第5話

「......」


「いやぁ、まさかまさかの全滅とは...」


「...しかもタダで泊まらせるどころか評判が悪くなりそうだから金払っても泊まらせないとまで言われてしまいましたね....」


先ほどまで、泊まる宿屋は上手い飯が食えるところがいいな♪風呂入って明日に備えてそれでタダだってんだから勇者って楽な仕事だぜなんて粋がっていた俺は辛い現実に打ちのめされていた。



本来は、偉大なる勇者を宿屋にもてなし泊まってもらうというのは、この街の宿屋にとっては誇りのようなものでタダで泊まってもらうということも良くあったらしいのだが、恐らく門番のおっちゃんが知り合いに話したのだろう、新しい勇者はモンスターすらいない最初の森で勝手に死にかけたこと。そしてそれをテレスが何らかの方法で助けたこと。


挙げ句の果てに、その勇者様は情けなくも町中を白昼堂々と案内役の少女に風船のように吊られて病院へ向かったことも大勢の人間に見られている。


ってかテレス、コイツ歩いているときに俺のいちもつ事情をベラベラ喋りやがったよな?恐らくコイツがいちもつ事情を話していようとなかろうと宿屋から総スカンを喰らうことは避けられなかっただろうがこの手を逃すこともあるまい。



「....おいテレス、今日俺達は町中を歩いているときに住民に見られて良く笑われてたよな?」


「えぇ...嘲笑やら見てはいけない物を見てしまったというような感じで勇者様というより腫れ物扱いされていましたね...それがどうかしましたか?」


「とぼけるな、そこでお前が俺のいちもつ事情を遠慮なくベラベラ喋っていたことを俺は忘れてないぞ、あれが原因で宿屋から総スカンを喰らった可能性...大いにあるだろう。」


「いや、無いでしょそういう次元の話じゃないと思う」


飄々とテレスは言い逃れてくるが、ここで追撃の手を緩めるつもりはない。


「いーや、間違いないね、確実にあの場でのいちもつ事情を聞かれたことによって俺の勇者としての社会的信用は失われることになったんだ。あ~あせっかく世界救ったろーかなって思ったんだが、泊まる宿も用意されないんじゃどーしようもないなーあーあ」


.「.....何が目的ですか?」


テレスは訝しげに聞いてくる。薄々気付いてるだろ。お前なら。


「家泊まらせろ。」


「イヤです。」


即答だ。当たり前か、コイツに彼氏がいるかどうかとかはどうでもいいし、いなくてもこんな変な人間を家にあげるのは正気の沙汰ではないことは俺にでも分かる。だが....


「案内役だろ!案内役なら宿も案内しろよ!」


「ベストは尽くしました。それに宿の案内は専門外です。私はあくまで召還される森から勇者を町まで連れていくことが仕事。そこから先はボランティアみたいなもんです。」


などと言ってくる。だがここまで来たらもう引けない。プライドも何も気にしてはいられない。


「お願いしますテレス様!新しく召還されたばかりの勇者が風呂も入れず野宿ばっかりしてたら次の町やら村で臭くて追い出されるかもしれない。将来魔王を倒すかもしれない勇者の可能性をこんなところで潰していいんですか?せめて今日だけでもどうか!と最後は地面に頭を擦り付けるほどの土下座スタイルを披露したことで、渋々ながらもテレスは了承してくれた。



「まじで家にあげるのだけでも嫌なので、性的なこととか私が感じる範囲でやらしいこととかされたら殺すかもしれないです。」


「大丈夫大丈夫お前に関しては、こう性的なやつでみるとなんか違うんだよな...ってなるタイプの女だから、どちらかと言うと男友達みたいなノリで話せるタイプのやつだから!」


「それって私が性的に魅力が無いって言いたいんですか!?」


などとめんどくさい女ムーブをかましながらも、何だかんだ家まで案内してくれるテレスを見ていると、案内役の仕事が終わってもボランティア精神で町に入ってからもいろいろサポートしてくれるコイツは案外良いやつなのかしれないとも思った。


「それで、ここの玄関抜けたらそのまま通路を真っ直ぐ行って直ぐ曲がると風呂場と居間があります。通路左側突き当たりに物置とトイレがあるのでトイレはそこ使ってください。物置開けたら殺します。あと、私の部屋にも死んでも入らないでください。では」


さばさばとした説明で、テレスが家の間取りを紹介してくれた、どうやら彼女の部屋と物置を開けたら俺は死ぬらしい。気をつけていかないとな。














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