第044話 疑念

「あっ、スラバトDXだ!!」


 似顔絵は一時間程度で書きあがったので、これ以上ドキドキする前に帰ってもらおうと思ったんだけど、その願いは叶わなかった。


 だって、如月さんがリビングにあったゲーム機を見つけたから。


 部屋だとすぐにゲームをしてしまうので、ここに置いていたんだけど、それがあだとなってしまったらしい。


「ねぇ、一緒にやろうよ」

「え、でも……」

「駄目? 一緒にやる人いなくてつまらなかったんだよね……」


 だから、如月さん、その言い方はズルいって!!


 そんな悲し気な表情をされて僕が断れるわけない。


「わ、分かりました」

「そうこなくっちゃ!!」


 僕が了承した途端、しおらしい態度は霧散してキャピキャピとはしゃぎ始める。


 大乱闘スラッシュバトラーズは最大四人で出来る対戦型ゲームだ。ゲーム会社の枠を超えて色んなゲームのキャラクターが使用でき、相手をステージの外に落とした数を競う。


「あ、クービィ使うんだね」

「え、あ、はい。如月さんは……モスクですか。渋いですね」

「うん」


 如月さんは僕の使用キャラを前から知っていたかのように呟く。


 僕は困惑しながら如月さんのキャラを見ると、モスクというキャラクターだった。


 このやり取りに既視感を覚える。


 どこでだったか……。


 いや、僕はこんなやり取りをする相手はたった一人しかいない。

 それは僕が中学生の頃に遊んでいた女友達だ。


 そこから芋づる式に今までの些細な違和感が繋がってくる。


『ご近所さんだね……』

『トモカクのカナデが好き』

『オーガブレイドのお土産』

『メドメギが好きで、特にリリカが好き』

『バスケットボールを顔面で受けた時に聞こえた懐かしい呼び名』

『それにさっき似顔絵を見てはしゃいだ時に呼ばれた懐かしい呼び名』


 そして、一つの疑念にたどり着く。


 それは如月美遊は僕の中学時代の女友達なのではないかと。


 いや、待て待て。


 まず如月さんと中学時代の女友達は苗字が違う。


 僕の女友達は立花美遊。

 確かに名前は同じだけど、苗字が違うのだから同一人物だとは思えない。


 勿論親の離婚とかで苗字は変わることがあるので、可能性はなくはない。

 ただ、あまりにも見た目と性格がかけ離れている。


 中学時代の女友達は小さくて、どこがとは言わないけどぺったこんだったし、しゃべり方もゆっくりで途切れ途切れで得意じゃなかった。


 如月さんとは似ても似つかない。


 はははははっ、まさかそんなことがあるはずない……。


 僕は頭を振ってその疑念を振り払った。


「やるよ!!」

「はい」


 僕たちの対戦を行う。


 しかし、その一戦一戦が一度振り払ったはずの疑念を大きくする。


「うわぁ!? それは卑怯ですよ!!」

「ふふーん。れっきとした技だよ」


 だって彼女のプレイスタイルが、女友達そのものだったから。


「もう一戦やりましょう」

「全くしょうがないなぁ、ヒロは」


 そして、再び彼女の口から発せられる、女友達だけが呼ぶ僕のニックネーム。


 彼女と一緒にいる時間が長くなればなるほど、湧き上がった疑念が広がっていく。


「あぁ~、楽しかった」

「はい、僕も楽しかったです」


 僕は疑念を抱いたまま、日が沈むまで一緒にゲームをした。


「また、遊びに来てもいいかな?」

「そ、それははい」

「やった。またゲームやろうね」


 その後、スケッチブックを持った如月さんを家まで送り、家に帰ってくる。


「結局聞けなかったな……」


 何度も如月さんに僕の疑念を尋ねようとしたけど、如月さんが僕に正体を明かさないのには理由があるのかもしれない。


 もし正体がバレたら、僕たちの関係が終わってしまうかもしれない。そう思うと、どうしても一歩が踏み出せなかった。


 僕は疑念を棚上げにすることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る