワクするな…私もいよいよ…フフフ」


 何が楽しいのか…いや、イブキ様があのように笑う時は、策がハマった時の笑い方…一体何が…


「しかし…ハヒルの装衣…逆バニースーツとバニースーツを合わせるとは最高の発想だと思ったが、元の世界の奴らにバレた時、あんなに恥ずかしいとは思わんかったな…」


 何か…私を正座の状態で固定してガチャガチャしている…


「…コレで良し!思えばお前に会った時はこんなに暴れ馬だとは思わなかったが…まぁまぁ、良い思い出を色々ありがとう。これから出世して『最後まで

アイツ、自分の口がクセェの気付かなかったわ』とか悪役ムーブしながら私を罵るんだぞ」


 勝手にお別れの挨拶をし始めた!?

 イブキ様は何かに憑かれているのか?

 後、口は臭くないです…あ、朝方はちょっと…じゃない!

 

「勝手にお別れの挨拶をしていますが!?私は認めませんよ!何をするつもりなのか教えて下さい!拘束を解いて下さい!うおおおおおお!お!?」


 身体が動かない…いや、何とかするんだ!

 万力を込めて動こうとしていたらマスクを…コレは魔装衣…まさか…


「さぁ…来たぞ…始めよう…追放ヲ、いや晒し首か?とにかく絶望をな…ククク」


 コンコンコンコン…バタン!

 王国の騎士団?やたら偉そうな奴らが入ってきた。


「失礼する!イブキ殿はいらっしゃるか?王宮に来てもらおうか…」


「おやおや、これは…麗しの姫からのお呼び出しでしょうか?それでは参りましょう…」


 私は叫んだ、誰も近付けてはならないっ!これは罠だ!止めなければ!何だか良く分からんが罠だ!


「ハヒル殿もご同行願えますか?」


「ソーデスネ」

【貴様ら!帰れ!イブキ様は今忙しい!】


 え?


「良かった…貴女も貴重な証言者なので…助かりますよ、月の聖女様…」


「ソーデスネ」

【はぁ!?何いってんだ!人の話を聞け!貴様ら!これは罠だ!】


 喋れない…声を出そうとすると「ソーデスネ」って出る…何これ…マスク?


 何かガチャガチャやってると思ったら装衣がちょっと派手になっている。

 何に対してもソーデスネだけ返せず、私は勝手に王宮に歩き出した…私は全力でイブキ様を睨む…睨みながら魔力を辿ると…指輪から私の装衣に繋がっている…まさか…


「しかし、月の聖女様もこの色欲外道、英雄気取りのイブキの相手は大変だったでしょう?国民は皆、貴女の味方ですよ!」


「ソ、ソソ、ゾォ、ソーデスネ」

【御主人様!イブキ様!私を傀儡にして何をしようとしていますか!?私は絶対に!死んでも貴方の名誉と素晴らしさを喧伝する!聞いてますか!?】


「流石、月の聖女様だ、素晴らしいお返事。もし貴女が望むなら王は近衛騎士団長、いえ、大騎士長に推薦すると仰ってます」


「ソーデスネ!」

【お前には話してない!何が素晴らしいお返事だ!ふざけんなクソ馬鹿!口の臭いあの王の下で誰が働くかアホッ!王はイブキ様一人で十分じゃボケェ!】


 ガチャ…ガチャ…


 望んでいない発言をし、スタスタと王宮へ勝手に歩く足…。

 キョトンとした顔で「ハヒル、一体、なんの話でしょうね?」とか、全部わかってるくせに抜かすイブキ様…御主人様…絶対に何かやるつもりだ…私は最大眼圧で睨む。


 目を逸らした!?

 この人はいつもそうだ!

 

 初めて魔王幹部に従者達だけで挑んだ時、倒した暁には昔の様に抱きしめて欲しいと約束した。

 全力を尽くし満身創痍、装衣の発情は最大にまで達し、魔王幹部を退けた私はイブキ様に要求した。    

 するとイブキ様は私を木に押し付けた、私は最大発情の結果『木』と『イブキ様』を間違えたまま、木と逢瀬に発展していたらしい。

 

 最後の魔王討伐戦、私も付いて行くと言って聞かなかった。もし連れて行かないのであれば最後に寵愛を頂きたいと申し出た。

 すると、私をまた『木』に押し付けて最大発情させ、私が逢瀬を果たしていると勘違いしている間に討伐に行った。

 他の従者に見られた私の渾名は【空蝉】


 更に言えば、討伐の式典の時に初めてドレスなるものを着てパーティーに出た。

 私もそれなりに社交界には出ていたが『改造した天衣兎萠でダンス百人組手が終わったら相手してやる』と言われ、興味のないクソ貴族の相手をしてるうちに発情してからがらイブキ様の所に行ったら、丸い柱に押し付けられて逢…


「ソーウデスネ」

【ムガアアア!イブキ様!私は…私は何としても貴方の計画を止めて見せる!何やってるのか分からないけど!私の!わたしのぉぉお!!!】



※次回、いよいよ追放裁判。フォロワーがいきなり増えてビビる

 


 

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