第3話 隠すことがいっぱいだ

我、魔王なり……たぶん、きっと。


最近、田舎の小さな村ではあちこちで浮足立っている子供を見かける。

見かけるだけでなくうっかり目が合えば、魔王である我に馴れ馴れしく話かけてくるのだ。


「ねぇ、何がいいと思う?」


何がだ? と問いかけずともわかる。

今年成人を迎える村の子供たちは、教会で受ける成人の祝福の儀式でわかる自分のステータスに夢中なのだ。

体力や魔力などは成長や鍛錬で数値が増えるし、何かの技術を磨けば後天的に生えるスキルも少なくない。

問題は、神のギフトとも言われるレアスキルや称号のことだ。

我に話しかけてきた村一番のオシャレ好きなこまっしゃくれた女は、それがどんなものかも知らずに呑気に言い放った。


「やっぱり、聖女かなぁ?」


「……っけ」


あ、しまった。

『聖女』のワードに敏感に反応してしまった。


いやいや、君は善良だしかわいい子だし地道に人生を歩んだらどうだろうか?

聖女なんて外側だけ清廉なゲス女になりたいなんて……嘆かわしいことだ。


聖女と言えば、我は勇者の隣りにいた彼らの役に立たないどころか足手まといの、やがて夫である勇者ではない男と子を儲けた件の王女の顔が浮かんでいた。


プルプルル。

頭を振って魔王時代の記憶を振り払う。

うむ、あいつらはもういない。

話しかけてきた女子に引き攣った顔で愛想笑いをして、足早にその場を立ち去った。


しかし、ふむ、ステータスの確認とはまた面倒な。

当然、我は魔王だったし、その前の前は大賢者と謳われた者だ。

その我のステータスなど、他人が見たら大騒ぎになるのは目に見えている。

どうにか、誤魔化さねばならん。


…………、そういや、大賢者のとき町に忍びで遊びに行きたくて隠蔽魔法を極めたことがあったな。

そんなことをぼんやりと思っていたら、ポンッと軽々しく我の肩に手を置く者がいた。

何奴!


「どうしたの? そんな難しい顔をして?」


難しい顔は通常運転なのだ。

我の今生の父親はかなり人相が悪いというか、目つきが悪いというか、そんな父親似の我は三白眼だ、文句があるか?


「成人の祝福のことで、ちょっとな」


正しくは、その祝福で教えてもらえるステータスを隠蔽する方法を考えていたのだ。


「あー、それか。村中、その話題で盛り上がっているもんね」


「ふむ。聖女に憧れる者も多いな」


なんであんな女にと憤慨するが、少女たちはただ「癒しの魔法が使える美しい女性」になりたいのだろう。

剰え、「素敵でお金を持っている人と」お知り合いになりたいのだと思う。


「そうだねぇ。男はやっぱり勇者かなぁ」


「ぶーっ!」


げほっ、けほほっ。

飲んでいた水をうっかり噴き出してしまった。


「な、なななな、なんで、勇者?」


「さあ? カッコイイから?」


ニコッと爽やかな笑顔のこ奴は……元勇者だ。


あ、しまった! こ奴のステータスも隠さなくてはいかん!

うっかり成人の祝福で教会側に『勇者』とわかれば、すぐに王都へ連れて行かれて貴族か王族に囲いこまれる。

そうなれば、こ奴の今生もほぼ悲劇決定だ。


「むむむ」


隠さなくては……我が魔王で奴が勇者であることを。











成人の儀式が行われる大きな町の教会で、よくわからん祝詞を我慢して聞き流し、胡散臭い聖水をぶっかけられた後、一人ずつ名を呼ばれて今にも死にそうなじーさん神官が捧げ持つ水晶にペタリと手を付けた。


「ふむ……魔法のスキルを持っているな。おめでとう」


棒読みかっ! と突っ込みたいぐらいの単調さでステータスを告げられると、水晶に映し出されたステータスの詳細を紙に転写した若い神官が「ほいっ」と気軽に差し出してくる。


「ありがとうございます」


ペコリと親に教えられたように頭を下げると、その紙を恭しく受け取った。

しめしめ。

人族の平均よりやや多い魔力に属性魔法。

体力や身体能力の数値はやや少なく。

目立たない一般人らしいステータスに隠蔽することができて、我、満足なり。


「君は剣術のスキルがあるね。あと、元気だね」


「ありがとうございます!」


ふむ。

奴のステータスの隠蔽も上手くいったらしいな。

くふくふふ。

まさか『勇者』の称号を持つあ奴のステータスが、『剣術』のスキルがあるだけのちょっと体力バカなものだと思うまい。

大賢者の叡智と魔王の魔法技術と孤児だったときの常識が、今生の我の危険回避の能力となり火を噴いたぜ。


満足至極の我の前に勇者の奴が満面の笑みで近づいてきた。


「ねぇ、冒険者ギルドに行って冒険者登録しようよ」


「なに?」


なぜ、お前はいつもいっつも考えなしに危険な場所へ飛び込んで行くかなあぁぁぁぁぁぁぁっ?

冒険者ギルドだと?

登録する際に、またステータスの確認があるのだぞ?

そこの水晶よりも、各段に上位の鑑定力のある魔道具で調べられるんだぞ?


我はグッと眉間にシワを寄せる。


しかも、そこには、我の今生の……娘激ラブな父親が勤めているのだぞおぉぉぉぉぉぉぉっ!



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