ロードオブハイネス

宮野徹

序章

第1話 傲慢なる令嬢

人には生まれつき役回りというものがある。長男で生まれれば、家を背負って立つ者となり、女で生まれてくれば、家事をし、子を育てるなどと、人それぞれに役回りはあるだろう。

私にとっての役回りは、帝国の、未来の国王の妃となることだった。



「おはようございます。ロウ様。」


メイドであるライラが、いつものようにノックもせずに部屋へ入ってくる。こっちがまだ寝ていることをいいことに、そんな行動をとるのだから、生意気なものだ。だが、私室で大きな音をたてられても、布団を捲られても起きないことを知っているから、そんなことをするのだ。


「早く起きてくださいまし、ロウ様。朝食の用意は、すでにできておりますよ。」


そういいながらも、ライラはカーテンを開けて、部屋中に朝日を取り込んでいっている。布団から起きられないものの、目は覚めているから、その光は目を閉じていても嫌に明るく感じられた。


「うーん、おきるってばー。」


本当なら、あと五分、いや、十分くらい寝ていたのだが、この生意気なメイドは、いつだってそれを許してはくれない。すべての窓を開け終えたライラは、ようやく主の寝台に向き直り、私に覆いかぶさる毛布を勢いよくはぎ取った。


「ロウ様、朝でございます。早く朝食を取ってくださいませ。」

「ん・・・。寒いんだけど。」


いい天気なのだが、この季節にすべての窓を全開で開かれると、朝方は酷く寒い。いや、寒すぎる。


「せめて私が起きるまでは閉めててもいいじゃない。」

「なら、もう少し早く起きるようにしてください。ロウ様の朝は遅すぎます。」


遅いか?まだ時計は9時を回ったころだというのに。世の人間はどうしてこんなにも早く動き始めるのだろうか。もっとゆっくり朝の一番気持ちのいい時間を、寝台の中で過ごせばいいものを。おかげで私の朝のルーティーンは、徐々に早まりつつあるのだ。


「さ。着替えを持ってきてありますので。さっさと着替えて、食事をとってきてください!」


寝台から転がされるように追い出され、私はライラが持ってきた私服を着る羽目になった。本来であれば、着替えなんて言うのは、メイドたちが着せてくれるものなのだが、毎日毎日寝坊をしているので、メイドたちが来てくれなくなったのだ。彼女たちには彼女たちの仕事があるとライラはいうが、主人である私の世話より大事な仕事って、いったい何だという話だ。そんなやり取りをしているうちに、自分で着替えるということを覚えてしまったのだ。


「またこれ着るの?」


更衣のためについたてを広げてから、ライラの持ってきた着替えを確認すると、また大仰なドレス風の礼服だった。


「わたし、もっと楽な服がいいんだけど。」

「それでもさっぱりしたほうです。不必要な装飾を外して、よりシンプルに。しかしそれ以上は公爵令嬢としての威厳に関わります。裁縫士も頭を悩ませていましたよ。ロウ様は注文が多すぎると。」


確かに、まだわがままを言わない年頃に着せられていた頃と比べれば、ぴしっと引き締まるような趣がある服だが、この世界では、パンツスタイルが存在しないのだ。私はズボンが穿きたい!


「何を着てもよく似合うのですから、文句を言わないでください。」

「だって、こういう服って、ひとりじゃ着替えるの大変なんだもん。」

「ですから!朝早くに起きてくださいと言っているのです。皆喜んでお召し変えさせていただきますよ。」


結局そこにたどり着くのか。わがままを言えば言うほど、ライラは頑固になっていく。こういうやり取りも、嫌いじゃないから私は、自分の生活を改善しようとは思わない。なにせ、ここでは、こんな風に会話ができるような人が、いないのだ。




ここは、公爵貴族アダマンテ家が有する別邸。私の屋敷だ。13の時に父からこの別邸を授かり、以来、ここで過ごしている。別邸といっても、実家であるアダマンテ領城とほとんど離れておらず、徒歩三分という通勤時間は、父が娘離れできていない証拠と言えるだろう。そんなこと本人に行ったら怒られるだろうけど・・・。


