第2話 ヒモってる場合じゃねぇ!クエストしなきゃ!

 アマラウに拾われて一週間。俺は立派なヒモになってしまった…。


「今日のお昼代ここに置いておくからね」


 そう言ってアマラウはテーブルの上にお金を置いていって仕事に出かける。俺はまだソファーの上でだらけていた。


「今日は何打とうかな?いや。雀荘に行くのもありだな。それともスロット…。うん!今日はスロットだ!」


 俺はテーブルの上の金を握りしめて部屋の外に出る。ここはアマラウの住む天喰カンパニーの下級社員女子寮である。当然男の俺が廊下なんかを歩いていると怪訝な目で見られる。だけどそれは俺が知る女性の反応ではない。ヒモを飼い始めたら大抵は眉を顰めるだろうが、むしろ男の俺を部屋に連れ込んでいることを不思議そうな目で寮の女子たちは見てくる。それがどういう意味なのかわかっていない。そんな感じだ。もっとも俺もヒモってるとは言えども、体の関係とかがあるわけではない。


「おし!来た来た来た!!しゃーー!!」


 今日は大当たりの日だった。スロットからジャラジャラとコインが大量に吐き出される。天喰カンパニーの城下町であるキンバリー市の繁華街の一角にあるパチ屋で俺はスロットに夢中になっていた。最近のソシャゲーはファンタジーよりもリアルSF志向の世界観が多い。この世界もその流行りの影響を受けており、現代レベルの生活が送れるようなファンタジーサイバーパンク?とでも言うような世界観だ。当然だが、飯もそこそこうまい。俺はスロットで勝った金で牛丼を特盛でトッピングに色々乗せて豪勢な昼飯を楽しむ。


「てか異世界悪役転生要素どこ行った?!馬鹿か俺は!?」


 俺は牛丼屋のカウンターに頭を打ちつける。この一週間まじでヒモしかしていない。ひたすらギャンブルやって夜になったらアマラウの部屋に帰って飯を作って、そんな半端者の生活を送っている。だって未来に向けて準備をするためにはリスクを負わなければいけない。例えば魔法の練習とか、モンスター相手に戦って強くなるとか。だけどそういうことをしたいとアマラウに言うと涙目で。


「あたしが養ってあげるから無理しちゃダメ!」


 などと言ってくるのだ。女の涙はズルい。やる気がすぐに萎える。だから俺はいまこうして怠惰な生活を送っているのである。


「でもそろそろやべぇよなぁ。一応魔法の練習はしてるんだけど」


 この世界の御都合設定の一つに地球から来た奴は強いという設定がある。俺もその例にハマるようで、魔法を学べば学ぶほどガンガンと成長しているのを実感する。最近のキャラ集めと育成メインのスタイルを踏襲しつつも、主人公もヒロインたちと一緒に戦うのがこのゲームの特色だ。だから主人公の育成を怠り、後ろからヒロインの尻ばかり見てるとあっという間にゲームオーバーになる。指揮官とか先生とかマスターとかパパとかヒロインたちから呼ばれて悦になて努力を放棄すると詰みだ。


「はぁ…とりあえずなんかのクエスト受けるか?」


 単発のクエストは天喰カンパニーの冒険人材派遣センターに行けば請け負える。それで雑魚モンスターでも狩っていれば主人公と戦う前までに圧倒的なアドバンテージが得られるのではないだろうか?


「お、そこのヒューマンのにーちゃん。クエスト受けるのか?珍しいな。ヒューマンっていえばみんなカンパニーの正社員を目指して頑張るもんじゃないのか?」


 俺の隣の席に座る狼男が珍しそうな目で俺を見ている。この世界、いわゆる亜人種という連中は毛むくじゃらのマジのガチ系の獣人だけだ。ネームドキャラクターとしてはいくらでも登場するがパーティーメンバー、つまりヒロインとかにはならない。


「俺は適度な生活できればいいんだよね。企業の激しい出世競争なんて参加したくないよ」


 この世界の特色としてヒューマンと獣人たちとの生活習慣の違いがある。獣人たちはそれぞれ民族や種族ごとに国家やそれに準ずる共同体を形成してそこで生きていくのがふつうだ。現代人みたいな生活をしている。逆にヒューマンは国家などを作らずにカンパニーと呼ばれる企業に所属して生活するのが一般的だ。なお企業とか言ってるくせに普通に軍隊なんかも所有しているので、准国家みたいなものかもしれない。だけど人材はわりと流動的らしいし、新しい企業を立ち上げる奴らも多いらしい。かくいう主人公もカンパニーを起業して、ヒロインを正社員として雇用するという形でゲームは進んでいく。基本はRPGだけど企業育成要素もあるのだ。タワーディフェンス的とも言える。なおヒロインたちは主人公のことをプレジデントないしは社長と呼ぶ。だからだろうか?エロ同人誌は社長のセクハラネタが多かった気がする。それと同人誌内で転職をNTRって呼んでて笑った記憶がある。『だってぇ!こっちの社長さんの方が!あん!福利厚生が太いのぉ!』そりゃ寝取られるわ。げらげら。


「へぇ。エコノミックアニマル・ヒューマン様の発言とは思えないねぇ。あんた変わってんな。俺はリカルド・ストーンブリッジ。なあ暇なら俺のクエスト受けてくれよ。あんた腕立ちそうだし」


