第2話 信じられないことを言う幼馴染

 俺はまだ蒼乃ちゃんが池好の恋人になったことが信じられないでいる。


 蒼乃ちゃんが、


「今までの話はすべて冗談でした」


 と言ってくれることを願う気持ちは強かった。


 しかし……。


「冬一郎くんの言う通り、冬一郎くんは素敵な男性。わたし、五日前に冬一郎くんに告白されて、ものすごくうれしかった。それと同時に、なんで陸定ちゃんの告白を受けてしまったのだろうと思ったの。冬一郎くんと陸定くんじゃ、魅力に差がありすぎる。冬一郎くんが先に告白してくれたら、いくら幼馴染だからと言って、陸定くんと付き合うことなどなかったのに……これだけは残念なところだと思っているの」


 最後の方は少し池好をなじり気味になりながら言う蒼乃ちゃん。


「ごめん、ごめん。蒼乃さんが夏井と幼馴染だって言うから、二人に遠慮していたところはあったんだ」


「そんな遠慮、しなくてよかったのに」


「そうだ。俺が間違っていたよ。俺は蒼乃さんのことを昨年の春に知った時、一目惚れしたんだ。でも、今まではずっと我慢していた。幼馴染がいることは知っていたんで、ずっと遠慮していたんだ。蒼乃さんが俺のことを受け入れることがわかっていたら、一目惚れした時点で告白しておけばよかったね。ごめん」


「今が幸せならいいじゃない。わたし、冬一郎くんのことが好きよ」


「俺だって蒼乃さんが好きだ」


 俺はだんだんみじめな気持ちになってきた。


 蒼乃ちゃんは、もう池好に心を奪われている。


 かつて、俺に見せてくれていた好意はもうない。


 すべてが池好に向いている。


 二人はラブラブだ。


「さて、夏井。蒼乃さんはお前と別れると言っている。そして、俺と付き合うと言っている。もっとも、もう俺たちは既に付き合いだしているんだ」


「付き合いだしている?」


「そうだ。蒼乃さんが俺の告白を受けてくれた翌日にはデートをした。そして、その日の夕方までに俺たちの仲は急接近した。そしてその日の夜、キスをした後、二人だけの世界に入っていくことができた」


「キス、二人だけの世界……」


 俺はその言葉を聞いても、その意味を把握するのを避けようとした。


 蒼乃ちゃんと付き合い始めてからまだ一か月ほどの俺は、蒼乃ちゃんとそういうところまではまだ進んではいけないと思っていたし、そういうことを思うこと自体避けなければいけないと思っていた。


 それなのに、池好は蒼乃ちゃんとそういうことをしたと言う。


「お前は、蒼乃さんとキスすらしていないというじゃないか? そこまで進めなかったということは、蒼乃さんはそこまでお前のことを好きでなかったのだし、お前も蒼乃さんのことがそこまで好きではなかったとうことだ。俺はその点お前とは違う。俺はそういうことがしたくなるほど蒼乃さんのことが好きだし、蒼乃さんの方もそういうことが好きになるほど俺のことが好きなんだ。なあ、蒼乃さん」


「冬一郎くんの言う通りね。わたしもそういうことをしたくなるほど冬一郎くんが好きになったの」


 うっとりしながら、池好のことを見つめていく蒼乃ちゃん。


 俺は次第に心が壊れ始めていた。


「蒼乃ちゃん、俺は、俺はあなたのことが好きなのに……」


「もう蒼乃さんは俺のものになったのだ。あきらめたらどうだ」


「あきらめる?」


「そうだ。お前は幼馴染っていうだけで、蒼乃さんの恋人になった。でもそれはそれだけの話でしかない。しょせん、蒼乃さんとお前はつり合いのとれる存在ではなかったのだ」


「わたしは魅力があると思っている。何と言っても学校一の美少女なのだから。これはただのうぬぼれではないの。周囲の人たち全員がそう言ってくれている。魅力のないあなたとはつり合わないと思っていたけど、幼馴染ということで好意はあったので、あなたの告白を受けた。でもわたしとつり合う男性が現れたらすぐ乗り換えようと思っていた。そこに現れてくれたのが、冬一郎くんだったの」

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