そんな父だから、私の周りの者たちもみんなアダマンテ家専属のメイドや従士たちだけだ。一応、公爵家でメイドをやれるほどだから、誰もかれもみんなお堅い人柄、私としてはもっと気楽に接してほしいのだけど、だれも主の願いを叶えてはくれなかったのだ。このライラも、少しはやんわりとしたように感じるが、私が望むようなメイドにはなってくれないのだ。それも仕方がないこと。何せ自分は、公爵令嬢、それに加え、次期国王の妃になる可能性のある人間だ。メイドとはいえ庶民。身分差から恐れ慄くのは当然なのだろう。


出来ることなら、もっと融通の利く家に転生したかったものだ。


そう、私には、前世の記憶が存在する。前世、と言えばいいのか、あるいは前生というべきか。ここではない別の世界。そこでの記憶を覚えているのだ。8歳くらいの時に、ふとデジャブに陥ったことがあるのだけど、それがきっかけだったのだ。その時は本当に驚いたものだ。なにせ、身も心も8歳の状態で、25年分の記憶が鮮明に思い出されたのだから。


私は前世で25年生きていたのだ。いや、25年しか生きられなかった、というべきかもしれない。元居た世界では、若くして亡くなったといえるだろう。最も、こうして今知らない世界で生まれ変わったのだから、それほど悲観しているわけではない。だって、この世界の私はまだ17歳。人生をやり直すには十分な時間がある。こんなにも幸運なことはないでしょう?


「ロウ様。襟がねじれておりますよ。」


着替え終わったつもりでも、ライラは身だしなみのチェックをして、気に入らない部分を直していく。お前は、学校の先生か!これなら最初から面倒を見たほうがいいと思うのだが。彼女は決して手を貸してはくれない。


「終わったら、髪も結ってくれる?」

「はいはい。わかっております。その前に、スカートのすそを・・・。」


そういいながら、今度は裾を伸ばし始めた。それくらい全然いいのに。


髪を結ってもらった後、ダイニングに向かうと、長テーブルの端っこに、一人分の食事が並べてあった。料理からはわずかに湯気が立ち上っていて、どうやらつい先ほど用意されたようだ。これも、私が、冷たい食事なんて食べたくない、といったことがきっかけだ。だって、冷めた料理ほどまずいものはないでしょう?料理は出来立てが一番おいしいんだから、それを、毒味だのなんだのってやってるうちに冷ましてしまうのは、つまらないことだ。


私には毒味の必要ないから、温かい料理を出してちょうだいと、屋敷のコックたちには言い聞かせている。はじめは彼らも戸惑っていたが、慣れなのだから、すぐに順応してくれた。おかげで、毎日出来立ての温かい食事を口にすることが出来ている。


「今日は・・・パンか・・・。」


ご飯が食べたい。そう思っても、この国の主食が小麦である以上、白米を食べることができない。どうにかできないものか。


「ロウ様。」


食事に手を付けていると、屋敷の従士長であるハイゼンが近くに寄ってきた。


「お食事を終えたら、領城より招集がかかっております。馬車の用意はできておりますので、ご準備ください。」

「何?お父様が呼んでるの?いいわよ、馬車なんて。歩いていくから。」

「しかし、本日はお客人も来城なさると聞いておりますので、お見苦しい姿をお見せになるのは・・・。」

「いいってば。庭の花でも摘んでましたって言えば、それっぽくていいでしょ?」

「はっ、では馬車は下げさせていただきます。」

「誰が来るの?」

「アダマンテ領北方州の統治を任されているユース侯爵と、そのご子息が来られるそうです。」

「ユース侯爵?あぁ。最近、北部の魔物が活発に動いてるんだっけか。」


ユース侯爵とは面識もあるし、息子さんはまだ10歳のかわいい盛りの子だったから、それほど堅苦しい謁見にはならないだろう。ただでさえ貴族たちの話は、回りくどくて好きじゃない。身分が上か下かで口調を変えなければならないのは、学生時代の先輩後輩みたいで面倒くさいのよね。


