第3話 ギルド·ペルペテュイテ支部

収監施設マメルティヌスは王宮エルサレムの真下にあり、4つの出入口を設けている。第1の出入口は受刑者用。大通に面しており、刑期を全うした受刑者が出るためにある。第2、第4の出入口は物資搬入用。大通から見て左右に1つづつある。そして、第3出入口。ここは被疑者、容疑者、被告人のための出入口となっている。


「ど〜も〜。僕モーセっていいます〜」


出て早々にそびえ立つ長身の男性。


「彼は魔法研究室の室長でね、この国で最も賢い人間と言っても過言では無いのですよ」


「よろしくです〜」


ヌッと差し出された手を握りながらアリスも返事を返す。


「よろしくお願いします。俺はアリスっていいます」


挨拶も終えケファは仕事へ戻り、ラファエルはウリエルを連れて城の方へ戻って行った。

アリスはモーセと共に大通りへと向かう。


「そう言えば〜アリスさんは〜身分証ってあるんですか〜」


「アリスでいいですよ。身分証、実は辺境で育ったのでそう言うのは持ってないんですよ」


「そいじゃ〜ギルド、行きましょうか〜」


大商会 ギルド。世界各国を股に掛ける超巨大な商業組織。クランという小組織を束ね、様々な事業を行っている。そのギルドに登録することによって、ギルドの存在する国々に通用する身分証を手に入れることが出来るのだ。


「着きましたよ〜、ギルド·ペルペテュイテ支部」

︎︎

巨大な教会のような建物に入っていくモーセ。アリスも後を続く。


「おや〜?これはこれは誰かと思えば総帥に支部長ではないですか〜」


その声を聞き振り向いたふくよかで白い髭が生えた大柄の男性と、長身でショートヘアの女性。女性はアリス達の存在を見つけるなり目を輝かせ歩み寄った。


「やぁ!モーセ君!おや?顔色が悪く見えるぞ。またこん詰めて研究を続けているのか?健康が第1だ、健康なくして何事もなし得ないぞ!」


笑顔でモーセの胸板を叩く女性。160cm程の女性に対し30cm差はあろうモーセ。しかし、その差を感じさせないほど女性は堂々としていた。その圧、活気。アリスは懐かしさを覚えた。20年以上前、前世の記憶が湧き上がる。


「おや、そっちの少年は?」


モーセの影から顔をひょこっと出しアリスと顔を合わせる。


「こちらはアリスさんと言って、これからギルドで身分登録しようとしていたところなんですよ〜」


「初めまして、俺はアリス。魔法使いです」


女性はアリスの前に立ち、サッと手を出した。


「初めまして!私はアサ、ギルドの総帥をしている!そして...」


差し出された手を握ろうとしたアリスは、直ぐにその手を引いた。アサの差し出した手は光だし黄金の装飾がされた杖を取り出した。


「君と同じ魔法使いだ」


アリスの驚いた顔にアサはご満悦だ。


「ホッホッホ、相変わらず総帥は人を驚かせるのがお好きで。ワシはニコラウスここの支部長じゃ」


先程話していた男性がアリス達の下へやってきた。ニコラウスの差し出した手に少し警戒しながらもアリスは握手を交わす。


「して、身分登録でしたな。あちらの窓口で登録できますのでな。そうそう、クランには所属なさるのかな?」


「いえ、まだどのようなクランがあるかも分かりませんから。色々見てから決めようと思います。」


「ホッホ、それはそうですな。ワシらは少し話がありますので、ごゆるりとお選びくだされ」


アサを連れニコラウスは階段を上っていった。


「僕も少し彼らとお話してくるので〜、登録が終わったら上にきて、1番奥の扉を叩いてください〜」


モーセもニコラウス達のあとを追い上の階へ行った。残されたアリスは先程示された登録窓口へ向かい、受付の女性に話しかけた。


「あの、身分登録をしたいのですが」


「はい、身分登録ですね。こちらの魔道具を用いますので、どちらか手を出していただけますか?」


快活に受付の女性は案内を始めた。アリスが指示に従い右手を差し出すと、女性は鍵を取り出しアリスの手の甲に鍵を挿す。


「これは、天国の鍵てんごくのかぎ...?」


思わず漏れた言葉。力こそ抜けないものの、その見た目、使用方法。それは正しく先程見た魔道具に近似していた。


「いえ、こちらは〘証明者の鍵しょうめいしゃのかぎ〙と言って、機能を落とした代わりに量産が可能になった代物です。」


説明をしながら女性が鍵をひねる。すると、光の粒子が文字を形作る。


名:アリス·フォレスト

歳:18年(6588日)

性:男

魔:木


おぉ、とアリス。名前や歳だけでなく魔法適正まで見ることの出来る魔道具の便利さ、それがある程度量産可能であろう事実。魔法文明の素晴らしさを再確認するのだった。


「あら、今日誕生日だったんですね。おめでとうございます!それではこちらの情報で登録致します。身分証が出来次第お呼びしますので、少々お待ちください。」


思わぬところで誕生日を祝われ、豆鉄砲を食らったような気分になったアリスなのであった。

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