第12話 リモコンの秘密

 2日後、大神優子は退院して大神医院にいた。



 普通なら数週間の入院が必要なのだろうが、あのアップルパイ社の治験薬、人体用瞬間接着剤のHC-1000の威力は素晴らしいものがあった。傷口はもう全く残っていないという。

 彼女の付けていた人工男根は、彼女の強い意向により、そのまま、完全廃棄されたと言うのだ。



 私は、大神優子から、彼女が使っていた人工男根のリモコン装置を1台借りた。それを詳しく分析せねばならない。彼女のリモコンと私のリモコンは同型のものである。互いにリモコンの暴走を経験しているから、そのリモコンには何らかの欠陥があるに違いないのだ。



 それには一人うってつけの人物がいた。私が高校生の時に、私のガリ勉を阻止しようとカッターナイフを向けたあの湯川弘である。



 彼とは、あの一件を私が担任の先生にも校長にも誰にも言わなかった事から、無二の親友になっていた。湯川弘は、今はZ大学工学部大学院に進学し産学協同で、現在、超大型量子コンピュータの研究開発を行っていると聞いている。



 この湯川に、あのリモコンの回路を分析してもらうつもりだった。



アメリカへ渡り、アップルパイ社とマッシュルーム社を訪問していた大神博士からは色よい返事は来なかった。どちらかの会社が嘘をついているのか、あるいは両社ともグルなのかもしれない。



 私は、湯川に、アメリカで作られた人工臓器のリモコンが、時々、本人の意思を無視して暴走するので、その回路を詳しく調べて欲しいと連絡した。



「うーん、しかし、今、俺は、日本国家を挙げての産学共同で開発中の超大型量子コンピュータの『アマテラス』の研究開発で忙しくてとてもそこまで手が回らんのやがのう……」



「なあ、湯川、聞いて驚くな。この、たかが人工臓器のリモコンといえど、作ったのはあの世界的な製薬会社のアメリカのアップルパイ社と、世界一のコンピュータメーカーのマッシュルーム社の共同制作作品なんやぜ。



 特に、リモコン内のマッシュルーム社のCPUの本体そのものや、その回路の分析は湯川の研究にも役立つんじゃないんかなあ?」



「そ、それは、本当か?今、マッシュルーム社は、産学軍と共同で世界中の人間の全てのデーターを保存・処理できる超大型量子コンピュータ『666(別称:ビースト)』の研究に着手しているとかと言う噂話がある。



 その超大型量子コンピュータ『666(ビースト)』の名称は『新約聖書』の「ヨハネの黙示録」から命名されたとの事で、あくまで国際テロ対策を名目にそのコンピュータを使っての「マイクロチップ埋め込みによる全人類支配計画」、別名「アカシック・レコード計画」、そして個々人の遺伝子情報までもを、全て記録するという夢みたいな計画の話さえ聞いているぐらいなのだ。



 そして、そのビッグ・データを利用して、今後の国際テロ計画や戦争等を予測し、その対応に当たるとか……。最新のAIを併用してね。



「アカシック・レコード」とは、オカルト関係の世界では有名な言葉で、つまり、過去・現在・未来の全ての情報が、宇宙空間の何処かに存在する「アカシック・レコード」と言う空想上の記録媒体に保存されていると言うあくまで仮説上の話やがな。

 その説を唱えたのは、ドイツの学者のルドルフ・シュタイナーと言われているんや。



 勿論、オカルト関係の話やから正当的な科学界からは完全に無視されているが、この壮大な計画に、その名前だけは利用させてもらっているらしいんや。



 何しろ、この超大型量子コンピュータ『666(ビースト)』の大きさは、アメリカ国防総省ペンタゴンのビルの大きさに匹敵すると言う話もあるぐらいや。それと、その人工臓器のリモコンの暴走と、もしかしたら、何かの関連があるのかもしれんな?」



「そうやろう。いい情報やろう……」



「ああ、確かに研究や解析のし甲斐があるかもしれんなあ」



「明日、母校のZ大学に、湯川を訪ねるつもりなのやが、明日は、研究室にいるんか?」



「ああ、田上の頼みなら、快く待ってるよ」



 こうして、私は、今まで自分だけではどうしても解けなかった人工男根のリモコン装置の暴走の原因究明に取りかかったのである。



ここで、湯川弘の話を少しだけしておいたほうがよかろう。

 前にも言ったように、湯川弘は、ノーベル賞受賞者の湯川博士と遠縁である事は述べた。しかし、一体、どれ程の間柄なのかは分からないのだ。

 単に名字が同じだからの湯川の法螺話かもしれないのだから……。



 その湯川は、Z大学へはほとんどビリ同然で合格したのだが、ことコンピュータ技術に関しては天才的能力を持っており、既に、小学校6年生の時に某会社の経理部へのハッキングに成功。



