1-19 中毒症状

7月23日 木曜日

 大学は夏休みへと入っていた。高校生の時と比べると一ヶ月半ほどある為、とても長く感じる。

 あれからショップでドリンクの購入を控えネットで買ったドリンクを飲んでいた。正直、物足りなさは残るが仕方ないんだと自分に言い聞かせた。


 午前11時、支度を済ませテリアへと向かう。

 しばらく経つがまだ勝己さんは逃亡の身で匿われているそうだ。

 テリアへ着くと、今日はいていた。

 店長と絵里さんは休みなため、花さんと2人で閉店まで交代で店を回すことになっている。

 ケーキなどの仕込みはすでに終わっていてある分だけの提供となる。


 午後2時、休憩に入った。

 今日は2人体制のため、近くのコンビニで買うことにした。

 適当なお弁当とジュースを買い、事務所へと戻る。

「茉莉花ちゃん、後でまた休憩いっていいから食べたら戻って来れる?」

 忙しそうな花さんの声が聞こえる。

「わ、わかりました」

 私は急ぎ気味で弁当を食すと再び店内へと戻った。


「す、すいません。今戻りました」

「ごめんねー、ちょっとお客さん増えてきちゃって」

「大丈夫です、何をすれば……」

「3番さんと5番さん卓にコーヒーとチーズケーキをお願い」

「わかりました」

 私は取り急ぎコーヒーを淹れ先に出す。

 その後、厨房に保管してあるケーキを取りに行き提供する。

 冷蔵庫内のケーキは残り数が少なくなっていた。

 私が来た時には結構、数があったのに。

 

 午後4時頃、お客さんが引いてきた。

「茉莉花ちゃん、休憩いってきていいわよ、ありがとう」

「い、いえ、花さんこそ休んでください」

「私は平気よ、茉莉花ちゃんも休まないと持たないわよ」

「大丈夫です」

 花さんは少し無理をしているように感じた。

「わかったわ、少しご飯食べてくるわね」

 そういって少しの間、事務所に入っていった。

 私は店番を続けていた。


 ー同時刻、都内某所ー

「勝己、これが今日の飯だ」

「ありがとうございます、わざわざすいません」

 ここは新宿にある某ビルの一室、奥井家のマンションの部屋がある隣のビルだ。

 テリアの店長こと奥井雅道が借りているオフィスになっている。

 元々は副業で借りていたが今は廃業している。だが残し続けていた。


「当面はここにいろ、あとは私がどうにかしてみる」

「そこまでは頼めませんよ、自分で自分のケツは拭きますよ」

「無理だろ、お前、指名手配されて顔と名前、割れてるんだぞ」

「それは、そうですが……」

 勝己は今は外に出られない。目撃されればすぐに捕まるだろう。

 だが、あいにく新宿という街は人が非常に多い。潜伏先としては適しているとも言える。

 

「なあ勝己、あの写真のテープ、どうやって手に入れた。警察内部から盗んだのか?」

「それが、知り合いに盗ませました」

「お前なあ、そりゃ別の件で捕まるぞ」

「でも、どうしても翔の無念を晴らしてやりたかった」

「でもじゃない、気持ちはわかる。息子のことを思ってくれているのは嬉しいが相手が相手だ。迂闊に出たな」

「これからどうすれば……」

「今は何もするな。こちらも信頼できるツテを当たろう」


ー午後8時、カフェ“テリア“

「今日はお疲れ様、疲れたでしょ」

「い、いえ、大丈夫です。花さんこそゆっくり休んでください」

「茉莉花ちゃんこそ、明日はゆっくりしてね、せっかくの夏休みなんだし」

「それなんですが、夏休みなので少し多めに来月は働こうかと思います」

「それは嬉しい、けど無理しないでね」

「は、はい」

 帰り支度をして花さんと一緒に店を後にした。


「そういえば、聞いていいのか分からないんですが、勝己さんはどこにいるんですか?」

「そうね、茉莉花ちゃんにも今は言えないわ。でも大丈夫、安心して」

 奥井夫妻は只者じゃなさそうだ、そう私は思った。

「ねえ茉莉花ちゃん、この前言ってた件なんだけど、その先輩とはまだ関係あるの?」

「い、いえ、もうあってないですし、サークルもやめようかと」

「そうね、それがいいわ。せっかく入ったサークルなのに勿体無いとは思うのだけど、幸信仰会こうしんこうかい、奴らと関わってはダメよ」

 一体、何があるというのだろうか。気にはなったがそれ以上の追求は避けた。

「それじゃあ、この辺で。茉莉花ちゃん今日もありがとう。おやすみなさい」

「は、はい、お疲れ様でした」


 家へ戻り、賄いとしてもらったケーキを食べていた。

 少し空気が籠っていたので窓を開ける。夏の夜の風が少し心地よかった。

 私は冷蔵庫からドリンクを取り出し飲む。やはりネットで買ったものは飲み心地が薄い。気のせいだろうか少し手が震えている。それにあの感覚を味わいたいという強い欲求に駆られる。


 翌朝、気づけばまたエアローショップに来ていた。ドリンクを購入し店を出る。一体、私は何をしているのだろう。そう思うがどうしてもやめられなかった。

 だが、佐野さんに購入しているとバレてしまうのは怖かったがそれ以上に飲みたい欲求、あの高揚感や多幸感を味わいたいという感情が怖さを上回る。

 なぜだろう、飲んでもいないのに購入しただけで不思議と気分が高まる。

 本当に麻薬なのだろうか、だがどうでも良かった。私はこれを飲めれば満足していたし、依存しているのだろうけどそれで良かった。

 私はどうしてこうなったのだろうか。

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