第2話 ようこそ! スローライフ系展開へ
「うっわー」
馬車に
横で馬から降りたリオンヌさんが
「その気持ちはわかるかな、オレもはじめてこの
この《精霊樹》は
そして、この国の人々は、代々《精霊樹》を守り、
リオンヌさんが、僕に向かって手招きする。
「さあ、いつまでもそこでポカーンとしてても始まらないからな──スバル、こっちだ」
その呼びかけに、僕は
リオンヌさんの後についていく格好で、僕は《精霊樹》の大きな門をくぐり、内部に拡がる大ホールへと足を踏み入れた。
「なんだこれ、吹き抜けの天井が見えない……」
再びポカーンと口を開けて間抜けな表情になってしまった僕に、さすがに
「ほら、いちいち驚いていたら、いつまで経っても目的地に着けないぞ」
そう背中を叩かれて、僕はハッと我に返る。
リオンヌさんに促されるまま、ホールの壁際にある扉の一つをくぐり、小部屋に足を踏み入れた。
すると、次の瞬間、僕たちが入った部屋ごとゴォンと音を立てて動き出す。
「もしかして、これってエレベーター?」
慌てる様子を見せない僕に、リオンヌさんが今度は感心したような表情を見せる。
「この《
リオンヌさんの説明によると、この《精霊樹》の中には階段の他に、このような《昇降機》がいくつもあって、各階層を
「《昇降機》の繋がりも複雑だからな、慣れるまでは迷うと思うから、一人で行動するのは控えた方がいいよ」
「わかりました」
素直にそう応えつつ、僕はリオンヌさんに視線を向ける。
リオンヌさんは壁に背中をつけた格好で腕を組んでいた。
金色の髪に
「──この外見が
静かな問いかけに、僕は素直に頷いた。
「そうだな、キミたちの世界にはオレたちのような《
《異世界ノクトパティーエ》には人間の他に《魔族》という種族が存在している。
そして、《魔族》の中でも肌の色や目の色以外、比較的人間に近い外見を持つ《魔人》と、虎や狐、犬や猫など獣の頭を持つ《獣人》に大別される。
「大多数の人間は、オレたち《魔族》を
「まぁ、最初はやっぱりビックリしましたけど……」
出来の良い3DCG映像だと思えば
そして、《昇降機》の終点についたのか、部屋がゴオンと重い音を立てて止まり、目の前に通路が現れる。
○
「はじめまして、異世界の勇者様。この《リグームヴィデ王国》へようこそ」
《精霊樹》の最上層にある
肩まで伸ばした
「あ、僕は
あたふたと自己紹介する僕に、パルナ王女はクスリと笑った。
「立ち話もなんですから、こちらへどうぞ」
そう言って王女が案内してくれたのは、壁際の大きな窓に面した
床には色とりどりのクッションが置かれており、テーブルの上にはお菓子と飲み物も用意されている。
「適当なところへお座りくださいな、リオンヌもつきあってくださいね」
「恐縮です」
王女が茜色の大きなクッションに身体を埋めるのを見てから、リオンヌさんも腰を下ろす。
僕もおずおずと青色のクッションを引き寄せて床に座った。
「──さて、スバルさんでしたね。異世界から、この《ノクトパティーエ》へと飛ばされてきたということですが、この先、どう行動されるのか心づもりはございますか?」
「心づもり、ですか……」
勧められた飲み物を口にしながら、あらためて考え込む僕。
爽やかな果物の香りがするお茶のような味が口の中に広がった。
「正直なところ、完全なノープランです。召喚されたと言っても誰に
王女の問いに、あらためて自分の立場を客観的に眺めてみたが、実は結構厳しいというか、下手をしたら詰みかねないという状況に陥ってることに気づき、呆然とする。
その僕の表情の変化がツボに入ったのか、王女は必死に笑いを堪えている様子だった。
「スバルさん、よかったら、しばらくこの国で過ごされませんか?」
何か言いかけたリオンヌさんを制して、王女はゆっくりと立ち上がり、両開きの大きな窓を勢いよく開ける。
と、同時に
王女に
眼下には
「すごい……」
その光景に言葉を失う僕の横で、王女が自慢げに胸を反らせる。
「これが、わたしたちの王国です」
この国は決して大きくはない。
《異世界ノクトパティーエ》にある《サントステーラ大陸》──その中心に近い位置にある国だが、むしろ、周辺の大国に比べると、吹けば飛ぶような弱小国だ。
だが、この豊かな耕作地と《精霊樹》のおかげで、ささやかではあるが平和と繁栄を享受することができている。
後ろからリオンヌさんが進み出てきた。
「この《リグームヴィデ王国》は《人間》たちの強国《
本来なら、《魔族》と《人間》という対立する強国間に位置するこの国は、地政学的な理由もあり、とうに《魔族》たちに滅ぼされるか、《連合六カ国》に
しかし、《精霊樹》に対する
「もしかして、僕に、この国を守って欲しい──とか、そういう話だったりします?」
自分では隠したつもりだったけど、警戒心が表に出てしまったのだろうか。
王女とリオンヌさんが顔を見合わせて苦笑した。
「確かに、異世界から召喚された以上、スバルさんは勇者なのでしょう。でも、わたしたちの王国は勇者を求めていません」
そう言って笑うと、王女は僕の手を握りしめた。
「スバルさん、あなたにとってのこの
「平和に穏やかに過ごす……ですか」
僕は再び眼下に広がる光景へと視線を向ける。
「スローライフ系展開ですね、それはそれでアリかもしれないなー」
「スロー……ライフ?」
微笑みつつも首を捻る王女に、僕も笑ってみせた。
「いえ、僕たちの世界の話で、って、それはそれとして……ぜひ、僕もこの国でお世話になりたいと思います。まずはお試し期間から──」
差し出された王女の細い手を僕も握り返す。
こうして、僕はパルナ王女の
この時の僕は、これから始まる新生活に向けて、期待に胸を
そして、その期待通りに日々は進み始めていく──
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