第6-2話 秋田の夜空を翔る星の謎を追え!【推理編】

 しばらくディーゼル音を聞きつつ、北秋田の大自然を眺めることになる。

 合川あいかわの森林、米内沢よないざわを越えると山が大きく見えてくる。

 唸るディーゼル車。田畑を沿うように走り抜け、トンネルも超える。

 山間の地点、ここが阿仁合あにあい駅であった。


 阿仁合あにあい駅は有人駅で、駅員さんに運賃を精算してもらった。

 外に出ると、4と4が合わさった駅舎が見える。しあわせ。なるほど、縁起がよさそうだ。

 ホームズさんは駅外にある『しあわせの鐘』を叩き続ける。どれだけ幸せを欲しているんだ。

 すると、怪人しあわせの鐘叩き女エルフさんに、カメラのレンズを向ける男性がいた。


「レナ、久しぶり~!」

「やめなさい、らいり」


 男性にカメラのシャッターを何度か押させてから、芸人さんのように景気良く頭をスッパ叩く女性がいた。

 女性の動作は大きいが、声は淡々としていた。


「あ~、レイアさ~ん。何で怒っているの~?」

「他人をヒトと認識してカメラを向けないからです」

「お~、データ容量の心配してくれるの~。じゃ、やめる!」

「そうじゃ……な……いけど、まぁいいか」


 独特の雰囲気で、阿仁合あにあいの男女が迎えてくれた。

 彼らは去冬にホームズさんがお世話になった方々のようだ。

 今回の件も、その縁である。

 カメラが趣味で対人距離が独特な男性が、津谷来里ツヤライリさん。阿仁あにの風景を撮っているうちに、流れで移住していたらしい。

 行動力がある分、声が小さい女性は、斉藤怜亜サイトウレイアさん。若手の農家さんらしく、らいりが外の女子に手を出さないように監視で来たとのこと。


 ホームズさんに促されて、私も軽く自己紹介をした後、これから何をするか尋ねた。


「これから何をするんですか?」

「あ~、寝るんだよ~」

「ふぇ?」

「夜を待たないと……ね」

「ふへぇ?」


 ライリさんは寝ると言い、レイアさんは夜の行事だと言った。

 何のことか分からない私は、良からぬことを想像して顔を真っ赤にした。

 そこに助け舟。ホームズさんが笑顔で、私の手を握った。


「今夜、星を見に行こう」

「最初からそう言えし~!」


 反射的に、私は頬を膨らませた。

 ホームズさんのドラマチックな演出が逆効果になっている。

 確かに夕空ではあるが、まだ夜空には程遠いので、寝て待つだろう。

 夜を待つのは、星空を待つので当たり前だ。

 大館おおだてでも星は見えそうなものだけど、森吉山もりよしざんの麓まで来たわけがある。


「光害が少ない」

「星空バカの言う通り、阿仁あには田舎です。都市部から離れています」

「レイアさんは僕のことバカって言うけど~、君たちのことを心配で付いてきた辺り~、どっちが優しさあまってバカなんだろ~」

「女子高生を誘う、あなたの節操を心配しているんです」

阿仁あにの星空は魅力的だし~。それは誘うだろ~?」

「そっちの方の意味で言っ……てない。でも、間違ってないからいいや」


 微妙に阿仁あにの男女は会話がかみ合っていない。

 ただ、多少のすれ違い会話が許される土俵であることを私は確認できた。

 つまり、今夜こそホームズさんをレナ呼びするチャンス到来なのだ。

 行け、私……ッ!


「レ……」


 ぐ~。

 法界折を全部食べたはずの私のお腹が鳴った。声はかき消された。

 ホームズさんが頷いた。そして、阿仁あにの男女ペアはこういうことを無言で察してくれる。

 笑って茶化すことはなかった。


「うん、腹減ったな」

「そんな気がしたので、たくさん作ってきました!」

「山には虫がいるし、暗がりでは食べにくいから、今食べようか~!」


 重箱にぎっしりとおにぎりが詰まっていた。阿仁あに、至れり尽くせり!

 レナと名前を呼ぶより、まず食欲が勝ってしまった。

 ぐぬぬ、無念。

 私たちは駅の休憩スペースで、おにぎりを食べつつ、夜になるのを待った。

 そのうち日が沈んで、辺りが暗くなってきた。


 ヘッドライトを付けたライリさんが、私たちに何かを向けた。

 謎の煙で、半分寝ていたホームズさんは起きた。


「よ~し、ふぁいあ~!」

「にょわっわわーッ!?」


 レイアさんが別の缶で、私に虫よけスプレーをかけてくれた。

 阿仁合あにあい駅から見える夜空は、今までで一番澄んで見えた。

 これから車で向かう森吉山もりよしざん阿仁あにスキー場は、夜の星が見える一大スポットである。


阿仁あにマタギは、星空を頼りに方向を見失わず歩き続けた」

「何億光年離れていても、過去から現在を照らしてくれる~。歴史をつないでいくのも、星のロマンさ~」


 阿仁あにの男女ペアは、格好いい台詞をさらっと語る。

 たまにスイッチが入ったホームズさんの台詞に似ている。

 彼女はボーと星を眺めていた。今は、そういう夢の時間だ。

 つづら折りの山道を車が進んでいた。


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