第026話 体を張る

「勝てたね!!」

「やった!!」


 女子たちが手を取りあってはしゃぐ。


 玉のような汗と上気した頬が少しエッチだ。その姿プレイスレス……。


 当然の如く、如月さんを擁する僕たちのチームは圧勝だった。今度は僕たちは観戦する側に回る。


「如月さん、カッコよかったぁ」

「バスケ部に入らないの?」

「私見ほれちゃったよぉ」

「上手くて羨ましいな」


 コートの外で待っていた女子たちが如月さんの元に集まる。


 彼女は少し困惑しながら、笑みを浮かべて対応していた。こうしてみると、如月さんは本当に人気者なんだと実感する。


 一方で僕は試合に全く貢献できなかった陰キャ。誰にも話しかけられることなく、コートの外に出て、次の試合を待つ。


  ――ピッ


 笛が鳴って試合が始まった。


 僕たちのチームのように一方的な展開にはならない。かなり一進一退の攻防が繰り広げられている。


 一方で如月さんへの女子たちの質問攻めは未だに終わっていない。如月さんはコートの方を見ずに自分を囲う女子たちと話をしたままだ。


「あっ」


 間抜けな声と共にバスケットボールが凄い勢いで飛んでいく。ただ、そこには誰も居なかった。すっぽ抜けてしまったらしい。


 このままだとコートの外に出てしまう。


 しかし、その先には如月さんが。話に夢中でボールに気が付いていない。


 僕は思わず体が動いた。幸い、如月さん達の距離は一メートルもない。なんとかなる可能性がある。


「如月さん!!」


 気づいた誰かが如月さんの名前を呼んだ。


「え?」


 如月さんは振り返る。しかし、もうボールは彼女のすぐそば。


 僕はその間に割り込んだ。


 ――バンッ


 顔に強い衝撃が走る。


 あれ? 世界が回る。


 僕は立っていられなくなってその場に倒れた。


 視界が薄れていく。誰かがしゃがみこんで僕の肩を揺らす。


「眞白君……眞白君……」


 この声は如月さんか……。ぼんやりと如月さんの顔が見える。


 どこにも怪我は見当たらない。


「あぁ……怪我がなくて……良かった……」


 僕は心の底から安堵した。


 如月さんのあの端正な顔に傷を残すなんてもってのほかだ。


「バカ……無茶して……」


 ポツリ、ポツリと僕の顔に冷たい何かが触れる。


 それは如月さんの涙だった。


 如月さんを泣かせるなんてファンとしてあってはならない。


「泣かないで……下さい……僕は大丈夫ですから……」


 僕は如月さんを安心させるように答えた。徐々に意識が薄れていく。


「……ロ……ヒロ……お願い、しっかりして……」


 そんな中酷く懐かしい呼び名が聞こえてきた気がした。

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