非モテな俺が生まれ変わったらまた非モテになったので、美少女たちを幸せにしてやろうと思う

八星 こはく

第1話 来世はイケメンになりたい

「……コンビニ行くか」


 ゲームのコントローラーを床に置き、あくびをしてから立ち上がる。

 時刻は午後五時過ぎ。ちょうど、茜色の夕焼けが窓から差し込んでいる。


「明日一限なんだよな。しかも必修だし」


 課題って出てたっけ、と頭の中で必死に思い出す。同じ講義を受けている友達がいないから、確認することもできない。


 っていうか俺、大学に友達いないしな。


 小柳樹こやなぎいつき、21歳。大学二年生だ。

 高校時代は少ないものの友達はいた。しかし一年間の浪人生活で、親しい友達を失ってしまった。


 しかも第一志望の大学に落ち、現在は第二志望の大学に通っている。

 うっかりキラキラした都内の大学に進学してしまったせいで、周りには全然馴染めていない。


 そんな俺の趣味がゲームである。でもゲームだって、めちゃくちゃ得意ってわけじゃない。

 RPGもノベルゲーもアクションゲーも、流行っていればまずはやってみる。そしてクリアまではするが、やり込んだ作品はない。


 要するに俺は、男子大学生としても、オタクとしても、面白みのない人間なのだ。


 中途半端だよなあ。飲み会行って男女で遊んで、なんて陽キャにはなれないし、コミケにガチったり、ゲームの大会に出るような本気のオタクにもなれないし。


「ま、考えてもしょうがないか」


 立ち上がり、ズボンのポケットに財布を突っ込む。とりあえず、近所のコンビニで夕飯とお菓子でも買ってこよう。





「コンビニ、結構高いよな」


 これなら少し歩いてスーパーまで行けばよかった。でもたぶん、俺は次もコンビニへ行ってしまうんだろう。


「……あ」


 あともう少しで家に戻れる、というところで、信号に引っかかってしまった。

 ここの信号は、一度赤になるとなかなか変わらないのだ。


 俺の後ろを、小学生たちが笑いながら通り過ぎていく。近所には小学校があって、朝や夕方はいつも賑やかだ。


 振り向くと、女子小学生が二人、俺の後ろに並んでいた。身長的に、小学四年生くらいだろうか。

 何が楽しいのか、見つめ合ってずっと笑っている。


 俺にも、ああやって話す相手がいればなあ。


 彼女が欲しい。なんて贅沢は言わない。けれどせめて、友達が欲しい。

 新作のゲームが面白いだとか、コンビニの期間限定商品の当たりはずれだとか、くだらないことを気兼ねなく話せるような。


「はあ……」


 溜息を吐いた瞬間、不意に後ろから強い風が吹いた。慌てて、ぐっと足の裏に力を込める。


「あっ!」


 少女の叫び声があたりに響いた。


「にゃんちゃん!」


 道路に、小さな猫のぬいぐるみが転がっている。たぶん、この風で飛ばされてしまったのだろう。


「待って!」


 赤信号だというのに、少女は道路に飛び出した。そして運が悪いことに、大型トラックが曲がり、こちらへ向かってくる。


「りりちゃん!危ない!」


 もう一人の少女が叫び、その子まで道路へ飛び出してしまう。


 これ、やばくないか?


 どうして、とっさに身体が動いたのかは分からない。

 でも俺は、気づけば道路の真ん中にいて、二人の少女を突き飛ばしていた。


「「お兄さん!!」」


 少女たちの叫び声は息ぴったりだ。

 本当に仲がいいんだな、なんて、どうでもいいことを考えてしまう。


 次の瞬間、大きな衝撃が俺の身体を襲った。





「……っ!?」


 目を開くと、見慣れない天井が目に入ってくる。しかも、天井につり下げられているのは煌びやかなシャンデリア。

 おまけに、身体も全く痛くない。


「俺……トラックにはねられたんだよな?」


 上体を起こし、きょろきょろと周囲を見回す。


「……嘘だろ?」


 俺が寝ているのは、かなり大きなベッド。部屋にはいろんな家具があるが、どれもアンティーク風で高そうなものばかり。


「もしかして、いや、あり得ないけど、異世界転生ってやつ……?」


 アニメやゲームでは何度も見てきたシチュエーションだ。でも、まさか、実際にこんなことがあるなんて!


 まさかご褒美か? 子供を救った俺への、神様からのご褒美なんじゃないか?


 異世界転生ってことは、やっぱり、俺にもチート能力があったり?

 いや、それだけじゃない。美少女に慕われまくったりするんじゃないか?


 こうしてはいられない。期待に胸を膨らませ、俺はベッドから起き上がった。

 そしてとりあえず、顔を確認するために鏡の前に立つ。


「……は?」


 そこに映っていたのは、金髪碧眼の、冴えないデブだった。

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