第35話

エルフ!?

俺はフェリスさんの方を向く。

フェリスさんもこちらを見て目が合う。


どうする?

助けるべきか?


「ほぉ……エルフの女か……」

雑魚兵士がニヤリと笑う。

ヤバいな。

このままではエルフが奴隷にされてしまうだろう。


フェリスさんの表情に焦りが見える。


「ぎゃぁ!!」

「何だ!?」

地下室から叫び声が聞こえる。


「ひぃ……」

「ぶ、武器です!! このエルフ武器を持っています」


バタバタと奴隷たちが逃げ戻ってくる。

「おい!! 勝手に戻ってくるな!!」

しかし奴隷たちは血相を変えて走り出てくる。


「止まれ!!」

兵士たちが剣を構え、出てくる奴隷たちを止める。

最悪だ……

地下に止まっても、外に出ても殺されかねない。


「フン!!」

「ぎゃぁ!!」

雑魚兵士の一人が悲鳴を上げる。

スイセンだ。

スイセンが一人の兵士の腕を捻り上げ、剣を奪う。


「貴様!! 何をしているのかわかっているのか!?」

「まぁね」

ズシャッ!!

奪った剣で雑魚兵士を斬り伏せている。


マジかよ。

俺はフェリスさんを庇うように徐々に戦いの場から遠ざかる。


「クソ……」

「ぎゃぁ!!」

ズバ!!

ズシャッ!!


スイセンは次々に兵士を斬り伏せていく。

速いな。

やはり相当強い。


そして、あっという間に全ての兵士を殺してしまう。


他の奴隷たちは腰を抜かして見ているだけだ。

「正気ですか?」

俺はスイセンに問う。

「あぁ。至って正気だ。下にいるエルフは結構強い。あのエルフと戦うよりも、ここの兵士を殺した方が楽だと思った。それだけだ」


「どうするんです?」

「フ、お前こそどうするんだ?」

スイセンは手際良く兵士の死体を漁りながら言う。


「お前、エイハンとかいう兵士が戻ってくるまで待つつもりか?」

「それは……」

スイセンは逃げ出す気だ。


「勇者様……」

フェリスさんが俺を見て言う。

そうだった。

エルフ。エルフだ。

「俺は地下にいるエルフに会ってきます」


「おい、お前こそ正気か? 丸腰じゃ殺されるぞ」

「俺はエルフの敵じゃありませんから」


「しかしダメだ。俺と一緒に来てもらう」

スイセンは剣を俺に向ける。

「な!!」


「俺はホッセイに帰る。お前を連れてな」

「ちょっと待ってください!! 俺は……」


「そんなつもりは無いってか? まさかお前、奴隷根性が染み付いてるのか?」

「いや……そういうわけじゃ……」

マズイな。

早くエルフに会っておきたい。

エイハンも戻ってくる可能性がある。


「なら早く逃げるぞ。エイハンとかいう兵士がきたら厄介だ」

「いえ、行けません」


「……何か他に訳があるのか? 人質か?」

「いや……」

違う。

ここは魂について話してしまうべきか?


「なんだよ。ぐずぐずしてる暇はない」

「………………」


「仕方ねぇな。力づくでも連れていくぞ!!」

ブンッ!!

スイセンは剣を鞘に入れそれで攻撃してくる。

俺を殺さないようにしているのか。


「くっ……」

ギリギリでかわすことができた。

丸腰でスイセン相手はきつい。


「お前のような貴重な人材をここに置いておくわけにはいかない。

 骨の二、三本は覚悟しろよ」

「お待ちください!! この方は遺跡を離れると消滅してしまうのです!!」

フェリスさんが言う。

え!?

何それ。

マジで?


「は? なんだそれ?」

スイセンは攻撃を止めるが、すぐにでも斬りかかってきそうだ。

「この方は私が遺跡で召喚しました。

 ですから、あの遺跡を離れすぎると消滅してしまうのです」

嘘!?

それ初耳なんですけど!!


「なるほどな。そういうわけか」

「………………」

どうする?


「確かにそれなら筋が通る……」

スイセンは納得した?

助かったのか?


「なら仕方ないか……」


ブン!!


ブシュッ!!


左肩に鋭い痛みがあり、少量の血が飛び散る。


「うわ!!」

げ!!

こいつ斬りかかってくるのかよ!!


クソ、かすったぞ

いつの間にか剣も再び鞘から抜かれている。


「なんで!?」

「いや、それならいっそここで殺しておいた方がいいだろ。

 これ以上メージスの領地が増えても厄介だしな」


マジかよ!!

最悪だ……

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