「なになに?やばい仕事ならやらないよ」


「大丈夫大丈夫。ちゃんと天喰の冒険人材派遣センターにクエスト発注するから後ろめたいことはないよ。俺さぁ市内で色々とデリバリーやってるんだけどさ。料金を踏み倒す奴らがいてさ。全員ヒューマン。俺たち獣人はヒューマンに見下されてるから金を払ってくれなくてな」


 狼男は悲し気な目でそう言った。この世界の人種間問題はなかなかにエグい。ヒューマンは獣人を蔑み見下している。そういうのってかっこ悪いと思います。


「そりゃ許せんな。いいよ。そのクエスト受けるよ」


 俺たちは天喰の冒険人材派遣センター、みんなギルドって呼んでるけど、そこへいってクエストの契約を交わした。そして俺は市内にいる未払い客へところへと向かったのだ。









 支払いをさせるコツは簡単である。


「すみませーん。クエストで来ました。未払いの配送料を払ってください。お願いします」


 ただただ丁寧にお願いするだけである。誠意こそが仕事に最も必要な行為である。


「あん?獣人ごときのデリバリーでなんで金なんて払わなきゃいけないんだよ!?つーかてめーヒューマンの男子のくせに獣人から仕事を請け負ってるのか?!恥を知れ!!」


 俺が訪れた最初のお客さんはいきなり剣を抜いてきて、俺に斬りかかってきた。俺はそれを魔力で強化した視力で避ける。


「いきなりバトルかよ?!」


「うるせよ!俺は天喰の正社員様だぞ!誰が払うか!!」


 なにこの殺伐とした治安状況。あと正社員アピールがウザい。この世界のヒューマンの格は所属している企業で決まる。大企業の正社員は当然偉い。逆は当然カス扱い。なんだよ現実とかわんねーじゃねーか!


「ざけんな!いいから払えこらぁ!!」


 俺は魔力を右手に注ぎ込んで、正社員が振るってくる剣を思い切りぶん殴る。すると剣がパキンと音を立てて粉々に砕けた。


「なにぃ!まだクレカの支払いが4回も残ってる名刀がぁ?!」


「リアルな数字出すのやめろぉ!いいから払えこらぁ!」


 俺は正社員様につかみかかり関節技を極める。


「痛い!いたたたたあああああぎゃああああああ!!」


「払うか?!」


「払いましゅ!」


 俺の関節技がよく効いたらしく正社員様は諦めて俺に金を払ってくれた。


「これに懲りたら獣人相手にもちゃんと金を払えよ!」


 俺は捨て台詞だけを吐いてその場を後にした。








 その後そんなことを何度も繰り返してクエストを達成した。集めた金を狼男さんに渡すと大層喜ばれた。


「ありがとうな!おかげで助かったよ!これは報酬。それとおまけでこれをやるよ」


 約束の報酬と共に長い刀を貰った。


「昔客が配送料代わりに押しつけてきた奴だけどあんたなら使いこなせそうだからな。貰ってくれ」


「サンキュー!こっちの方が嬉しいわ」


 俺は刀を鞘から抜いて波紋にうっとりとする。男だからこういうファンタジーなアイテムにはやっぱり憧れる。


「この調子でまた頼むわ」


 クエストを達成して、仕事した感がとても味わえた。病気になって以来初めて、何かを成し遂げられた。その充実さが俺の心を満たしてくれた。久しく味わっていない生きてるって実感。それを味わいながらアマラウの部屋に帰ったのである。





 アマラウとの食事を終えて一緒にリビングでテレビを見てたときだった。


『キンバリー市の郊外で古代の都市文明遺跡が発見されました。まだガードロボットなどが機能しており、大変危険です。現在天喰カンパニーのミーレスによって調査が行われている最中ですので決して近づかないようにしてください』


 ニュースで何やら物騒なことを言っていた。


「この遺跡上級ミーレスたちでもかなりきついみたいなの。まあひと月もあれば完全に制圧されるでしょうけどね」


 俺の肩に頭を預けながらアマラウはそう言った。絶対に距離感バグってるよね。まあバグってるお陰で俺はこの世界で生活基盤をゲットできたので何とも言えないけど。


「へぇ。上級でもきついんだ。まるで隠しダンジョンだな」


「なにそれ。ゲームみたいな表現ね。ウケる。ふふふ」


 だけど自分としては良い例えに思えた。ニュースは発見された都市文明遺跡の内部映像を流していた。その時ふっと思い出した。あ、これまじで隠しダンジョンだと。正確に言うとリアルのイベント限定で配布されたシリアルコードをアプリに打ち込むとオープンになるダンジョンである。そのダンジョンを攻略するとこのイベント限定でしか手に入らないキャラクター『アーキバス』がゲットできる。リアルイベント限定配布にふさわしい壊れ性能を持ったウルトラチートキャラである。UR超えてもはやLRだろう。だから思った。これってチャンスなのでは?


隠しキャラをゲットする。

主人公とのバトルで使う。

圧勝!



 これだ!俺の勝利の方程式!!プレイヤー主人公なんてきっとリセマラ繰り返したバケモンに決まってる。ならばこちらもチートをぶつける他ない!微かに見えた生存のチャンスに俺はほくそ笑むのであった。





****作者のひとり言****



私はどっちかって言うとメインストーリーよりも街とかで発生するサブストーリーとかが好きです。


ではまた(*´ω`)

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