「とにかく、ロウ様。あまり羽目をお外しにならないようお願いいたします。」

「ん。わかってるってば。」

「先月のような行いは、金輪際なしにしていただかないと。」

「んー。わかってるってば。」


先月のことか。まぁ確かに、とんでもないことをしてしまったという自覚はあるが。けど、それくらいに許容できないことだったのだ。だって私は、生まれた時から、その役回りを全うするために生きてきて、それを成すための教育を施されてきた。それなのに、あんな話はまるでそれらすべてを否定されてような気分になった。それを黙って許容できるほど、私は寛容な人間じゃない。

何があったかというと・・・。王家との縁談を断ってしまったのだ。



グランドレイブ帝国。大小20の貴族と帝国王族によって成り立つ大国家。地図で言えば、その領土はちょうどひし形のような形をしている国だ。領土の中心に、巨大なグランドレイブ山脈がそびえているため、もし大地を客観的に見る術があれば、この国は四角錐の形をしていたことだろう。


実際に図ったことはないけど、北端から南端までの距離は、3000ルクスと言われている。1ルクス1キロメートルと大差ないから、3000キロメートルということになる。北海道の先っぽから、沖縄までの距離が、確かそのくらいだったから。日本国を丸々覆いつくすものと考えれば、相当巨大な国であることは、幼いころの私でも理解できた。


北部、南部、西部、東部と、それぞれ公爵家が納める領土に分けられており、さらにそれぞれ4つの州にわかれている。北部領北部州、というように。


領、州には治める貴族が配属されていて、私の家、アダマンテ家は北部領主ということになる。領主は4人しかいなくて、全て公爵位を授かっている。王族に最も信頼されている者でもあり、国の要という重鎮達だ。


また、四領十六州とは別に、帝国王族という、貴族とは別の者たちもいる。その名の通り、帝国王家とその血を分け合った一族が、グランドレイブの中心にある王領を治めているのだ。王領は、どの領、州にも属さず、主にグランドレイブ山脈のことを指している。魔法による開拓技術が確立されてから、グランドレイブ山脈は、もはや自然の要塞ではなく、人間の手によって山脈そのものが人工要塞となっているのだ。王領には、王都をはじめとしたさまざまな都市が建設されている。それらを治めるのが帝国王族の務めだ。


そんな帝国王族と、大小20の貴族たちを取りまとめるのが、現国王であるジエト三世だ。名をジエト・アーステイル・リンクス。齢48になる。アーステイル家は、古くからグランドレイブ周辺の領土を治めてきた古き一族で、帝国が興った1300年前から、変わらず王家を全うしている名家だ。帝国の体制が盤石と言われるのもその名家が、他の貴族たちと血を分け合い、王族を絶やさなかったからだ。現在、分家の数は8つも存在するが、そのどれもが次期国王に可能性を秘めた王族なのだ。


王家というものは、基本的に主軸となる宗家があり、分家はあくまで親戚という扱いだ。しかし、この帝国は、それに限らず、血が途絶える可能性を考慮し、分家と宗家が入れ替わることも歴史的に少なくない。すべては帝国臣民のため、王がいてこそ、臣民は幸福を手にすることが出来る、という帝国の理念が、そのような継承法を確立したのだ。


1300年もの間、そうやって大きな国を動かし続けてきたのだから、アーステイル家は名家と呼ばれるにふさわしいとは思う。だけど、この継承法がなんの問題もないかと言われればそんなことはない。

分家と宗家が入れ替わるというのは、言い換えれば、権力の在り所が移り変わることでもある。王族として地位や権力を、親戚とはいえ、他の家に明け渡さなければならないのは、どんな高貴な人間であっても、屈辱的なことだ。


それに、こういうシステムならば、よりよい王を選出するという風潮が出来上がってくる。無能な王よりも優秀な者に帝国の舵を任せる方がいいに決まってる。つまり、実力での下剋上が可能になってしまうのだ。国王の息子だから、とか、長く王を務めていた家のものだから、というような保守的な考えがなくなって、まったく関係のない他家からも、積極的に次期国王候補になることが出来る。例え、帝国王族となっていなくとも、適当な王家の令嬢と婚約することで、正真正銘の王家になることが出来るのだ。


