第39話 従魔の躾け方

 苦しさを覚えて目を覚ますと、僕のお腹の上にはアデラインの頭が乗っかっていた。

 多少大きさを変えることが出来るアデラインだけども大型犬より大きいので普通に重い。


「アデライン、重いからどいてくれ」

「アウ」


 起きていたのか、大人しく顔を上げそのまま立ち上がるアデライン。見上げる形になるがやっぱり大きい。

 真っ黒で美しい毛並みと凛々しく端正な顔つきはかっこよくて美人さんだ。


 時計を確認するともう直ぐ日が昇る時間だった。

 周りを見渡しても他の冒険者たちは夜番が数人起きている程度で朝の準備をしている者はいない。


 僕たちは今日中、それも出来るだけ早く外に出たいので僕は早速朝食を作ることにする。

 厚さ3cmほどの魔法陣が描かれた金属板をアイテムバックから取り出し、小さな窪みに魔石をはめる。

 この魔石は魔力供給源として使うもので、エリーがたくさん持っている魔石とは用途が違う。


 少しづつ熱くなるこの金属板、小型魔導コンロの上にフライパンを乗せ油をひく。

 ベーコンや卵を適当に焼いているとエリーが目覚めた。


「美味そうな匂いがするな」

「おはようエリー、もうすぐ出来るから待ってて」

「おはよう、大人しく待たせてもらう」


 パンに切れ目を入れて焼いたベーコンと卵、それとレタスを挟んでトマトソースをかけて完成だ。


「はい出来たよ、デザートにリンゴもあるからね」

「ありがとう、早速いただくとする」


 エリーはそう言うと大口を開いてかぶりつく。毎回思うけど美人だからギャップがすごい。見た目からは想像が出来ないワイルドさだ。普段人前ではクールキャラだけど食事の仕方だけは冒険者だなと思う。


 リンゴをいくつかに切って渡すとシャクシャクと美味しそうに食べるエリー。

 それを羨ましそうに見るアデラインとラシャド。

 二匹は僕たちが食べ終わった後でないと食事を与えられないからだ。

 まるでペットへの躾だなと思ったが、ペットも従魔も躾のやり方は変わらないらしい。


 僕たちの食事が終わると二匹に餌を与える。基本的に味付けなど何もしていない生肉を与えていて、たまに焼いた肉を食べさせる。それと少しばかりの野菜だ。

 ちなみにベンも僕たちの食後に食べることになってはいるが、基本的にベンの餌はベンの影に収納しているので黙って食べている可能性はあるだろう。一度計算が合わないことがあったので恐らく再犯しているはずだ。


 三匹が食事を行っている間に僕とエリーは片付けと準備運動だ。

 やっと他の冒険者パーティは数人が起きてきたがそれでは遅い。狩りは朝早くからしないと時間が勿体無いぞ。


 そんな事を思いながら三匹の食事が終わったので早速ダンジョン入口まで走り出す。

 道中は冒険者を見かけない。いや実際は出会うのだが、それはどこもセーフティエリアだった。


 うーん、もしかしてここに潜る冒険者たちはあまり朝から活動しないのかな?

 まあゴブリン相手は精神的に疲れるところもあるから十分に休憩を取ることも悪いことではないのかもしれない。


 道中何度か休憩を挟みつつもおやつの時間までにはなんとか外へ出ることに成功した。


「ダンジョンの管理責任者って今いますか?」


 汗を拭き、喉を潤しながら近くにいた管理人の1人と思わしき男性へと質問する。


「私がそうですがどうされました?」

「少し報告したいことがあるのでゆっくり出来る場所でお話しできますか?」

「失礼ですが先にギルドカードを拝見させてください」

「どうぞこちらです」

「Bランクパーティ【捕食者プレデター】のホープさんですね。ありがとうございます、すみません決まりなもので気を悪くされたでしょう」

「いえ、これくらいで気を悪くしていたらデバッファーなんてやっていけませんから大丈夫ですよ」


 最後の僕の言葉に彼は苦笑いしか出来てない。ルーキーのデバッファーがどういった扱いを受けるか分かっているからこその反応だな。


 僕たちはダンジョン横へ併設された建物へ案内され、奥の部屋へと通される。


「そうだ、紹介が遅れてすみません。私の名前はアイザックと言います。それで報告があるとの事ですが」

「まずコチラを確認してください」


 そういって僕はオーガジェネラルとクイーンの映像が記録された魔石をアイザックへと渡す。


「では失礼して」


 直ぐに映像の確認をしたアイザックはそこまで反応を見せない。


「オーガのジェネラルとクイーンですか。となりますとお二人で45階層まで潜ったという事ですか?」

「いえ、今回僕たちは20階層までしか潜ってません。そしてその映像は20階層で撮ったものになります」

「20階層で……ちなみにこの二体はどうされたので?」

「討伐して死体は持ち帰ってきました」

「それはありがとうございます。後でこちらでも確認させてください。それとこの事を知っている冒険者は他にもいますか?」

「一応ダンジョンを出るまでに出会った冒険者たちには伝えましたが、反応はあまり良くなかったですね」

「そうですか、報告ありがとうございました。冒険者ギルドへ報告と調査依頼を出したいと思います。すみませんがこちらで少しお待ちください」


 冒険者ギルドへ報告と調査依頼か。嘘や真実など関係ない。どちらであろうと調査しなくてはならない案件だからね。

 ただ今回発見した二体しか存在しなかった場合、虚偽報告と認定される可能性がある。正直それは萎えるので、どうせなら15階層辺りまで数匹迷い込んできて欲しいな。ついでに一つか二つパーティを崩壊させてくれていれば言う事なしだ。


「調査依頼ってなるとCランク以上じゃないと難しそうだけど、どれくらい町にいるんだろ」

「さあな、ただ先日返り討ちにしてやった奴らのバックにBランクパーティがついてたらしいから少なくとも1パーティはいるんだろうさ」

「丁度よく暇してるといいけどね」


 僕たちが話しているとアイザックが戻ってきた。


「お待たせして申し訳ありません。すみませんがコチラを冒険者ギルドへ届けてもらえますか? 出来ればギルドマスターへ直接お願いします」

「分かりました。オーガジェネラルとクイーンはどうしますか?」

「裏で一度確認させてください。その後は冒険者ギルドへお願いします」


 アイザックの言葉に従い、建物裏にある倉庫と呼べる場所で二体を取り出す。

 するとアイザックは映像として魔石へ記録していた。


 その後は回収して、アイザックを待っていた間に用意していてくれた馬車に乗り込み僕たちは町へと帰ることにした。


――――――――――

明日2日は5時4分と22時4分に1話ずつ、計2話を投稿させていただきます。

引き続きどうぞよろしくお願いします。

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