第013話 こっそりGW①

「アキ、仕事は終わったの?」


 荷物を運んできた僕に母さんが話し掛けてくる。


「うん、今日までに出せる物は出したよ」

「きちんと納期を守るのは良いことよ」


 母さんはまるで子供のように僕の頭を撫でた。


 子供扱いされてみたいでモヤモヤするけど、これが母さんの愛情表現なので甘んじて受け入れている。


「それは当然だよ」

「それができない人もいるのよ。困ったことにね。忘れ物はない?」

「大丈夫だよ」

「それじゃあ、いきましょうか」


 家の前に待たせていたタクシーに乗り、新幹線の停車駅に向かった。


 ――ピロンッ


 新幹線の席に座ると、スマホが鳴る。


『今日のコーデ(ハート)』


 スマホのロックを解除したら、メッセージともに自撮り画像が送られてきていた。


 如月さんは春先らしい服装で、自撮り特有の少し上目遣いが僕の心を撃ち抜く。


 あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!! 尊い!!


 僕は胸が苦しくなって胸元を掴んで上半身を前に倒した。


「どうしたの? 大丈夫? 具合が悪いの?」


 母さんが心配そうに僕の顔を覗き込んでくる。


 如月さんの写真が可愛すぎて萌え死にしそうになったなんて言えない。


「い、いや、大丈夫だよ。ちょっと眠かっただけ」

「そう? 昨日まで仕事してたしね。少し寝たら?」

「うん、そうするよ」


 僕は母さんからスマホを隠すように背を向ける。


 こういう時はどう返事をすればいいんだ?


 昨日は料理や映えスポットが送られてくるという話だった。


 話が違う? いやでもそれじゃあ、服装を褒めない失礼な奴、ということになってしまう。じゃあ、服装を褒める? どうやって褒めたらいいのか分からない。


 無難なのは、陳腐だけど、似合ってる、可愛い、だろうか。


『弘明:如月さんにとても似合っています。可愛いですね』

『美遊:ホントに? 嬉しい!!』


 正解だったようで如月さんから嬉しそうなメッセージとスタンプが送られてきた。


 ふぅ……第一関門は突破したようだ。


『弘明:料理や映えスポットの写真という話だったのでは?』

『美遊:私の写真を送らないとは言ってないでしょ』

『美遊:それとも私の写真はいらなかった?』


 しかし、潤んだ瞳のキャラスタンプと共に送られてきたメッセージ。


 そのキャラが如月さんに脳内で変換。


 ズルい、ズルいよ、如月さん。それは反則だよ。


 いらないとか言えない。欲しいよ、欲しいに決まっている。


 でも、また悪魔の二択だ。いると言えば、キモい奴。いらないと言えば、非常に失礼な奴。


 どうすればいいんだ……。


『弘明:そんなことはないですけど……』


 第三の選択肢。とりあえず言葉を濁しておく。


『美遊:うふふ。じゃあ、送るね』


 ニッコリと笑うスタンプと共に送られてきたメッセージ。


 もう何も言えなくなった。


『美遊:眞白君はもう出かけた?』

『弘明:はい、僕はこれから新幹線で婆ちゃんちに向かうところです』

『弘明:(画像)』


 僕はさっき撮った新幹線の写真と一緒にメッセージを送る。


『美遊:あっ、新幹線。気を付けてね。ちゃんと帰ってきてね、待ってるから』


 ぐわぁあああああっ。


 如月さんの返信が来るたびに僕の心が締め付けられる。


 わざとか? わざとだろ? 絶対僕を勘違いさせようとしている。


 いや、そうじゃない。如月さんは優しいから、一クラスメイトの僕を心配してくれているだけだ。思い上がるな。


『美遊:二人が来た。それじゃあ、また後で』


 悶えていると、バイバイと手を振るスタンプとメッセージが送られてきた。


 はぁ……やっと終わった……。


 如月さんからのメッセージは嬉しい。推しからメッセージが貰えるなんて嬉しい以外にない。


 でも、その内容が、僕の喜ばせるものと僕を悩ませるものばかり。


 まるで天国と地獄が一緒に来ているような時間だった。


 しかもゴールデンウィークはまだ始まったばかり。僕の心は最後まで持つのだろうか。


 少しだけ不安になった。

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