そんなだから、どの家も、一縷の望みに託すかの如く、才能ある倅を欲しているのだ。単に勉学や剣術に長けているだけではなく、特異な才能を持っていたり、魔法力が人並以上に高かったり。まるで子供で育成シミュレーションをしているかのように、たくさんの縁談話が日夜飛び交っている。


そして、私自身もまた、その面倒くさい渦に飲み込まれそうになったのだ。


話を戻そう。先月の王都で行われた貴族会議にて、父のもとにある話が持ち込まれた。ある帝国王族からの縁談の申し出だった。



「お断りします。」

「は?」


父の顔は、これまでにないほどの変顔になっていた。怒っているのか、呆れているのか。口をぽかんと開けたまま今にも笑い出しそうな、そんな顔だ。それも当然。なにせ、私は、現国王の弟君に当たる、アーステイルの分家エクシアからの縁談を、父の判断も待たずに断りを入れたのだから。


「お断りしますと申し上げました。お父様。」

「い、いや、待て、ロウ。まだ何も言ってないぞ。」


慌てふためく父は、縁談を持ち掛けてきた使いの者の顔を伺っていた。私も、相手が国王に近しい一家の縁談という話は分かっていたが、正直そんなものはどうだっていいと思っている。私がこの縁談を断る理由は、とにかく相手がいやだったからだ。


「いいえ、お父様。エクシアとの縁談など、私は嫌です。」

「嫌!?ロウ令嬢。我が主からの申し出を断るということが、どういうことかわかっているのか?」


顔を真っ赤にしてエクシアの使いの者が、私に指さしをしてくる。


「さぁ?あなた方の申し出を受けて、私にどんな理があるというのでしょう?」

「なんだと。次期国王候補である若殿下の妃になる名誉を、棒に振るというのだぞ。貴殿の務めは、次期王の妃として、帝国を導いていくのが務めではなかったか!」

「あらあら、名誉だの、導くだの、そんな難しい言葉を使って。はっきり言えばいいじゃないですか。私が欲しいのだと。政略結婚に頼らなければ、御家の存続に関わるのです、と。」

「何を!」

「アダマンテの血統のみが有する特性。それくらいのことがないとエクシアは、王候補に名乗りを上げられないのですって。わかっていますよ。今のエクシアの状況を考えれば、あなた方が私を欲する理由なんて容易く想像できます。」

「それがどうしたというのです?あなたも貴族の人間であるならば、そんなこと重々承知のはずですが、いったい何が気に入らないというのでしょうね。」


そう。彼は気づいていない。今しがたエクシアの使いの者が言ったことが、一番気に入らないということに。私は、よりよい人間を生み出すための道具になるのが、嫌だったのだ。


「何が、なんて、あなたが知る必要はないでしょう?あなたが何を言っても私の気が変わることはありません。どうぞ、お引き取りを。」

「なっ・・・。こんなことをして、我が主が黙っていないぞ!」


そうやって脅しをかけたって、この世界では何の役にもたたない。特に、この帝国においては、権力というものは、実力によって覆されてしまうのだから。


「あら、それでは、アダマンテに害を成す前に、あなたの口をここで封じましょうか?」

「えっ!」

「待ちなさい、ロウ!」


父の制止も構わずに、私は思うがままに魔法を使った。


「古き神の零涙(れいるい)を以て、我が敵を討つ剣(つるぎ)よ来たれ。」

「まて、待ってくださいご令嬢。今のは、冗談で・・・!」


使いの者は、腰が抜けたのか、その場で崩れるように座り込んでしまった。そんな彼の周囲に、今しがた魔法で生み出した氷の剣が、その切っ先を彼の喉元に向けて佇んでいた。


「ふふ、面白い冗談ですね。それならば、今回のことは不問といたしましょう。・・・炎転(えんてん)!」


掛け声と同時に私は、氷の剣に向けて別の魔法を行使した。何もないところから、火が起こり、一瞬にして氷の剣が水と化し、それは使いの者の頭に盛大にかかってしまった。


「少しは頭が冷えましたか?ロイオ様にもよろしく伝えておいてください。」


そういって私は、スカートの裾をつまみ、令嬢らしい挨拶をした。それ以上何も言わずにエクシアの使いは逃げるように応接間を出ていったが、残された父は両手で顔を覆っていた。


