第13話 彼女に報告

娘を連れて、帰宅した私は証拠を集める為に盗聴器を聞く事にした。

夫が誰かと話している声がする。

私は、録音機を繋げて録音をし始めた。


「やっぱり金なんか意味がないんだなーー」

「大変だな。そっちは、そっちで……」


どれだけ聞いていても、決定的な何かを話す事がない。


「お腹すいたよね。絵茉……」


絵茉は、黙って遊んでくれていた。

こんな光景見せてるのはおかしい気がする。

私は、絵茉を抱いてキッチンにむかう。

あの様子じゃ、夫は私が帰宅した事も気づいていないはずだ。


「絵茉のご飯作るから待っててね」


リビングに置いてあるソフトプレイルームに絵茉を座らせる。


「待っててね」


絵茉は、プレイルームの中でおとなしく遊んでくれていた。

私は、晩御飯と絵茉のご飯を作る。

ご飯の支度をしながら、決定的な何かが足りないと思っていた。

ただ、その何かをどうやって見つければいいのかがわからない。


晩御飯を作り出すと夫が現れた。


「あのさーー。これから、朝御飯は外で食べるから……」

「えっ?」

「ほら、絵茉もまだ小さいし。しほりも何かと大変だと思うから……」

「でも、毎食朝御飯を外食ってなると大変じゃない?お金だってかさむわけだし」

「大丈夫、大丈夫。お小遣い切り詰めるから気にしないでいいから」


何が大丈夫なのだろうか……。

切り詰めた所で三万円で足りるのだろうか……?


「今日の晩御飯何?」

「えっ……。あっ、しょうが焼き」

「うまそうだなーー。楽しみだわ」

「うん」

「じゃあ、俺は絵茉と向こうにいるわ」

「うん」


他人から見れば、よき夫なのかも知れない。

でも、実際は浮気してる最低な旦那。

晩御飯を作り、私はダイニングテーブルに並べた。


「絵茉。行こうか」

「まんま……まんま」


絵茉は、嬉しそうにはしゃいでいる。

向かい合って、「いただきます」をした。

私は、いつものように絵茉にご飯を食べさせる。


「あのさ。私に隠し事とかないよね?」

「隠し事?あるわけないじゃん。何言ってんの」

「そうだよね。それならいいの」


直接、本人に言っても嘘をつかれる事はわかっていた。

ほんの少しの良心があったら、もしかして言ってくれたりする?何て期待したけれど……。

甘かった。

晩御飯を食べるとすぐに夫は、部屋に行く。

私は、シンクにお皿を置いて絵茉に軽く歯磨きをしてから寝かす。

絵茉は、眠たかったようで珍しくすぐに眠ってくれる。


「気持ち悪い」


頭にこびりついて離れない、あの映像に吐き気がする。

夫の優しさにも……。

絵茉の部屋で、盗聴器を聞く為に耳にイヤホンを入れる。

夫のスマホゲームの音が聞こえるだけだった。

結局、何の手掛かりも持っていけそうにないまま。



朝、目が覚めて絵茉を見つめていた。


「絵茉から、パパを奪ってしまう事になったらごめんね」


私は、絵茉を抱き締める。


「あーー。まーーま」

「おはよう、絵茉」

「おーーよう」

「良くできました」


私は、絵茉を抱えてリビングに向かう。


「おはよう。じゃあ、俺行くわ」

「お弁当は?」

「今日は、いいわ。じゃあ」

「気をつけてね。行ってらっしゃい」


私よりも夫が早く起きている事に驚いていた。

朝御飯も、昼御飯もいらない何て。

不倫相手と一緒に食べるであろう事は明白だ。

わざわざ、ついて行かなくてもわかる。

私は、絵茉に朝御飯の用意をして食べさせてから、すぐに用意をして、服を着替えて家を出た。


「またなの。しほり」

「ごめんね、お母さん。でも、見てもらえる人がいないから……。これ、絵茉の用意ね」

「はいはい。でも、しほり。乳呑み子を置いて出掛けてばかりいると不倫だって近所の人に騒がれたりするのよ」


私は、母の言葉に反応してしまった。


「何も、そんな怖い顔で睨み付けなくてもいいじゃない。別に、しほりがそうだって言ったわけじゃないでしょ?」

「わかってる」


とっさに睨み付けたのは、夫の事を思い出したからだった。

乳呑み子を母親に預けて出かける私は、不倫を疑われ……。

仕事をしている夫は、疑われないなんて……。

そんな不公平な事がある?

男女差別っていうのは、こんな所にまで存在してるのね。


「9時に待ち合わせなんでしょ?早く行きなさい」

「ごめんなさい。お母さん」

「いいから、いいから。友達が悩んでるんでしょ?私も若い頃は、あったから気にしないでいいのよ」

「ありがとう」


私は、母に絵茉を預けて実家を出る。

昨日も朝が早かったから、私は母に嘘のメッセージを送った。


【ゆかりが、離婚しようか悩んでて会社に出勤前に会う約束になっているの】と……。

ゆかりとは、中学から仲のいい友達。母もよく知っている。

旦那さんと一緒に九州地方に転勤した。

今月、出張でここら辺に来ている。その時に、母と私と一緒に会った。

一昨日帰ったと連絡があった。

けれど……。

母には、その事を話していないのでゆかりが……と嘘をついたのだ。

母は、私の嘘を信じてくれて今日も絵茉を預かってくれた。

私は、彼女の会社へと向かう。



彼女の会社に着く。


「社長から聞いております。こちらをどうぞ」


一度目とは違い、私はすんなりと受付を通される。

首から、【ゲスト】と書かれたパスケースを下げて社長室へと向かった。

これ程、大きな会社の彼女と私に接点が生まれるなんて夢にも思わなかった。


コンコンーー


「どうぞ」

「失礼します」

「おはよう、しほりさん。待っていたわ」

「おはよう」


私は、彼女に軽く会釈をしてから社長室に入る。


「どうぞ、座って……」

「はい。あの、盗聴器の会話を持ってはきたけど……」


私は、彼女から尋ねられる前に答えていた。


「決定的な証拠ものは掴めなかった?」


私は、彼女の言葉に驚いた顔をする。


「やっぱり、しほりさんの所もそうだったの」


やっぱり……。

彼女の言葉に、夫達がと思っている事がわかった。


「それなら、これを使うしかないかな」


彼女が差し出したを見つめながら固まる。

を使ってしまえば、全てしてしまう。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る