【完結】バルログ〜悪魔をも喰らう狂魔人〜

第一話

 これは人類と魔物が何百年もの間、星の覇権をかけて争っていた世界の話である――。


 あるところに、剣術修行をしながら街を渡り歩いていたゴンゾウという男がいた。

 坊主頭をした凛々しい眉毛に少々強面な彼は、旅をする先々の街で用心棒となり、迫り来る魔物を退治することで生計を立てている。


「ふぅ……今日もよく働いてくれたな、俺の相棒達よ」


 ゴンゾウは剣士にとって『命』とも言える鎧や剣を毎日のように磨き、それはそれは大切にしていた――。


 ある日の夕方。


 初めて訪れる『クルタ』という街に辿り着く。周囲には山や川があり、少し離れた先には海もある自然に囲まれた街。


 しかし、街に入るや否や――すでにオークという豚面の魔物達が襲っている場面に遭遇したゴンゾウは、仰天して「マジかよ!?」と剣を持って駆け出した。


 そんな矢先。


「いけー!!」

「やっちまえー!!」

「キャー、カッコいいー!!」

「こっち向いてー!!」


 何やら街の中央広場から、黄色い声援も入り混じる民衆の歓声が聞こえ、不思議に思ったゴンゾウが人混みの隙間から覗き込む――すると、たった一人の騎士がオーク達を次々と見事な剣術で倒していく勇姿が目に入る。


「す、すごい……」


 思わずそう声を漏らしたゴンゾウがよく見れば、その騎士はどこか禍々しさが漂う漆黒の鎧とマントを身に纏い、目元だけ開いた仮面兜を被って素顔を隠しているではないか。さらにその手には、何とも妖艶な蒼い光を放つ剣が握られている。


 ところが、全てのオークを倒し終えた仮面騎士は何も言わずに蒼い剣を背中の鞘へと戻し、そのまま忽然と広場から立ち去ってしまった。


 一体……何者だったんだ?


 終始呆気に取られていたゴンゾウは、少しずつ騒ぎが収まって「今日もオークカツ祭りだなぁ~!」と、笑顔で散らばる民衆の中にいた男の肩を叩いた。


「すんません、今の騎士は護衛兵か何かっすか?」


「いんや、彼は護衛兵じゃないよ! この街に突如として現れた“守護神”みたいなもんさ! カッコよかっただろ!?」


 満面の笑みを浮かべる男いわく、今から三ヶ月ほど前に魔物が襲われていたところを、仮面騎士がいきなり登場して護衛兵達が対応する前に全て討伐してしまったという。


 それからというものの魔物が来る度に彼が現れ、ものの数分で簡単に退治してしまうらしく、護衛兵達の出る幕すらないのだ。


 そんな仮面騎士は民衆の間で『空から守護神が来た』という噂話が広まっており、老若男女問わずに大人気だそうな。


 また、ゴンゾウからの「正体を追わないのか」という問いにも「そんなことしたらが当たっちまうよ!」と、男はやおら苦笑いを浮かべながら首を横に強く振ったのだった。


 ふむふむと頷きながら聞いていたゴンゾウは、どこか謎を秘めた守護神の話に釘付けとなってしまっていた――。


 カエルの串焼きを片手に食べ歩きをしていたゴンゾウが、一通り街並みをキョロキョロと見回していると。


「うわーい!」

「こっちだよー!」

「まてまてー!」


 と、街行く人々の間を潜り抜ける元気な子供達の姿が。また、商店街も沢山の人で賑わいながら活気付いており、皆笑顔で暮らしているようだ。


 いい街だ……さっきまで魔物に襲われてたとは思えないな。


 この街に暮らす皆は、守護神に守られているおかけで安心して生活を送れるのだろうと、ゴンゾウはつくづく仮面騎士によって築かれた安心感の大切さを肌で感じていた――。


 陽も沈んだ夜。


 ゴンゾウは街の外に出てせっせと薪を集めていた。テントを張って寝床をつくり、燻製にしていた鹿肉を焚き火で炙る。

 これもあちこちを旅する上での節約生活。逐一、街の宿屋に泊まっていたら簡単に路銀など尽きてしまう。


 はむ、もぐもぐ。


 さて、傭兵として雇ってもらおうかと思っていたが、あの仮面騎士がいるのなら自分は必要ないかな。この街は少し気に入っていたんだが……。


 そんなことを思いつつ、ゴンゾウは揺らぐ焚き火を見つめながら、香ばしさが鼻から抜ける肉の味を噛み締めるように頬張っていた。


 が――どこからか視線を感じ、素早く剣に手をかける。


 暗闇に紛れて何かいるな。


 上手く気配を消してはいるが、微量な殺気を感じ取ったゴンゾウが注意深く目を凝らす。


 するとそこへ、“スッ……”と闇の中から姿を現したのは、あの仮面騎士だった――。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る