第003話 推しより可愛い

「完璧すぎる……」

「何のことですかな?」

「いや、ソシャゲのSSRのカードの話だよ」

「そうですか」


 ポツリと漏らした呟きをマギーに聞かれてしまい、咄嗟に誤魔化す。


「なんて言うとでも? あの子ですな?」

「ち、違うっての!!」


 学校が始まって数日。その間、どうしても如月さんのことを目で追ってしまい、ついつい観察してしまった。


 そして、彼女はあまりにも完璧すぎた。


 まさに僕の理想のヒロインそのものだった。いや、現実の如月さんの方が可愛い。そんなことがありえるのだろうか。


 まず、その容姿。


 バスケットボールや陸上をしていそうな短めの髪の毛に、くりくりとした大きな瞳、筋の通った小さな鼻。そして、ぷるんと艶やかな唇。


 どれ一つとっても、フィクションの世界から飛び出したと言っても過言ではないほどに整っている。勿論全体的なバランスも奇跡的に均整がとれていた。


 それに、顔だけでなく、プロポーションもグラビアアイドル顔負けで、出ているところは出ていて、引っ込んでいる所は引っ込んでいる。身長は高すぎず、百六十センチの僕とあまり変わらなくて可愛らしい。


 たった数日なのに、学校全体にその存在が知れ渡り、同級生は勿論のこと、上級生からも告白を受けていた。


 なぜ、そんなことを知っているかって?


「はぁ~、ここって静かで落ち着くな」

「そうですな」


 マギーと一緒に静かな場所でご飯を食べていたら、そこが学校の告白スポットの近くだったせいだ。


「話ってなんですか?」

「あ、いや、えっと、好きです。付き合ってください」

「ごめんなさい」


 断じて彼女の後を付けたわけじゃない。流石に陰キャな僕でもストーカーまがいのことをしたりはしない。


 本当だぞ? 本当だからな?


 まぁ、気になって後学のために聞き耳を立ててはしまったけど。それはノーカウントということにしておいてくれ。


「そうだよな、マギー?」

「どうしたんですかな? 頭がおかしくなったのですかな?」


 マギーにまで変人扱いされてしまった。


 次に人柄。


 彼女はその容姿から陽キャ女子のグループと一緒にいることが多い。


 でも、彼女はそれ以外のクラスメイトにも分け隔てなくなく接していて、偉そうにしたり、人を見下したりしない。


 そして、人を楽しませる能力も持っている。


 どんな女子から話しかけられても、オシャレの話からドラマやアイドル、果ては小説や漫画に至るまで、どんな話題でも広げられる豊富な知識と、しっかりと話を聞いて相槌をうち、相手の聞いてほしいことを質問する聞き上手でもあった。


 あれだけ自分の話を興味をもって聞いてくれるなら、ついつい楽しくなって話してしまうのも仕方のないと思う。


 それに、彼女はすでに何度か告白を受けているけど、その際にも非常に丁寧で優しく、かつキッパリと断り、それでいて周りへのフォローや手回しも忘れないという処世術を身に着けているらしく、悪い噂も聞かない。


 そのおかげで彼女の評判はすこぶる良い。


 さらに、非常に真面目で、人の嫌がりそうなことを率先してやっている。クラス委員にも立候補していた。勉強も得意で、授業で分からなかった部分を教えて上げたり、休んだ人や板書できなかった人にはノートを貸してあげたりしている。


 その上、スポーツも得意で、体育の授業でも注目の的だ。


 身体能力は当然だが、健全な男子生徒としては、その完璧なプロポーション故に、どうしても男子の夢と希望が詰まった二つの小山に目が吸い込まれてしまうのは抗いようのないさがだ。


 自分以外が彼女に邪な視線を送るのは嫌悪感があるけど、僕は如月さんの友達じゃないし、まして彼氏なんかでもない。だから、僕に何かをする権利はない。そんな気持ちを抱くことすら烏滸がましい。


 知れば知るほど彼女は非の打ち所が見当たらない。僕なんかが近づこうと思うだけで、分不相応な程の存在だった。


 普通なら完璧すぎれば近寄りがたいものだけど、彼女の性格がその近寄りがたさを中和して、むしろ人を引き付ける。


 まるでアイドルだ。間違いなくトイレにも行かないに違いない。


 二次元しか推せなかった僕だけど、如月さんはその存在全てが二次元の理想を超えてくる。つまり、何の問題もなく推せる。


 如月さんは僕の最高の"推し"になった。


 一ファンとして応援しよう。陰キャな僕が彼女に近づくと迷惑になる。でも、それくらいなら許されるんじゃないだろうか。


 でも彼女のグッズなんかないし、握手券がついている商品もない。どうしたら彼女を応援できるんだろう。


 これは悩ましい問題だ。


「マギー」

「なんですかな、同士ヒッキー」

「だから、ヒッキーは止めろ。アイドルでもなんでもない一般人の推し活をするにはどうしたらいいと思う?」

「ふむ。得意なイラストでも描いたらいいんじゃないですかな?」

「それだ!!」


 陰キャな僕にも得意なことが二つある。勉強と絵を描くことだ。


 中学時代の半年間だけ友達だった女の子に勧められて本格的にイラストを描き始めた僕にはSNSでそれなりにフォロワーが付いている。


 その人たちに向けて如月さんをモデルにした漫画を描いて布教しよう。


 僕は早速漫画を描き始めた。

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