「お父様。どうしたのですか?」

「はぁ。どうしたもこうしたもない。お前という奴は、・・・。」

「あっはっは・・・。すみません。」


だが、父から咎められることはなかった。きっと私の意図を組んでくれたからだ。私も、単なるわがままでこんなことをしたわけではないのだから。



貴族会議は、滞りなく終わり、私と父はそのまま何事もなく北部領へ帰ることが出来た。ただ、帰りの馬車の中で、父と交わした会話は、とても寂しいものだった。


「ロウ。これからどうするんだ?」

「どう、とは?」

「誰とも結婚しないつもりか?私は構わんが、孫の顔を見てみたいという親心も、ないわけじゃない。」

「・・・私は、あの人の妃になるために、今まで過ごしてきました。それ以外の方との結婚なんて・・・。」

「・・・お前、やっぱり、アルハイゼン殿下のこと。」

「ふふ、いーえお父様。私、恋心というものがいまいちわからないんです。前にも言ったでしょう?・・・でも、あの人になら、ついて行ってもいい。あの人のために、一生を捧げるなら、それもいいと思っていました。ただ、・・・それだけのことです。」

「・・・あぁ、本当に、惜しいお方を亡くしたな。」


涙こそ流れていなかったけれど、私も父も、泣きたい気分になっていたのは、間違いないだろう。

これから先、縁談が持ち込まれるたびに、こんな思いをしなければならないのは、すごく面倒なことだけど、仕方がないことなのだ。


私には、許嫁がいた。15の時に婚約を交わし、それ以前から、次代の国王、王妃となると決められていた。現国王の長男である、アルハイゼン・アーステイル・リンクス。彼は、若くして不治の病にかかり、亡くなってしまった。稀代の秀才と呼ばれ、武術、魔法、知性、あらゆる能力に長けた、まさしく王の器を持って生まれた人が。


父にも言ったように、恋をしていたわけじゃない。もともと恋愛に興味はあっても、前世でも色恋には縁がなかったし、転生しこんな家に生まれたから、恋愛結婚が全てではないことも理解している。それでも、あの人になら、一生を捧げてもいい。そなふうに思わせてくれる人だった。王として、あの人が立てばどんなに良かったか。けど、アルハイゼンは死んでしまった。当然、婚約だって無かったものにされた。相手のいなくなった私は、他の誰かと結婚するという風に、なかなか考えられないのだ。実際に結婚したわけじゃないから、未亡人、という表現は間違っているのかもしれないが、彼女たちの気持ちが、今は少しわかるような気がする。


アルハイゼンを前にすれば、他の王族連中なんて、霞にも等しいくらいだ。この日をきっかけに、私は、貴族たちの間で、傲慢なる妃、という不名誉なあだ名がつけられてしまったのだが、まったくもって気にならなかった。


それはむしろ、私にとっては名誉なことだ。だってそうでしょう?アルハイゼン以外の男と結ばれる気はないと、自他共に認められたということなのだから。傲慢で結構。貴族や王族なんて、もともと傲慢な連中が多いのだから、今さら何を言っても変わらない。言いたい人には、言わせておけばいい。言の葉は人を傷つけることはあっても、服従させることはできないのだ。


私の名は、ロウ・アダマンテ・スプリング。帝国が誇る公爵家が一つ、アダマンテ家に生を授かった。そして、次期王妃となるはずだった、傲慢なる令嬢。例え誰が何を言おうと、半端な政略結婚など、受け入れはしない。私の横に立ちたければ、あの人をも超える殿方を連れてくるといい。例え、生涯独り身となろうとも、私は、これを貫き通して、この一生を終えるつもりだ。


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