第4話 スケルトンキング

 女性冒険者が、ケガをした男性冒険者を抱えていた。

 そこへ、スケルトンの群れが迫る。


「くっ。共倒れなんてゴメンよ!」


 男性を抱えながらも、女性魔法使いは火の玉で魔物を追い払う。


「ワラビ、お願いできる?」


「承知しました、マスターツヨシッ!」


 ボクの指示を待っていたかのように、ワラビは男性冒険者の上に乗っかった。男性の胸をスライムボディで止血する。

 ボクはその間に、群がってきたスケルトンを追い払った。


「そのままヒールを唱えて。ワラビ」


「承知しました。ヒール」


 ワラビが、治癒魔法を施す。以前、治癒系の魔力が込もった杖をワラビに食べさせて、覚えてもらった。


 こんな弱い魔法で、血を止められるかわからない。でも、やるしかないんだ!


「え?」


 男性冒険者が、自分の胸を触った。どうやら、傷が塞がったようである。


 すごいぞワラビ。最弱回復魔法で、治療を完了してしまうなんて。


「もう、大丈夫だ」


 若い男性冒険者が、身体を起こす。


「ありがとうな。オレたちはもう撤退する。ダメージを受けすぎた」


「ここから先の狩りは、ムリだと思ったほうがいいわ。どうもありがとう。あなたも逃げなさい」


 そんなに危ないモンスターなのか、スケルトンキングは。

 ボクは、二人に付き添って話を聞くことにした。今日の狩りは、ここまで。しかし、二人から迷惑料を払ってもらえるという。


「オレはセンディ。本名は扇太郎センタロウっていうから、ダサくてダンジョンネームは偽名にした。あんたら、【ワラビ育成日記】の人だろ?」


 二人に、お昼をごちそうしてもらった。といっても、冒険者用の安い食堂だが。


「あ、はい。ボクは、ツヨシといいます」


「ワラビちゃん、近くで見るとホントかわいいわねえ」


 女性冒険者は、ワラビをヒザの上に乗せている。

 冒険者のヒザが心地よいのか、ワラビもプルプル、と身体を揺らす。


「紹介が遅れたわ。私はコルタナ。異世界から来た種族よ」


 コルタナさんが、紅茶用のジャムをワラビに食べさせた。


「エルフさんですね?」


 受付のお姉さんと同じく、耳が長い。


「そうよ。地球に修行しに来た、シティエルフなの。ワラビちゃん、よろしくね」


「コルタナさん。今後もよろしく」


「お話もできるの!? 幻聴じゃないわよね?」


 驚いて、コルタナさんはワラビを落としそうになった。


「二人も、動画勢なんですか?」


「いや。オレたちは、見たものを公開したりはしない。動画は見る専門なんだ。あんたらの動画も、見させてもらっている。コルタナがファンなんだ」


 冒険者の中には、動画を撮って収益を上げるタイプと、ダンジョンの戦利品だけで稼ぐタイプがいる。二人は、後者なのだろう。


「私が写真を撮られるのが嫌いで。センディもわかってくれているの」


 エルフは宗教上の理由から、撮影を恐れているらしい。服装も古風だし、近代文明は苦手なのかも。


「ところで、何があったんです?」


「なにもかも変よ! 仲間が切りつけてきたの!」


 興奮して、コルタナさんがテーブルに拳を叩きつけた。


「オレたち二人は別のグループと組んで、スケルトンキングの討伐に向かったんだ。よそのグループ共が功を焦って、キングに飛びかかっていったんだ。そしたら、同士討ちになって全滅した。で、奴らの仲間入りさ」


 センディさんは、なんと死んだ仲間に殺されかけたのである。


「仲間がスケルトンキングに、洗脳させちまったんだ」


「精神汚染……」


「やつの持っている、スマホに気をつけろ!」


「スマホを持っているんですか?」


 今どきのダンジョンマスターは、進んでいるなあ。


「ああ。スケルトンキングの正体は、行方不明になっていた『ダンチューバー』だ」


 心霊スポット階層に向かったギャル系ダンチューバーは、スケルトンキングの討伐どころか返り討ちに遭ってしまっていた。


「でも、どうすればいいの? あのダンジョン、もう攻略できないわ」


 仲間を連れていけば、同士討ちをする。かといってソロで戦えば、スケルトンキングに身体を乗っ取られてしまう。


 八方塞がりだ。



「いっそ、あのダンジョンは閉鎖すべきかも」と、センディさんはギルドに報告した。


「そうですね。仲間を集めてもダメ、ソロ狩りでも倒せないとなると、別の対策が必要になりますね」


 センディさんからの報を受けて、受付のお姉さんもアゴに手を当てて長考を始める。


「あの人、いわゆる『迷惑系』でしたからねえ」


 どうもスケルトンキングと化したダンチューバーは、あまり良い評判を聞かない人だったらしい。


「故人を悪く言いたくはありませんが、あの人なら仕方ないですね」


 受付のお姉さんも、あの地点の攻略をあきらめている。



「大丈夫なんですか?」


「ダンジョンが一つ減ったくらいで、経済状況が変わることはないぜ」


 とはいえ、ダンジョンマスターのギャルさんは、ずっとあのままなんだよなあ。成仏もできないで。


「ボク、行ってみます」


 たしかモンスターは、エネミーの精神汚染を受けない。

 ワラビなら、勝てるかも。


「ムチャだぜ。あんた」

「あなたがいくというなら、私たちもついていくわ」


 フレンド申請をして、その日はここでお開きとなった。


「マスターツヨシ、大丈夫なんですか? 相手はパーティを組んだ部隊でも敵わない敵ですよ?」


「うん。そのためにワラビ、キミの協力が必要だ」

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