2-3 作戦、其の2

11月5日 水曜日

 午後6時頃、都内某所のカフェで佐野さんと再び会う約束をこぎつけていた。

 今日は午後4時まで働き、急いで帰り支度を済ませた。何せいつもとは違うメイクに服装、表情や声を作る練習も兼ねて1時間以上はかかる。


 午後5時50分、目的のカフェへ辿り着く。佐野さんの気配はない。

 そして5分ほど経過した時に彼は現れた。

「いやあ、お待たせ。電車が混み合っていて」

「全然、待ってないですよぉ先輩。入りましょ」

「う、うん」

 店内へ入りメニューを見る。真っ先に自分から見る当たりが、何というか、子供じみている。この人って見た目だけだったのかな。私はそんな風にk感じていた。

「ねえ、決まりました?」

「うん、ああ、ごめん、メニューどうぞ」

「ありがとうございます。ちょっと待っててくださいね」

 私はメニューを見ているふりをして、ズボンのポケットに手を伸ばす。

 念の為にボイスレコーダーの電源を入れ録音を開始した。

 そして、羽織っているシャツを直すそぶりで肩に仕込んだ小型のカメラを起動させた。一語一句、一挙一動を漏らすことなく撮るためだ。


 佐野さんからサークルについてや幸信仰会こうしんこうかいについての説明をより詳細に受けた。当然、エアローショップについてなども説明された。

 私は全力で知らないふりを貫き初見で聞いたように振る舞った。

 今の所、全くと言っていいほど気づいていないようだった。

 1時間ほど会食し今日は解散しようとしたところだった。


「氷上さん、ちょっとエアローショップへ寄って行かない。割と近くにあるんだよね」

「ええ、いいんですかぁ。もちろん行きます!」

 私がよく言っていた店だ。動悸が起きた。

 悟られぬように必死に我慢した。そして私が最初に聞いた説明を受けて会員登録を迫られるが、少し考えたいと断るとあっさり彼は身を引いた。

 佐野さんと別れ家へと帰る。


 新宿駅につき家まで歩いていると男に声をかけられた。

「ねえお姉さん、可愛いね。どこ行くの?遊びに行かない?」

「嫌ですよぉ、知らない人ですから」

 そういいながら睨みつけると、男はバツが悪そうに消えていった。


 そっかぁ、私ってこの見た目だと男受けするのかな。

 ますますこの計画の成功率が上がった気がした。

 

 11月8日、土曜日

 今日はテリアでアルバイトをしていた。

 何の因果かわからないが、絵里さんからメイクを教わり、見た目の雰囲気を変えれば、私を知っている人物に気づかれ難いのではと、メイクをしてもらうために10時前にテリアへと向かった。

 絵里さんにメイクしてもらうこと20分、気合を入れたメイクが出来上がったみたいだ。

 私が茉莉啞として佐野さんに接触した時のメイクと少し系統が異なるが、これはこれで凄くハマっていた。メイクってこんなに雰囲気が変わるものなのかと改めて実感していた。


「あら、絵里ちゃんおはよう。って茉莉花ちゃん?」

 花さんが私を見て驚いていた。絵里さんが説明してくれた。

「なるほど、確かに茉莉花ちゃんメイク映えするわね」

「そ、そうですか?」

「ええ、いつもも可愛いらしくて素敵だけど、今の茉莉花ちゃんも強そうで可愛いわよ」

 独特な褒め言葉であったが好意的に受け取ることにした。

 

 今日はレジ番をしつつ、店長さんがお休みのため、隙間時間に厨房で軽食作りを絵里さんと交代で行った。

 

 仕事終わり花さんに送ってもらって帰る。

 家へ帰ると絵里さんから律儀にメイクの手順を書いたメモがメールで送られてきた。絵里さんはなんだかんだ優しかった。

 私はメイクを落とし姿見鏡で自分の姿を見た時に不思議な感覚を抱いた。

 私は一体、誰なのだろうか?

 私がこれから行いたいことは正義なのだろうか?

 どうでもよかった。今は自分のエゴを押し通すために一生懸命だった。

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