1-17 非力

7月15日 火曜日

 今日からテスト週間だ、今週と来週の講義が終われば夏休みに入る。

 2コマ目を優子と受けて、いつもより少し早めの時間に終わった。

 いつものカフェでお昼を取ることにした。

「そういえば、知り合いの人、どうなったの?」

「まだわからない、今は安全な場所にいるみたいだけど」

「そっか、無事に冤罪だってわかればいいね」

「う、うん」

 私は優子に相談してみた。

「ねえ、この前も言ったんだけどさ、私ねサークルやめようと思う」

 それを聞いた優子は少し安堵の表情を見せた。

「今はその方がいいかもしれないわね。サッカー部のマネージャーやる?」

「そ、それは無理」

「冗談よ、でも確かに危ないかもね。私もね先輩に聞いたらなんか怪しいとは言ってたわ。根拠はないみたいだけど」

「そ、そうなんだ」

「あの先輩とはまだ連絡とってるの?」

「い、いや、この前に少し会ったくらい」

「そっか、よく考えたら名刺渡してきた時点で怪しさ全開って感じよね」

「う、うん、いい人だとは思うんだけど」

 私はまだ心のどこかでは佐野さんのことが好きだった。

 でもこれ以上、踏み込んだら危険なことに巻き込まれそうで怖かった。佐野さんの気持ちよりも怖さの方が今は上回っていたし、教授に相談したこともあってやめようと思った。

 

 優子といつもより長めに話し、お昼を終えた。

 里見のことも気になり、メールで連絡を入れておいた。


 午後のテストもこなし、私は佐野さんにやめる旨を連絡した。

 もちろん、電話は怖かったのでメールで送った。

 するとすぐに返信が来て、一度会いたいと言われた。

 私は怖かったので断った。するとドリンクを割引で買えなくなるがいいのかと返信が来て、渋々、放課後に会うことになった。


ー午後4時、サークル席ー

 私は佐野さんに呼び出されていた。いつもなら嬉しいんだけど、今はなんだか複雑な気分だ。

 しばらく待っていると、佐野さんが現れた。

「いやあお待たせしたね」

「いえ、私も今来たところだったので」

「そっか、メールを見て驚いたよ、どうして辞めようと思ったのかな」

「その、勉強に集中したくて、アルバイトもしていて時間もとなそうで」

「アルバイトなら俺だってしてるよ、それに月に2回程度じゃないか」

「そ、それはそうなんですけど」

 私は何も言い返せなかった。確かに時間が取れない言い訳は通用しない。週に何回も活動しているような形ではないからだ。

「それに辞めてしまったらドリンクは買えるけど高くなるよ。あれはここのサークルに入っているとあの価格で買えて、お勧めするとキャッシュバックを受けれるシステムだかね」

 最初に聞いた話と食い違っている気がしたが黙って話を聞いていた。

「それに、最初にも言ったがここにいれば稼げるし、いいことだってある。君にとっても悪いことではないと思うんだけど、どうかな」

「そ、それはそうですね」

 凄い勢いで止めにかかってくる。私はやめる方向ではなく自然とフェードアウトしようと考え、この場では話を合わせて、やめるための方向性を変えることにした。確かに怪しいと思ってはいるが、ドリンクがあの価格で買えないのは痛手だったからだ。

 佐野さんとそういった方向で話をまとめ、私は帰ることにした。


 その日の夜、ドリンクを飲み少し落ち着いてご飯を食べた。

 その後、どうしたらいいか考えていると里見から電話があった。

「もしもし、茉莉花、やめるってどう言うこと?それに怪しい団体だっって」

「い、いや、そのサークルを支援している団体がカルト団体みたいなの」

「カルトって怪しいってことだよね。でもボランティアと何の関係があるの?」

「そ、それはわからないけど」

「まあ茉莉花がやめるって言うのを引き止める気は無いけど、私はボランティア好きだから続けるよ。怪しいって言っても今のところはそんな感じ全くしないし」

「そ、そうだよね、ごめんね」

「茉莉花こそ、佐野さんはいいの?好きなのに」

「そ、それは諦められないけど、今はなんだか怖くて」

「何かされたの?」

「そう言う訳じゃないんだけど、少し1人で考えてみるね」

「ううん、まあそう言うことならこっちもわかった。また何かあったら連絡してね」

 そう言って電話を終えた。私は思い知った。誰かに訴えたくても今の私の発言には信憑性がない。教授やテリアの面々が怪しいからと言ってはいるが、それを伝えたところで私自身には何の力も説得力もない。自身の無力さを痛感してしまった。

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