 貸借対照表や、損益計算書、キャッシュフロー表など、何の事か分からないものの、その数字の改竄に成功し、一時、その会社の株価が大暴落したほどの力があったのだ。(あまり大きく言える事では無いのだが……)



それだけの天才的頭脳を持った湯川なら、何とか人工男根のリモコンの暴走の理由が解明できるかもしれない。



 ところで、私と大神優子とのこの前の結果はどうだったか?と、質問を受けるだろう。

 本当のところ、私が、大きく勃起した人工男根を大神優子に入れた時の、大神優子には、最初は単なる苦痛の表情しかなかったのだ。



 そして、何度も何度も何度も、入れている内に、大神優子の口からいつしか「あえぎ声」が漏れるようになってきたのだ。私が、人工男根を入れてから、約数十分後、大神優子は、完全な女性としての意識・存在意義・女性心理を取り戻したに違いないのだ。



 数日後、東京のホテルに滞在中の私にあの湯川弘から、緊急のスマホ電話が鳴った。



「田上、あれはスゴイ!



 あのリモコン装置には、ナノテクノロジーを駆使して作られたマッシュルーム社の最新鋭のCPUのマイクロチップが内臓されていたんだよ。

 多分、現在開発中と噂されているあの超大型量子コンピュータ『666(ビースト)』の根本的な仕組みそのものがね……。



 勿論このマイクロチップの詳しい分析には、まだ相当の時間がかかるのだが……」



「じゃ、湯川の研究にもそのまま利用出来るんじゃないのか?」



「まあ、勿論それはそうだが、問題はそれだけではない。



 あのリモコン装置には、GPS機能は勿論、極弱い衛星電波までを完全に受信できるアンテナを内蔵している事が分かったんや」



「そ、それは、少し変な話だな。あのリモコンは、確かに、人工男根装着者の大脳内の脳波の変化をキャッチできる機能がある事、つまりフィードバック装置が装備されている事は俺も理解している。

 だから個々人の脳波程度なら受診できる装置を内蔵している事ぐらいはこの私にでも当然理解している。



 しかし一体何の為に、GPS装置や衛星電波まで受信する程の必要があったのかなあ?」



「それに、それだけではないのだ。あのリモコン装置は、簡単に言えば、大きく分けて、



①最初からリモコンのみの命令を発する部分と、

②所有者の脳波を受信して、最初に自動ロック部分を経過し、次に、自動制御部分を通過し、再びリモコンの命令部分に戻る回路の、2つの回路となっているんだが、ここの回路に少し問題があってね。

③例えばの話だが、そのリモコンの所有者の脳波の強さがある一定水準を超えると、自動ロック回路や自動制御回路部分をすっ飛ばして、いきなりパワー全開、いわゆる「レベル10」になるような回路となっているんや。



 どうもこれは、ワザワザそういう回路にしてあるとしか思えんのや。



 しかし、この事は非常に危険な話であって、例えば、これが仮に人工心臓をコントロールするリモコンだと仮定したとすれば良く理解できる事でもあるのだが、本人の驚愕や恐怖、激怒などの感情の激変によって、心拍数や血圧が一挙にMAXまで到達するようなものなんだよ。



 ……つまり、一挙に死の危険性をも包含した、非常に危険なリモコン装置なんだよ。



 ところで、田上は、これが人工臓器のリモコンだと言ったが、一体、何の人工臓器なのだ?きっと、人工心臓か人工腎臓のたぐいだとは思われるが……」



「それについて言うのは、今は、勘弁してくれ。きっと、近いうちに、アメリカの両社から、大々的な発表があるだろうからな」



「いやに勿体をつけるなあ。まあ、こちらとしてはマッシュルーム社の超大型量子コンピュータ『666(ビースト)』のCPUのマイクロチップの現物が手に入っただけでも、もの凄くラッキーだったがね。



 勿論、このマイクロチップに関しては、今後、じっくりと分析や解析をさせてもらうよ。



 いや本当に、大変に貴重な物をありがとうよ。でも、もう一度聞くが、一体、何の人工臓器のリモコンだったんや?」



「人工男根だよ!」と、私は、それだけ言ってスマホを切った。



 次の日、私は、Z大学大学院の湯川の研究室で、「人工男根」の性能を披露する事となってしまった。湯川がどうしても「人工男根」の存在を信用しなかったからだ。

 私は、パンツを脱いで自分の人工男根を実際に見せて、そこで、例のリモコンを操作して見せた。



 みるみる私の「人工男根」が膨張した。



「……すっげええ!」



 何しろ、私の「人工男根」は、MAXの全長20センチにまで膨張したからだ。



 湯川はただただ感心するばかりだった。私としては、このデモンストレーションの見返りに、リモコンの自動ロック装置を正常に作動させる事と、GPS装置等の回路を切断する事を、前もって湯川に頼んでおいたのだ。



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